本音を言い合えるパートナー関係が企業も投資家も育てる

別井貴志(編集部)、田中誠2006年08月04日 12時38分

 企業が成長する過程では、決して経営者1人の努力だけでは無理だろう。資金はもとより、経営に関するアドバイスなどさまざまな支援が必要になる。こうした役割を担うひとつがベンチャーキャピタル(VC)だが、経営者とVCはどのようにして出会い、具体的にどういう関係を構築していくのか、そして人物像は。

 IBM Venture Capital Group日本担当の勝屋久氏が紹介する形式で、VCと経営者の両者に対談してリアルにお伝えします。第3回は、前回のインキュベートキャピタルパートナーの赤浦徹氏よりご紹介の日本ベンチャーキャピタル株式会社 インベストメントマネージャーの照沼大氏と、株式会社メンバーズ 代表取締役社長の剣持忠氏の登場です。

勝屋:照沼さんがベンチャーキャピタルを始めたきっかけをつくったのが剣持さんだったとお聞きしましたが、まずそのあたりの経緯をお聞かせ願いますか。

照沼:もともと僕は、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)という外資系のコンサルティング会社で4年半くらいコンサルティングをやってました。その後、次はどうしようかと考えた時に、大手企業を対象としたITコンサルティングというのも企業経営の核心になかなか触れられないビジネスのような気がして、中堅・中小やベンチャー企業のコンサルティングみたいなものをやりたいなと思ったんですね。ちょうどその時、前の会社の先輩からプレステージ・インターナショナルという会社でベンチャーコンサルティングみたいなことを始めるからお前も来ないかと誘われたんです。

 結局、そこではシステムの統括マネジャーをしていたんですが、そこに剣持さんがベンチャーキャピタルにいた頃の後輩である方がいたんです。それで、その方といろいろ話しているうちに、「あなたがやりたいのはベンチャーキャピタルが近いんじゃないの?」と言われたんですよね。ベンチャーキャピタルという業種の名前は知ってるけど、中身はよく分からないなあ、と思っていたら、いろんな人を紹介してくれました。最初に紹介してもらったのが創業間もない頃の剣持さんだったんです。僕はまだコンサルティング会社を出たばかりだったので、その時、剣持さんと話をしていろいろ怒られましたね(笑)。「ごちゃごちゃ言ってないで俺と一緒にこの日本を変えることを考えようよ」と言われたりして……。すごい衝撃を受けました。

勝屋:剣持さんから見て、照沼さんの最初の印象はどんな感じだったんですか。

剣持:最初はものすごくサラリーマンっぽいと思いました。若いんだからもっとバーンとやっちゃった方がいいんじゃないの、という印象でしたね。じゃあ、ついでに誘っちゃえ、みたいな(笑)

照沼氏(左)と剣持氏(右)

照沼:今から思えば誘っていただいていたようなんですが、その時、僕はガーンと衝撃を受けて、ベンチャーの世界を強烈に意識するようになったんです。どちらかというとベンチャーを起業する方向も考えたりしたんですけど、思っただけで、よく考えたら実は起業までしてやりたいことがあった訳ではなかったんですよね。一方でベンチャーキャピタルはすごく意識するようになったので、1997年の春くらいからいくつかの会社をあたり始めていました。ただ、その頃は貸し渋り、貸し剥がしの真っ直中で、ベンチャーキャピタルも中途採用はしてなかったんですよ。その時にたまたま採用していた数少ないベンチャーキャピタルが今の会社だったということです。入社許可をもらったのが1998年の初めで、実際に働き始めたのが、同年の初夏ですね。

勝屋:その照沼さんが所属している日本ベンチャーキャピタルはどういう会社ですか。

照沼:特徴としては、たぶん業界で初めてだったと思うんですが、投資担当者にインセンティブ制度を付けていることです。ですから良い意味で一匹狼タイプの人間が集まってきて、ここ数年は特に良い雰囲気になっていますね。

勝屋:今までクレイフィッシュやケンコーコムなどのIT関連ベンチャー企業に投資され、すごい実績をだしている照沼さんですが、フォーカスしている投資領域はやはりIT関連系なんでしょうか。

照沼:そうですね。もともと企業向けのソフトウェアやソリューションを追求しようと思っていました。そのきっかけは、後輩が過労死してしまったことなんですよ。システム構築の現場はいまだに大変で、そもそも作っている側が苦しい思いをしているコンピュータシステムが使いやすいわけがないと思っていたんです。生産性を上げて、最終的にはユーザーが使いやすいシステムを作りたかったですね。そういうことができるベンチャー企業を探そう、もしくは一緒に作っていこうと、この業界に入った頃は思っていました。

 まだ、そこは壁が厚くてうまくいってないのが現状ですが、そこから派生して投資したインターネット関連やSIerなどのITサービスで、今はうまく行った事例が出てきたという感じです。そうこうしている間に、最近はもともと興味があった製造業にも触手を伸ばしている状態ですね。日本はやっぱり製造業の国であり、ベンチャーが起こせるイノベーションもあるはずだ、とういう実感はますます強まっています。

勝屋:そんな照沼さんの投資先の1つがメンバーズさんですが、メンバーズさんはひとことで言うとどんな特徴を持った会社ですか。

剣持:ひとことで言えば、企業のインターネットマーケティングをワンストップで支援する会社です。もちろん僕らが提供できないものに関してはアライアンスを組んでいるところと一緒に提供するんですが、お客さまのマーケティングゴールの達成のために必要なものをプランニングしていきます。そこでお金を取っているわけではないんですが、そのプランニングが商品といえば商品ですね。提案書が商品で、そこに付属するもので売り上げがついていくという感じです。

 メインはウェブ制作と広告でも、本質的にはそこなんです。メディアを売るとか、ウェブを作るというよりは、最初のプランが本当の商品なんですよね。そこでコンペに勝たないと意味がないんです。当社のプランを必要とする会社は当社を選んでくれますし、やることが決まっているから安い方がいいという会社には選ばれないですね。

勝屋:トヨタやキヤノンなど、日本そして世界を代表する大企業をお客様としてサービスを提供しているのがすごいと思うんですが、どうしてメンバーズさんにはそれができるんでしょうか。

剣持:まず、プランニングに重点を置いているということ。それから、比較的、幹部連中がリアル企業から来ていますし、広告代理店からも来ている人間が多いですしね。役員の年齢も40〜45歳くらいなので、そのあたりが大企業向きなんでしょう。クリエイターでもスーツを着て出向いて行くことが多くあるし、大手企業と継続して取引をするためにいろいろな側面で品質を高めてます。ウェブ制作に関わる業務フローに関するコンサルティングなども我々でやったりしますから、そういう時によれよれのTシャツじゃないですよね。アートやクリエイティブだけじゃないよ、というところが大企業に受け入れられているベースかもしれません。

 やはり大手企業と取引するには信用が大切だと思ってます。例えば、全日空さんとの取引実績などを認めてもらいキヤノンさんと取引が始まって、そしていろいろな大手製造業会社に取引が派生していきました。また、ある時名古屋地区の著名な大手企業と取引することが出来て、それをきっかけに名古屋の有力会社と次々と取引させていただけました。そして最後にトヨタさんとも取引することができました。やはりお客様の信用が大きいですね。

株式会社メンバーズ 代表取締役社長
剣持 忠

1990年早稲田大学教育学部卒。日本合同ファイナンス株式会社(現株式会社ジャフコ)入社後、国内ベンチャー企業向け投資育成業務に従事し4社の株式公開を支援。1995年株式会社メンバーズ設立。

趣味:フライフィッシング、ゴルフ

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