カリフォルニア州マウンテンビュー発--米航空宇宙局(NASA)のエイムス研究センターの研究者たちは現在、太陽表面温度の3倍もの高温に耐えうるハイテク材料の開発を目指して、試験に取り組んでいる。
この研究は、宇宙飛行においてきわめて重要な断熱材に進歩をもたらす可能性がある。2003年2月、スペースシャトル「Columbia」は大気圏再突入の際に大事故を起こした。表面にあった亀裂がもとで、極端な高温にさらされた機体が空中分解してしまったのだ。
NASAは現在、乗員輸送用小型宇宙船(Crew Exploration Vehicle:CEV)のための断熱材を開発している。CEVは、ブッシュ政権の構想に基づいて、2012年までに6人の宇宙飛行士を月に送り込んで帰還させるための新型宇宙船だ。エイムス研究センターは米国時間5月18日、アークジェット施設と呼ばれる研究室を報道陣に公開し、稲妻を間近で見るかのような試験を披露した。
CEVは、研究者たちが低高度軌道と呼ぶ軌道のはるかかなたまで飛行するため、断熱材の開発は難題となりそうだ。月まで飛行してきた宇宙船の速度は、大気圏再突入時に時速2万5000マイル(秒速約11.2km)に達する可能性がある。これは低高度軌道から帰還する宇宙船と比較すると、時速8000マイル(秒速約3.6km)も速い。この速度の違いによって、宇宙船に必要とされる耐久温度は10倍以上にもなりかねないと、CEV用断熱材の試験を担当するプロダクトマネージャーJames Reuther氏は言う。
「これは本当に難しい課題だ」(Reuther氏)
NASAが材料の試験を行っているアークジェット施設は長さ20フィート(約6m)の管で構成され、ここを高温になって膨張した気体が高速で流れるようになっている。電源を入れると、2組の電極間に放電が起こる。この「稲妻」--アークプラズマ--を、管の端に取りつけたアイスホッケー用パックほどの大きさの試験材料に向けて噴出させる。時速1万7000マイル(秒速約7.6km)の超音速で管を流れるプラズマは、太陽表面温度の2〜3倍という高温になっている。
NASAの研究者たちはこの装置で大気圏再突入の状況のシミュレーションを行い、さまざまな材料が受ける影響を測定して、必要なだけの耐熱性が得られるかどうかを調べる。また、コンピュータシミュレーションを使って材料の耐久性の予測も行っている。最終的には、開発した断熱材を使って直径16.5フィート(約5m)のフリスビーを逆さましたような形状の熱遮蔽板を作り、CEVの搭乗カプセル下部に取りつける計画だ。
CEVで使用される予定の熱遮蔽板の特徴は耐熱性だけではない。大気圏再突入の際に溶解してしまう複数の「ブレード」で熱遮蔽板を構成する方式も検討されている。現行の断熱材は、スペースシャトルの機体下部に貼ってあるもののように、再利用可能なタイルとなっている。
NASAは現在、ブレード用に5種類の材料を試験している。1つは樹脂と石英でできたブレードからなるハニカム構造の熱遮蔽板、もう1つは、エイムス研究センターでセラミックその他のさまざまな物質を組み合わせて開発した、PICA(Phenolic Impregnated Carbon Ablator)と呼ばれる耐熱材料を使っている。その他の材料は手作業で作られたものだが、詳細はまだ発表されていない。
エイムス研究センターでは過去45年にわたり、耐熱材料の実験に取り組んできた。同機関の施設は米国最大の規模を誇り、アークジェット施設は最大6万kWのエネルギーを発生させる。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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