チュニス(チュニジア)発--米国時間16日、当地で開催されたサミットに各国政府、企業、そして非営利団体から数千人の関係者が集まった。このサミットでは、今後のインターネット統治の在り方が決まると見られていた。
しかし、この「世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society)」では、土壇場になって関係諸国が合意に達したことから、この議論は来年初会合が予定される国連の新しい「Internet Governance Forum(IGF)」に事実上先送りされることとなった。
CNET News.comでは、昨年のニューヨークでの会合をはじめ、このプロセスの最初の部分を伝えてきたが、現状を把握するために以下のようなFAQを用意した。
--いったい何のためのサミットなのか?
いわゆる情報格差の克服、技術の共有、開発途上国から先進国への資金援助の申し入れなど、当初の目的は現実的に議論もできないほど多岐にわたっていた。
しかし、ここ18カ月の間に、技術の時代の不公平性に対する漠然とした不満からより具体的な苦情へと、焦点が移ってきた。手短にいうと、中国、キューバ、モザンビーク、ジンバブエといった国々が、インターネットの管理に対する影響が強すぎるとして米国政府を非難している、となる。
--それぞれの主張は?
国によって異なり、また政治的駆け引きと反米感情を切り分けるのが難しい場合もある。たとえばキューバ代表は16日、サミットの参加者に対し、同国のFidel Castro議長が「富裕国によるメディア操作」を終わらせるよう望んでいることを明らかにした。
「ネットワークのネットワークを管理するためには、複数の国による民主的な制度の制定が必要だ」とこのキューバ代表は語った。
ジンバブエのRobert Mugabe大統領は、同国が「コンピュータハッキング、電子詐欺、サイバーテロ」を阻止する活動に参加する意向を示したが、ただしそれには「一極集中につながった政治的に尊大な態度を見直す必要がある」と述べていた。
--それらの諸国は具体的に何を要求しているのか?
理想的には、ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)の活動に国連機構が介入し、できればそれを引き継ぐ、というのが多くの代表の希望だ。ICANNは、新しいトップレベルドメイン名(.bizや.xxxなど)の承認や、ドメイン名に対する最低価格の設定、そしてドメイン名を巡る紛争解決手続きの管理を行っている。
しかし、大幅な変更が実施されることは少なくとも近い将来はない。米国とこれを批判する各国が、この議論をIGFに移すことで事実上合意したからだ。
--合意に達した理由は?
すべてが明確になっているわけではないし、一部の声明に用いられている言葉も漠然としており、関係者全員が勝利を宣言できるような内容となっている。
オブザーバーの1人でオタワ大学法学部教授のMichael Geistは、「どにかく米国の力が強く、同国はそれをかなり有利に活用している」と語っている。しかしGeistによると、欧州連合は報道各社が数カ月前から指摘しているほど徹底的改革を支持していないようで、結局は公の議論から身を引くことにしたようだという。
--ということは、また数カ月後に同じことが繰り返されるのか?
それに近いことになる。今回の合意により、IGFという、議論に特化するだけで強制力のない新しい機構が国連に誕生する。代表者は議論することしかできないため、きっと多くの議論が戦わされることだろう。
IGFはおそらく、2006年のギリシャを皮切りに、規模の小さい会合を次々に開催することになる。そして、2010年に国連が大規模なサミットを再び召集し、次に取るべき措置をそこで判断することになる。Kofi Annan事務総長はこの日、国連は5カ年計画を基本に行動していると示唆した。
--合意に至らなかったらどうなっていたのか?
最悪の場合、インターネット版の核戦争も考えられた。米国はルートサーバを掌握し続け、世界の大部分はバラバラの方向に向かうという、インターネットで第一次世界大戦当時のような分裂が進んだかもしれない。
新しいトップレベルドメインは、米国やそのクライアントになっている各州からは見えないが、ほかの多くの国々では使えるという状況になる。もちろんそこには、同じアドレスでもコンピュータによって異なるウェブサイトが表示されるというマイナス面が出てくる。これは同じ電話番号にかけても電話機によってかかる相手が違うという奇妙な状況だ。
--米国は本当にそれほど強大な力を持っているのか?
おそらく、実際にはそうでもないだろう。ここで重要なのは、全部で13あるインターネットのルートサーバの運用で、たとえば「.com」「.net」「.edu」といったトップレベルのドメインや「.uk」「.jp」などの国別コードをすべて納めた巨大なデータベースを誰が管理するかということだ。米国政府は現在、ICANNを通じて、あらゆるルートサーバが利用するこのマスターデータベースを支配下に置いている。
「A」から「M」まで13あるルートサーバが、すべて米国内にあるわけではない。「M」サーバは東京に置かれ、WIDE Projectが運用している。同じように「K」サーバを運用しているのは、アムステルダム(オランダ)をベースとするRIPEだ。また「F」「I」および「J」のルートサーバは「anycast 」プロトコルを通じて全世界にある数多くのアドレスを管理するのに使われており、あわせて34カ国の80の場所に置かれている。
--米国政府は、ルートサーバに命じてトップレベルドメインを追加したり削除することができる、ということか?
その通り。ただし連邦政府が実際にこうした権力を濫用したことはない。
現実には、ルートサーバを支配下に置ければ、誰であろうとトップレベルドメインの追加や削除に関する最終的な権限を持てるということだ。ルートサーバの運用者が、一連のトップレベルドメインを不合理だと考えたとしても、米国の法律を使って、その運用を強制できるのは米国の運営者だけに限られる。
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