小池:うーん、なるほどね。大企業に本当に勝てるのかといった不安な面は考えなかったんですか。
高須賀:考えなかったですね。なんかわからないけど、可能性を感じました。
小池:ウェブベースの製品で、販売方法も違うからだと。確かにあの時代はまだパッケージ商品をすごく高い金額で企業向けに売っていた時代ですから、そういう意味で振り返るとチャンスがありましたね。グループウェアという商材でさまざまな製品を出すというもともとのアイデアからすると確かに可能性があったんだけど、逆にそれ以外のものをやらなかったのは何か理由がありますか。やっぱりフォーカスして、選択と集中という考え方ですか。
高須賀:そうですねえ……。最初にイメージしていたビジネスモデルとは若干違いますが、そこにちょっと新しいものを入れれば、勝算を絞り込んでもうまくいくかもしれないと。何でかわからないですが、そう思っちゃったんですね。そこはもう自分の中ではちゃんとロジックを立てて考えていないですね。
小池:僕はおそらくその頃にお会いしたと思うけど、カタログで最初は何か子どもだったかな。すごく優しげでフレンドリーな、心温まるソフトウェアという感じのイメージだったような気がしていたんだけど。
高須賀:すごくよく覚えていますね、そのとおりです(笑)。そのカタログを知っている人はいないですよ。サイボウズ社員の中にも。
その後、アメリカンコミック調(サイボウズマン)に切り替えたのは青野ですね。ある意味それは彼のセンスを信じるしかなかったんですけど、僕は相当抵抗がありました。松下時代からのライフワークとして、ホワイトカラーの生産性を向上させるために何かをやっていくことで、それをビジネスにしていきたかったのですが、あのキャラクターにはインテリジェンスのかけらもなかったですからね(笑)。これがほんとに受け入れられるのかなという、そこにはちょっと抵抗がありましたけど、もう役割分担ということで割り切りました。
小池:覚えていますが、その時相談されたのは、価格設定とか、売り方とか、その辺をまだ悩んでいた時代だったんじゃないかと思うんですよね。で、僕はHotmailのお話をした覚えがあるんですよ。Hotmailって、それこそ、無料ですよね。非常にユーザーからありがたがられて、なおかつ無料だから、どんどんバイラルに(伝染するように)、口コミで広まっていった。ある意味で、新しいマーケティングの手法として、のちにバイラルマーケティングとなった基礎ですが、そのお話をしたのを覚えているんですよ。
その時に僕は、とにかくユーザーにありがたがられるものを作った方がいいとアドバイスしたように思います。僕もずっとソフトウェア業界にいたけれど、どちらかというと、それまではメーカー側が「こんな機能があればいいんじゃないか」という押しつけのパッケージ商品みたいなものが主流で、売るほうも疑問に思いながら高い商品を売っていた時代でした。
そうじゃなくて、インターネットの発達によって、モザイクにしろ何にしろ、基本的にはすべてタダで、なおかつこんなに便利でエキサイティングなものがあると、そういう感動が横に口コミでバイラルに広がって。だから、ぜひそういう視点で製品を作ってくださいと言った覚えがあるんですよ。
サイボウズ自体、キャラクターも変えて、その後、ばーっと広告を展開しましたよね。
高須賀:ガンガンやりました。すごい意志決定ですよ。売り上げの50%を広告宣伝費に投下するという。
小池:やっぱりその大胆さというか、アメリカはもうそうだったんですよ。
高須賀:当時アメリカはそうだったんですよね。で、アメリカは半分突っ込むけど大赤字。でも、サイボウズは半分突っ込むけど利益もちゃんと出ているみたいな(笑)。
小池:もうスピード・トゥー・マーケットで、あの時代はもたもたしていたら他社に取られてしまう。ウィナー・テークス・オールで、とにかく先にやってナンバー1のシェアを取れという時代でしたが、ある意味で日本人とか日本企業ってそれができないんですよ。ちょっとずつ、やりながら様子を見てやっていきましょうという感じで。
高須賀:ガード、堅すぎですよね。
小池:リスクをミニマムにするようなやり方というか、経営スタイルがほとんどでしたから、そう言った意味ではあれはすごく気持ち良かった。一種の賭けだろうけど。ところで、設立から何年で東証マザーズに上場したんでしたっけ?
高須賀:ちょうど3年ですね。
小池:当時から言えば早いほうですよね。
高須賀:ちょっと早すぎたかなという気がしますね。売上が年間で8億円ぐらいの規模のときの上場ですから、そんな気がします。
小池:でも、会社自体、従業員もかなり急拡大していって、それでまたすぐに東証2部に上がりましたよね。マザーズはわりと新興企業が上場しやすいですが、東証2部はハードルが高い。
高須賀:1年半後ぐらいで東証2部に移りましたね。売上も20億円ぐらいになったんです。設立してから4年7カ月の時期でしたが、当時は最短で2部に上場したと言われてました。
小池:それからいろいろ成長戦略を立案し実行してこられましたよね。具体的にはどんなことをやってきました? 何か印象に残っているようなことは?
高須賀:基本的に言うと、グループウェア市場の中で、これもマーケティングの世界で当たり前の話ですが、ある程度のパーセンテージを超えてくると、要は強者からの攻撃が始まりますよね。ニッチなときは無視されて、自分たちのグループで好き勝手やれるんですが。そうすると、そこに対して初めて防衛策を打っていかなければいけない。
要は、競合分析のもとで事業を進めていかないといけなくなりまして、残っていくためには小さくてもシェアをキープして効率化して利益を上げていくか、トップシェアになっていくかの2つに1つで、グループウェアのトップを目指す選択をしました。
逆に、グループウェアのシェアでトップになるためには、次に何をしないといけないかというふうに転換したんですね。
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