Wikipediaにはさまざまな利点がある。しかし、ブリタニカ大百科事典のような情報源が、専門家の手になる正確な記述を追求しているのに対して、Wikipediaのようなサイトでは、執筆者の意図や個人的な意見が記事に反映されるのではないかと懸念する人もいる。
しかし、Wikipediaのような大規模なプロジェクトでは、自己検閲機能が働くため、記事の正確さはおのずと高まる。誰でも項目を作成したり、既存項目の内容を編集できるため、ボランティアはできる限り正確な記事を書こうとする。このことは、記事の内容を最新の情報に基づいた正確なものとするために、既存の項目に対して継続的に修正が加えられていることからも分かるだろう。
「重要なのは、『できること』に対する人々のイメージが変わったことだ」とWikipediaを立ち上げたJimmy Walesはいう。「過激で無謀だと思われた概念が、意外にうまく機能している様子を見て、人々は情報共有や、クールで斬新なアイディアが実現する可能性を見直すようになっている」
wikiを利用した大規模な公開調査もそんなアイデアの1つだ。そのなかには、米国政府がキューバのグアンタナモ湾に拘留している収容者についての数千ページに上る資料を精査するプロジェクトも含まれているが、これをwiki以外の技術で遂行することは難しい。
昨年春に始まったこのプロジェクトは、全米市民自由連合(ACLU)が収容者の虐待に関する証拠を集めるために、2003年に情報公開法に基づいて請求し、その結果公開された4000ページを超える資料を調査するものだ。ACLUには、これらの資料を短時間で精査するだけの人手がなかったため、コミュニティブログ「Daily Kos」の数十人の読者が、このプロジェクトを引き継いだ。
ボランティアは自分が担当するページを調べ終わったら、wikiに所見を書き込む。「(このソフトウェアを)オープンソースで、誰もが利用できるものにしたかった」とこの公開調査プロジェクトのまとめ役を務めるSusan Hudgensはいう。
もちろん、政治や災害とは関係のないwikiもある。たとえば、wikiを使って、ユーザーが自由に意見を交換できる場を用意している組織や企業もある。テーマはそれこそ何でもありだ。
たとえば、「Wikispaces」は家族や学校、読書クラブ、結婚式のプランナーなどをターゲットとした無料の商用サイトだ。現在、Wikispacesには約5000の「スペース」が設置されており、各スペースのテーマは家系図からロールプレイングゲーム、「科学革命の文化」まで多岐にわたっている。
「使いやすさにこだわっている」とWikispacesの共同創設者Adam Freyはいう。「Wikispacesには、技術のことはまったく分からないという教師や学生、医療グループ、家族も大勢参加している。われわれが目指しているのは、できる限り単純で、ボタンひとつで編集できるウェブページを提供することだ」
小説家兼ジャーナリストとして、デジタルに関するあらゆる話題にペンをふるっているCory Doctorowは、書籍の出版過程にwikiを取り入れる革新的な方法を編み出した。Doctorowは自著の文章をCreative Commonsライセンスの下で公開し、wiki上で正誤表を公開している。
「編集者に提出する正誤表を作成するのは、面倒であるだけでなく、まとめるのが非常に難しかった。読者からばらばらに意見が届くようなときはなおさらだ」とDoctorowはいう。「そこでwikiを導入し、読者が自分たちで修正点を整理できるようにした。これは妙案だった。今では、編集者から明日増刷をかけるので修正点を教えてほしいといわれたときは、『分かりました。では、この(wikiの)URLを見てください』と伝えればいい」
Creative Commonsの会長で、スタンフォード大学ロースクール教授のLawrence Lessigも、wikiを利用した書籍プロジェクトを進めている。昨年の2月から、Lessigは自著「Code」のデジタル版をウェブに掲載し、同書の初版に加える修正を読者が提案できるようにした。更新と修正の内容は章ごとに任命された「章キャプテン」が監督し、結果は同書の第2版に反映されることになっている。
wikiは同報メールに取って代わるものとして、企業にも根を下ろしつつある。従来の同報メールには、議論の流れが分かりにくい、最初のメールに添付されていたワード文書が、その後のすべてのメールに添付され、サーバに負担をかけるといった問題があった。Walesによれば、家電小売りチェーンのBest Buyは、wikiを9万人の従業員との情報共有に活用しているという。
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