インターネットの基本的なアーキテクチャの設計に関わり、「インターネットの父」とも呼ばれているVint Cerf氏。2005年10月に、それまで在籍していたMCIを離れ、Googleの副社長 兼 チーフインターネットエバンジェリストに就任している。そのCerf氏が来日し、報道陣を前にインターネットの世界について語った。
Cerf氏がGoogleに入社する決心をしたのは、「これまでインターネットのインフラとなる部分に関わってきたが、今度はアプリケーション部分に関わりたかった」と考えたためだ。「インターネットのアプリケーションを創造する場としてGoogleが最適の場だと思った」と同氏は述べ、現在のGoogleのサービスの中でも、紙の情報をデジタル化しようという「Google Book Search」や、「Google Talk」および「Google Spreadsheed」をはじめとするコラボレーションツールに注目していると述べた。
Cerf氏は、Googleの社風も気に入っているようだ。「Googleでは、仕事時間の70%は自分の仕事に費やさなくてはならないが、残りの20%は他人のプロジェクトを手伝うことが許されている。また、あとの10%は全く好きなことをやっていいことになっている。インターネットの世界では、クリエイティビティ(創造力)が必要なので、このシステムは歓迎すべきこと」とCerf氏は言う。
また同氏は、「できないように思えることでも、とりあえずGoogleのみんなはやろうとする。時々本当にできないまま終わってしまうこともあるが、20年前に私が試みてだめだったから無理だろう、というような考えは全くない」と述べ、こうした環境が重要だとした。
Cerf氏は、今メディアの世界で起こっていることとして、「ユーザーは、自分のやりたいこと、見たいものを、自分で選択したいと感じているはずだ」と話す。現在テレビやラジオで提供される番組や広告は、放送局が番組と広告を組み合わせ、決まった時間にコンテンツを提供しているが、「本当はみんな自分の好きな時間や好きな場所で自分の好みのコンテンツだけを見たい、自分に必要な情報だけを入手したいと感じている」とCerf氏は主張する。気に入ったコンテンツを好きな時に欲しいだけ購入できる「iTunes Music Store」や、ユーザーの好みを学習してテレビ録画を行うハードディスクレコーダー「TiVo」(日本未発売)などがこれだけ大きく注目されたのも、「ユーザーが自分で自分の好みを管理できるためだ」とCerf氏はいう。
その上でCerf氏は、「インターネットは、まさにユーザーが自分の好みによって得る情報を管理できるメディアだ」と説明する。Googleの大きな収益源となっている広告にしても、「強制的に見せているわけではない。ユーザーは、この広告が見たいと思った場合のみクリックすればいいのだ」とCerf氏。広告を見る・見ないといった選択肢がユーザーに与えられており、自由度が高まったというわけだ。
またCerf氏は、「今後すべてのデバイスがいつでもオンラインになる時代が来る」と指摘する。すでにPCのみならず、携帯電話でのインターネット接続は当たり前となりつつあるが、「家電などのデバイスもすべてつながるようになる。例えば、携帯電話と自宅のエンターテインメントシステムが連動し、遠隔地から携帯電話で自宅のシステムに命令を送るといったように、マルチデバイス間でのインタラクションがさかんになる」とCerf氏は近未来像について語った。
さらにCerf氏は、文字入力のみの世界から、音声チャットやビデオチャットが幅広く利用されつつあるインスタントメッセージ(IM)においても、「コラボレーションができるようになる」と話す。「すでにゲームの世界では、オンライン上でつながった者同士が共同で敵を倒すといったことが行われている。今後コラボレーションアプリを利用して、ネット上でさまざまなグループ作業が可能になるだろう」(Cerf氏)
Cerf氏は、米国などで問題となっているネット中立性についても意見を述べた。これは、通信業者が、Googleなどインターネットのアプリケーションプロバイダに対し、より高速にサービスを提供するため料金を課すという考えが発端となったものだが、Cerf氏はこの件に対し、「とんでもない法案だ」と顔をしかめる。「これでは、新しいサービスを生み出す気力がなくなってしまう。また、立ち上げたばかりのベンチャー企業などは、特別料金を支払う余裕がないため、いつまでたってもユーザーにサービスが行き渡らないといったことになりかねない。ユーザーにとっても、すべてのサービスに平等にアクセスできるというインターネットの恩恵が受けられないことになる」(Cerf氏)
Cerf氏は、これまでインターネットの世界がオープンで平等であったように、「今後もインターネットは平等であるべきだ」と話す。また、日本ではこの件が問題視されていないことについて「非常にいいことだ。日本はブロードバンドインフラも整っており、さまざまなインターネットアプリケーションを生み出すための最高の環境がある。これほどの環境があるのだから、クリエイティブになっていろいろなサービスをもっともっと生み出すべきだ」と述べた。
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