wikiはわれわれの世界観をどうつくりかえているか
8月29日、ハリケーン・カトリーナがメキシコ湾岸に上陸すると、世界中の報道機関がこのニュースを伝えようと被災地にかけつけた。しかし、被害の全容を最も早く伝えたのは、いわゆる「報道機関」ではなかった。
従来の報道機関よりも先に、カトリーナの被害状況を伝えたのは「市民ジャーナリスト」を自認する人々だった。彼らはゆるやかな連合を形成し、ルイジアナ州はもとより、世界中からニュースを発信し、リンクを張り、写真を掲載した。しかし、彼らを統括していた「Wikinews」は、これらの市民ジャーナリストたちに、ただの1セントも払ってはいなかった。
「この悲劇の中から、少なくともひとつの奇跡--「Katrina Information Map 」が生まれたことをうれしく思う。wikiとGoogle Mapsを組み合わせたKatrina Information Mapは、洪水の被害を調べたり、伝えたりする際に誰もが利用できる有益な情報源となっている」と、ルイジアナ州の元住民Matt Bartonは自身のブログ「Kairosnews」に書いている。「多くの人が親しい人の安否を調べ、地区ごとの被害状況を報告するためにこのサービスを利用している」(Barton)
wikiの由来
wikiはウェブページの集合体であり、ユーザーは電子掲示板と同じように、wikiにコンテンツを投稿することができるが、その内容は誰でも(通常は無制限に)編集することができる。一説によれば、wikiは「what I know is(私が知っているのは・・・)」の頭文字を取ったもので、知識の貢献、蓄積、交換などを示している。1995年3月25日に作成された最初のwikiを、特別に「Wiki」(先頭が大文字のWiki)またはWikiWikiWebと呼ぶ。wikiという名前は、「早い」「高速」「急ぐ」などを意味するハワイ語のwikiに由来している。 --出典:Wikipedia |
ニュースは、wikiの最も効果的な用途のひとつだ。この奇妙な名前をした技術は、オレゴン州ポートランドのWard Cunninghamというプログラマーが、「情報はオープンに共有されるべきであり、全員がその内容に責任を持つべきだ」という考えに基づいて1995年に作り上げたものだ。wikiを使って作成されたウェブページは、作者だけでなく、インターネットに接続できる人なら誰でも内容を編集することができる。
初期には共同パブリッシングの一形態と見なされていたwikiは、またたく間に、広範な用途に応用できる双方向のコミュニケーションとなった。カトリーナと、そのひと月前に起きたロンドン同時テロの際に明らかになった通り、リアルタイムの連携、市民による時差のない報道、そして完全にオンライン化された議論を実現するwikiには、人命を救う情報源となる可能性がある。
主流メディアへの不信感が高まっている現在、wikiの人気と広がりは特に重要な意味を持っている。さまざまな意味で、wikiは情報化時代の原則--「一般市民に意見を述べる機会を提供する」という民主化の原則を象徴する存在だ。
「インターネットの分散的な性質を利用すれば、同じ関心を持つ者を即座に結びつけ、各自が持つ多様でほぼ無限大の知識を動員し、ものの数時間で一貫した形にまとめあげることができる」と、Marchexのプロダクトマネージャで、「KatrinaHelp.info」というwikiの作成を支援したRob Klineはいう。「これは地球規模の分散システムなので、私が寝ている間も、他の人が作業を進めてくれる」(Kline)
wikiにはさまざまな形のものが登場したが、この概念が広く知られるようになったのは、オンライン百科事典「Wikipedia」が登場してからだ。WikipediaとWikinewsは非営利組織Wikimedia Foundationが立ち上げたもので、誰でも無料で利用できる。
Wikipediaが急成長を遂げていることは、英語版だけで、すでに80万件を超える項目が掲載されていることからも分かるだろう。こうした人気の一端が、ウェブの特徴である雑学的な興味にあることは否めないが、Wikipediaは情報アクセスに対する社会的態度を根底からくつがえすものとなっている。
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