米国の人気テレビ番組「Desperate Housewives」を、単なるゴールデンタイムのメロドラマから、デジタルメディアの未来を示す先駆けへと仕立て上げられるのは、Steve Jobsぐらいしかいないだろう。
Apple Computerは米国時間12日、iTunes Music Store(iTMS)でのビデオ販売を開始した。これにより、映画/テレビ/広告/小売市場を今後数年間は揺るがす可能性のあるビジネスモデルが初めて姿を表すことになった。
いまのところ、iTMSが扱うビデオの数は、さほど多くはない。ABCとDisney Channelで放送されている人気テレビ番組が5本、短編アニメーションが数本、そしてミュージックビデオが、それぞれ1ドル99セントで売られているだけだ。しかし、iTMSがビデオ販売でも成功するという見通しは、メディア業界内ではすでに認知されているかのようでもある。
「これは大きな第1歩だ」とDisney最高経営責任者(CEO)のRobert Igerは述べた。Iger は、Jobsとともに壇上に立ち、この新しいサービスを売り込んだ。「われわれに関する限り、これは未来だ」(Iger)
Appleは、ビデオ販売市場への第1歩を踏み出したことになるが、その手法は、開始当初のiTMSでとった路線を踏襲している。音楽販売において、Appleは当初、比較的少ない曲数を用意し、Macintoshユーザーの一部だけがアクセスできるようにしていた。同社は、この手法を使って、当時消極的であった音楽業界を説得し、広範囲なオンライン配信を可能にしている。
Disneyと結んだ今回の提携は、同様の「足がかりをつかむ」ための戦略と思われる。開始当初のコンテンツ数こそわずかだが、多くのコンテンツを将来的に揃えるのは明らかだ。しかし、この手法は、単にオンラインで配信するというだけに留まらない。一部の番組については、購入可能なバージョンが放送翌日にはダウンロード可能になる。また、過去に放送された番組もダウンロードできる。
AppleのiTunes担当バイスプレジデントEddy Cueによると、iTMSでビデオ販売を開始するにあたり、同社が接触したのはDisneyだけだったという。Cueは、Appleが他のネットワークやケーブルテレビ番組制作会社、または映画会社に接近する予定があるかについて明言は避けたが、iTunes Music Storeで取り扱うビデオの数を増やす予定はあると述べた。
直近の問題となるのは、他のメディア企業がAppleのビデオ販売をどう見なすかということだろう。
まっさきに候補として名前が挙がるのは他のネットワークテレビ局だ。テレビ局は、TiVoのようなデジタルビデオレコーダーによって、視聴者が広告を観なくても済むようになっている状況を不安げに見守ってきた。そして、これまでは無料で配信していたコンテンツに対し、消費者から1話ごとに料金を徴収する新しいモデルは、各ネットワークテレビ局から歓迎されそうだ。
それに比べて、映画会社を説得するのはもう少し骨が折れる作業になるだろう。映画業界の幹部らは、「FairPlay」と呼ばれるAppleのプロプライエタリなデジタル権利管理(DRM)技術に対し、深い疑念をひそかに表明していた。彼らは、新世代のDVDコピー防止技術が登場するまで、ネット経由でダウンロード販売された映画が永久的に保持されることをほとんど許していない。こうしたコピー防止技術は今年末までに登場の準備が整うと見られている。
しかし、アナリストらの考えでは、Appleのこの動きによって、特定の種類のコンテンツとその配信メカニズムが切り離される現象が加速するという。すでに多くの人々が主に家庭で映画を観るようになっているが、それと同様に、消費者が今後テレビ番組の主要な配信チャネルとしてテレビを捉えなくなる可能性もある。
「この種のコンテンツを欲しいと考える人の多くは、もはやテレビのことを気にしていない可能性さえある」とGartnerG2アナリストのMike McGuireは述べている。
しかし、ビデオ販売分野に進出したAppleは、音楽分野で直面したのとはかなり異なる競争相手に直面することになる。
もっとも熱心で技術に明るいテレビ視聴者の多くは、当然ダウンロード可能なテレビ番組の核となる市場を形成しているが、これらの人々はすでにTiVoやケーブルテレビ会社が提供しているようなデジタルビデオレコーダーを利用して、高画質の番組を録画して楽しんでいる。
こうした製品のなかには、「TiVo To Go」や11日にEchoStarのDish Networkから発表された「PocketDish」端末のように、録画したコンテンツを携帯端末やノートPCに転送できるものも増えてきている。
また、Comcastのようなケーブルテレビ運営会社も、無料で提供する番組の数を増やしており、しかもこれらは見たいときに見ることが可能だ。ネットワークテレビ局はこれまで自社の番組をこうした形で提供することに難色を示してきたが、それは最終的にこのやり方では広告収入を得られなくなるとおそれたからだった。しかし、オンディマンドのコンテンツ配信にむけたこの動きにより、視聴者は無料の番組に慣れてきており、わざわざ個別に料金を支払うことに抵抗を感じるかも知れない。
だが、多くの消費者は1シーズン分の話を丸ごと揃えたDVDを買い続けている。さらにiTunesの課金モデルであれば、視聴者は番組をさらに厳選して買うことも可能になる。
現時点でどんな欠点があるにしろ、Appleが家庭向けのビデオ市場で主要なプレイヤーになることに狙いを定めたことは明らかだ。アナリストらの憶測によると、次世代の製品ではビデオをテレビで再生できるようになる可能性もあるという。これには、Appleの「AirPort Express」のような無線接続を使用することも考えられる。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」