毎年、Apple Computerはワールド・ワイド・デベロッパーズ・カンファレンス(WWDC)を開催する。「世界開発者会議」と大仰な訳がついてまわるが、要するに、Mac用ソフトウェアや周辺機器を開発する人々に向けたテクニカルなセミナーで、その内容を知るにはほとんどが機密保持契約を必要とする。メディアにも公開されるキーノートスピーチを除けば、詳細が報道されることはない。
5~6月の開催が多いが、今回は8月とやや遅め。次期MacOS X(Mac OS 10.5、開発コード名:Leopard)のベータ版に間に合わせるためといわれている。
この公開を前に、これまでのMacOS Xの歩みを同時期のMicrosoftの動きと比較しながら振り返っておこう。
Appleが、初期MacOSを良くも悪くも引きずっていたMacOS 9に変わる次世代OSに、他社製品であるNeXTのNeXTSTEPを採用することを発表したのが1997年初頭。UNIXをベースとするNeXTSTEPを会社ごと買収し(そしてNeXTのCEOであったSteve JobsがAppleに復帰したのは有名な話)、MacOS Xの開発がはじまった。
それが一般ユーザーに届けられたのが2000年の9月(日本では1カ月遅れの10月)。ただしこの時点で登場したのは「パブリックベータ」版。製品版ではなく、NeXTSTEPに新しいユーザーインターフェース(Aqua)がのっかったMac風UNIXという表現が一番しっくりくるレベルだった。
MacOS Xの最初の製品である10.0が登場したのは、それから半年ほどたった2001年3月である。この時点では描画速度が遅い、CD作成機能やDVDプレーヤーなどあってしかるべき機能が装備されていない、PCカードに未対応など欠点もあり、MacOS X上でMacOS 9を動かす「Classic環境」が用意されたものの、まだまだ主力はMacOS 9だった。
対してMicrosoftは古いMS-DOSを引きずったWindows 9x系であるWindows Meと、一から新たに開発したWindows NT系のWindows 2000の年。どちらの企業も次世代OSに向けて準備をしつつ20世紀を終えたのである。
2001年9月、パブリックベータから1年、10.0から半年経って、最初のメジャーバージョンアップであるMacOS X 10.1が登場した。
この頃はまだ高速化や安定化、さらにMacOS 9が装備していながらMacOS Xでは実現していなかった機能の搭載が主であった。描画速度や起動時間はこの時にかなり改善されている。
Windowsのネットワークへ接続する機能は装備されたものの、接続の際にIPアドレスを手入力する必要があるなど、改善の余地は多く残っていた。標準ウェブブラウザもInternet Explorer(IE)のMac版だった。
この年、MacOS 9が9.2.2にバージョンアップし、それが最後のMacOS 9となる。
Windows 9x系とWindows NT系が統合されてWindows XPが登場したのもこの年である。
約1年後の2002年8月、開発コード名「Jaguar」がそのまま愛称となったMacOS X 10.2が登場する。
最適化や描画速度の高速化が図られたほか、いよいよMacOS Xならではの機能、付属アプリケーションが装備されはじめる記念すべきバージョンだ。
グラフィックアクセラレータの性能を駆使することで描画性能を飛躍的に向上させると同時にCPUの負荷を減らす「Quartz Extreme」(「Quartz」はMacOS Xの2Dグラフィックス描画エンジンの名称。3DグラフィックスはOpenGL)や、ネットワーク上の機器を自動的に認識する「Rendezvous(ランデブー)」(10.4から名前が「Vonjour(ボンジュール)」に変更された)が搭載されたのが大きなトピック。Quartz ExtremeによりMacらしいユーザーインターフェースの演出がスムーズに行われるようになった。
付属ソフトも充実。カレンダーソフトの「iCal」、メッセンジャーの「iChat」、PDAや携帯電話とシンクロする「iSync」が登場。メールソフトの「Mail」も強化され、学習型迷惑メールフィルタが搭載された。
マイナーアップデートの10.2.8では独自のウェブブラウザ「Safari」が登場し、IEからSafariへの移行がはじまった。サードパーティ製アプリケーションも次々とMacOS Xに対応し、アップルからもiアプリケーションと呼ばれるコンシューマー向けソフトウェア群が登場するなど本格的に動き出した年だ。
今でも「MacOS X 10.2.8以降」が動作条件となっているアプリケーションは多く、このバージョンがひとつの転換期になっていることがわかる。
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