実は米国ではすでにCATVは当たり前だったし、携帯電話も十分に普及しており、「当たり前のことをあえてわかりやすく示した」という意味合いで評されている。一方、日本では予言的な意味合いを持ってその先見性を評されており、若干とらえられ方は違っているようだ。
なにはともあれ、ネグロポンテ・スイッチが日本でも現実のものとなっているのは、以下の統計を見ても明らかだ。
それぞれの通信サービスの加入者数(単位:万件)
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固定通信、移動通信は総務省情報通信白書平成17年度版、 CATVは日本ケーブルテレビ連盟の資料より編集部が作成 |
ただし、その本質は無線と有線の入れ代わりそのものではなく、そこに至った原因、あるいは有線と無線が入れ替わった後の結果であろう。すなわち、放送における有線化は、多チャンネル化や、VODなどの双方向性を前提としたサービスの導入ニーズを考えれば必然であった。また、通信における無線化は、通信の個人化や移動性といった付加需要から見れば必然であったのだ。そして、その後には、有線部分、無線部分それぞれにおいて、放送と通信が区分を超えて共通のインフラによって提供され、さらには相互に融合が進行するだろう。
有線または無線のインフラが放送と通信で共有され、さらには融合されることで、そのインフラとしての価値はコモディティ化せざるを得なくなる。その果てにあるのは、サービスごとに課金は可能であっても、インフラそのもので大きな対価を得ることは困難になるという論理的着地点であろう。また、提供されるサービスについても、最も基本的なものに関してはどのくらい使ったかという従量制の議論ではなく、そのサービスを契約するか否かという単純な定額制の問題になっていくであろう事にもあまり議論の余地はない。
この視点から見れば、今回のプッシュ・トゥ・トークの導入、あるいはすでに導入されていたパケット通信の定額制は携帯電話事業者がパンドラの箱を開けた結果でしかなく、そしてそれはさらに大きな流れになって、ついには通話の定額制ということになっていくだろう。すでに、新規参入事業者の一部は、フルIPによるサービスに言及しており、そこではごく当然のごとく通話サービスの定額制が導入されるに違いない。
これまで移動体通信を提供する事業者は、「電波は有限資源であり、それを利用する限りは従量制の維持は必然」といった主張を行ってきたが、電波を利用する部分を小さな範囲に区切り、利用する帯域を圧縮したデータで満たすなど、効率的な利用を前提として行っていけば、電波の「有限性」はある程度まで回避することができる。このため、「引けば引いただけ容量が増える」光ファイバーと同様のビジネス構造にすることは可能だ。
とはいえ、これは結論でしかなく、そこに至る過程は紆余曲折をたどることだろう。そして、今回導入されたプッシュ・トゥ・トークはその結論に近づく一歩になることは間違いない。
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