楽天は10月26日、東京放送(TBS)の株式をさらに買い増し、10月25日現在で子会社を通じて3627万900株、発行済株式数の19.09%を保有したと発表した。10月12日時点では15.46%保有し(関連記事)、その後10月19日時点で17.17%取得、10月21日時点で18.54%取得と段階的に買い増していた。
これについては、26日の一部新聞朝刊で報じられた。10月26日の楽天の株価は、TBSとの交渉が長期化することや敵対的買収に戦略を転換した場合に大幅な増資を実施するのではないかという懸念から、前日比1000円安(1.3%安)の7万4600円と終日軟調な動きだった。この半面、楽天が株を買い増したという報道を受けたTBSは、さらに買い増すのではないかという思惑で、朝方から買い物を集め、終値は前日比110円高(3.5%高)の3260円と3日ぶりに反発した。なお、時価総額は楽天が8829億3600万円、TBSが6194億5900万円となっている。
今回19.09%まで取得したことに伴い、これまでさまざまに報道された内容について、改めて楽天の考え方を示すために代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏が記者会見を開いた。
株式の買い増しについて
まず、株式を買い増した背景について三木谷氏は「20%を超えない範囲での取得だが、楽天はTBSに統合持ち株会社を提案している。これを成就できればお互いに非常に大きなプラスになる。そういう意味で、資本市場のルールに則って株式を買い増した。TBSの株というのは非常に価値があると考えている」と説明した。
「どうして株を買ってはいけないのかわからない」と三木谷氏 |
この背景にあるのは、インターネットを取り巻く環境が大きく変貌していることを挙げた。楽天は1997年の2月に設立した当時の仮説は、「日本人はインターネットでものを買うようになる」ということで、三木谷氏は「未来、将来を予測してビジネスモデルを作ってきた故に、世界で6番目のネット企業にまで成長してきた」と実績を強調した。そして、楽天が現在考えている仮説は、「テレビがネットにつながり、ネットがテレビにつながる時代がもうそこまで来ている」ということだ。それは、「目の前には非常に大きなオポチュニティ、宝の山が隠されている」(三木谷氏)ために、テレビとインターネットの企業が組むことによって、このオポチュニティを実現していくという。
三木谷氏は、「経験では、だいたい20年かかるなあと思ったことは3年ぐらいで起こってしまうというのが、このデジタル革命のスピード感だと思う」と前置きしたうえで、直近の例としてiPodを挙げ、「音楽業界の構造改革がこの3年の間にものすごいスピードで起こってしまった。映像はもう少し時間がかかるという議論もあるが、数年の話ではないかと思っている」とした。
さらに、「NBCという米国のテレビ局はGEが1986年に買収をしたわけだが、営業利益が買収時3億4800万ドルから2004年には約2600億ドルと利益が7倍に成長している。時価総額を見ても、タイムワーナーは9兆2000億円、バイアコム5兆5000億円、ディズニー5兆円を超えている。日本においてもメディアのコングロマリット化がどんどん進んでいくのではないか、あるいは進まなければ海外のメディアに対抗できない」と、海外の例を付け加えた。合従連衡やM&Aによって結果としての企業価値が向上した話に終始してその意義を訴えたが、具体的に何をすればそうした結果が生まれるのかは明言しなかった。
また、テレビと組む必要性について三木谷氏は「わかりやすく言うと、世帯普及率100%で一気に面でとれるメディアはテレビしかなく、その影響力は非常に大きいものがあるためだ」と説明した。ほかの事業ならば自分たちで作ることは可能だが、放送事業は許認可事業なので楽天が自らテレビ局を作ることはできないという事情もあるとした。
公共性の確保について
次に、公共性について三木谷氏は「私もテレビの公共性は非常に重要なことだと考えている。事実、テレビ局の方々も公共性と視聴率、利益と、これをどうやってバランスをとっていくかで非常に悩んでいる部分もあるのではないか。私は、公共性を増すことによってさらに収益性が高まると思っている」と説明した。
ただし、「公共性」といった場合の内容については、災害時の放送なのか、それとも国家危機管理的なものなのかといった議論をして、その枠組みや仕組みを決める必要性があることを訴えた。また、三木谷氏は、テレビ局にとっては楽天とだけ組まない方がいいとする議論にも触れ、「基本的には協調と競合のバランスだと思っている。われわれと共同持ち株会社を設立できたとしても、時には他社とやった方が有利である場合はそれはどれでいたしかたない」とした。ただし、楽天がいま提案しているのは、そうした小さな1つ1つのビジネスモデルの話ではなく、ネットとテレビの大きな流れ、パラダイムシフトをいかに捉えて、グループ企業としてどうやれば時代を先取りして成長できるかという点だという。
乱用的買収について
3つめに、敵対的買収、乱用的買収ということが新聞でかなり報道されている点について三木谷氏は、「乱用的買収にはあたらない」と述べた。乱用的買収の定義は、ニッポン放送事件に始まる高裁の決定の判例にあるが、基本的には短期的な利益を目的として行うかたち、あるいは株を非常に安く取得して資産を売却すること、それで自分の借金を返すこと、そういうようなことを指すと説明し、これにはまったくあてはまらないというわけだ。
野球について
最後に、野球について三木谷氏は「野球協約の中に定められている条項の目的は、基本的に公正な試合を確保するということで、現段階ではとても横浜ベイスターズに対して不公正な試合をするように働きかける影響力があるとは思えない」とした。さらに、「株式を公開した会社が野球チームの親会社である以上、直接、間接を含めて他のチームの親会社の株を意図した、しないに関わらず1株、2株と取得することもある。ファンドに出資したらそのファンドが親会社に投資していて間接的に株を保有することも十分にあり得ることだ」とも付け加えた。
そうしたことよりも、楽天を起業した理由は「世界に誇れるインターネット企業を作りたい」ということのほかに、「日本を、特に地方を元気にしたい」ということもあるので野球を仙台、サッカーを神戸で展開しており、こうした原点をオーナー会議で議論するという。また、TBSに対しても地方局の活性化について議論していく。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス