「Web 2.0」は2005年来、業界で最も話題になっているコンセプトだろう。実際、インターネットビジネスに関わる人の間でいまだにこの言葉を聞いたことがない人はほとんどいないのではないだろうか。4月13日に公開されたGoogle Calendarなど、Web 2.0を身近に感じられるサービスも増えつつあり、新しいウェブの世界を実感する機会も多い。
身近に感じた3つの事例こうした一方で、Web 2.0のコンセプトに関する誤解を身近に感じる機会も急増している。以下、最近僕の身の回りで起こった例を3つほど紹介したい。
まず始めに、僕が委員として参加している、ある公的プロジェクトに関する委員会でのことだ。「このプロジェクトはWeb 2.0で自己増殖させていこう」という意見が出され、その場は大いに盛り上がった。このプロジェクト自体は、ある目的を持ったウェブサイトを構築しようとするもので、「自己増殖」とは、このサイトの企業による利用を自動的に増加させたいという意味のようだ。
残念ながら僕は、この回の会議に出席していなかったので、何度も議事録を読み直し、事務局等に問い合わせたが、いまだにこのサイトの「自己増殖」と「Web 2.0」との繋がりは不明である。
2つめは、あるIT企業の幹部である友人から紹介された、彼の会社が出資するベンチャー企業のことだ。システムインテグレータ(SI)ベンダーであるこの企業のウェブサイトにある「サービス概要」と「会社概要」には、「Web 2.0等の最新技術」といった言葉が踊り、いかにも魅力的だ。ただし、サイトを見る限り、この企業はどのような技術やサービスをWeb 2.0的だとしているのかを理解するのは難しい。
3つめは、僕が講演したWeb 2.0に関する勉強会でのQ&Aセッションでのことだ。ある大手IT企業の参加者から「今までのソフトウエアやシステム開発のやりかたから見ると、Web 2.0の時代になったら自分たちのビジネスはどうなってしまうのだろうと感じる」とのお言葉をいただいた。
たしかに、Web 2.0の世界ではソフトウェアは物ではなく、間断なく提供されるサービスであり、定期的に最新版を発表するわけでもなく、日々のオペレーションそのものが重用だとされる。しかし、大手IT企業のソフトウエアやシステムの開発手法に関しては、Web 2.0というより、オープンソースソフトウエアの開発手法と比較して、昔から様々な問題が指摘されてきたのではなかっただろうか。
僕は上の3つの例で、ここに挙げた事例に関わる人たちが間違っているといいたいのではない。ここで指摘したいのは、Web 2.0というコンセプトがいかに魅力的であるのかということだ。
1つ目の例に挙げた議論に参加していた他の委員は、いずれも世間的には有識者とされる人たちであり、この中には僕が個人的に尊敬して信頼するベンチャーキャピタリストや、ビジネスマンとしては最高の学歴と経験を積んだベンチャー企業の社長も参加している。
2つ目の例の友人の会社は、技術力に定評のある有名なソフトウエア企業であるし、3つ目の例に挙げた勉強会の参加者は、IT業界の有識者に限定されたものだ。しかし、こうした人たちですらWeb 2.0の意味やその影響力を漠然としか理解しない、あるいは誤解したまま、過度な期待や不安を抱いているように思ってしまう。
内容が不明瞭なまま用いられたWeb 2.0のコンセプト自体が、自動的にプロジェクトや企業を成功に導くことはないし、Web 2.0の世界がもたらす影響を他の要因がもたらす影響と区別しないまま不安を感じるのは、その魅力のあまり生じた誤解といえよう。
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