Googleは他に類を見ないコンピュータネットワークを保有しており、それが同社にIT業界でMicrosoftをしのぐ圧倒的な存在になるチャンスをもたらすと、先ごろ出版された同社に関する書籍の著者が主張している。
Googleはすでに各方面に大きな影響を与えている。同社は、全世界で行われているウェブ検索のおよそ半分を処理している。また、Microsoftからの移籍が裁判にまで発展したKai-Fu Leeから、インターネットの先駆者として伝説的な存在であるVint Cerfまで、業界の最重要人物を何人も獲得している。そして、社員食堂の料理長募集が地元紙で大々的に取り上げられるほど、シリコンバレーでは話題の的となっている。
だが、同社は今後どんな動きに出てくるのだろうか。前述の著者Stephen Arnoldは、Googleが保有する特許やエンジニアリング資料、技術を細かく分析した結果として、Googleには情報化時代の中心的な舞台をデスクトップからインターネットに移行させようという大きな野望がある、と推論している。同氏によると、Googleの狙いはいわゆる「仮想」アプリケーションを提供するネットワークコンピュータ・プラットフォームになることだという。この場合の「仮想」アプリケーションとは、インターネットに接続できるあらゆるデバイス上でユーザーがタスク処理に利用できるようなソフトウェアを指す。
Arnoldは今月出版した自著「The Google Legacy: How Google's Internet Search is Transforming Application Software(Googleの遺産:インターネット検索からアプリケーションソフトウェアへの転換)」の概要に、「Googleは、いまの時代のコンピューティングのあり方を変えるプラットフォームであり、同社にはMicrosoftをトップの座から引きずりおろせる可能性がある」と記している。
大成功を収めるGoogleだが、その売上高の約99%は依然としてインターネットのキーワード検索から得る広告が占めている。確かに、同社はこの主力ビジネスを築き上げており、そのうえに無料のウェブメールサービス「Gmail」や、衛星地図情報サービスの「Google Earth」などを新たなサービスを展開している。そして、新技術に投資できる現金も約70億ドルと膨大な額にのぼる。同社は、9月14日に実施した2回目の新株発行だけでも、40億ドルの資金を調達した。
そこで、CEOのEric Schmidt率いる同社が、この軍資金を何につぎ込もうとしているかが最大の疑問となってくる。
Arnoldは自著のなかで、Googleはウェブブラウザがあれば誰でも利用できるような、さまざまなアプリケーションを提供できるスーパーコンピュータを作り上げたと推論している。(なお、この書籍はPDF形式の電子版でしか入手できない)
「Googleは、多種多様なデバイスに対応するアプリケーション配信システムになろうとしている」とArnoldは言う。同氏は技術/金融アナリストとして30年の経験を持つ人物で、経営コンサルティング会社のBooz Allen & Hamiltonでは技術管理分野の事業構築に関与し、Ziff Communicationsでは技術戦略責任者を務め、またUS Westの職業別電話番号案内の電子版や、@Homeのパーソナライゼーションツールの開発にも参加したことがある。「それは、Microsoftの抱くデスクトップ中心の世界観とは別種のパラダイムだ」(Arnold)
Arnoldは、Googleがすでに出資している中国のポータルBaidu.comを買収するとの憶測をはじめ、まもなく爆発的に拡大すると見られるVoIP市場に対し、音声チャット対応のインスタントメッセージング(IM)サービス「Google Talk」以外にも新たなサービスを出してくるなど、さまざまな調査結果を披露している。
ネットワークコンピュータという概念は新しいものではない。Sun MicrosystemsのCEO、Scott McNealyは、「ネットワークこそがコンピュータだ」と何年も前から言い続けている。またOracleのCEO、Larry Ellisonは、このアイデアを核にした会社を設立したことがある。「New Internet Computer Company」というこの会社は、ウェブアクセス用のデバイスを販売していたが、2年前に廃業した。
しかし、SunやOracleとは異なり、Googleは絶好のタイミングでこの概念の実現に取り組もうとしているとArnoldは言う。「Sunはネットワークコンピュータの概念を定義し、Ellisonはそれを作り上げようとした。だが、それを手に入れるのはGoogleだ」(Arnold)
隠し味
Arnoldによると、Google創業者のSergey BrinとLarry Pageは早い時期から、数多くの安価なサーバとオープンソースソフトウェアを利用してクラスタを構築する方法を考えていたという。このシステムはちょうどクリスマスツリーのように機能し、全体の明かりをともしたままでも電飾にあたるサーバなどの構成要素を追加/交換することが可能になる、というものだ。
実際、カリフォルニア州マウンテンビューにある同社のキャンパスを訪れると、Google関係者がユニークなラックマウント式サーバシステムを誇らしげに見せてくれる。
「Googleのアーキテクチャはスケーラブルにできている。Googleは、ごく一般的なハードウェアを採用することで、有名ブランドのハードウェアで構築したシステムに依存する競合他社よりも、低コストかつ短時間で処理容量を引き上げることができる」(Arnoldの著書)
ForresterResearchアナリストのFrank Gillettによると、Googleが「Desktop Search」や「Sidebar」などをリリースしてWebサービスに参入したことが、Microsoftの大規模な組織再編ならびにMSNとプラットフォーム製品グループとの統合を促すきっかけになったという。
ダークファイバーと無線
Googleが、「ダークファイバー」と呼ばれる、敷設されながら使われていない光ファイバー網に関心を示しているとの報道は、Arnoldの推測を裏付けるものだ。
「ダークファイバーが使えれば、仮想アプリケーションと私が呼ぶものがさらに多く利用されるようになる」とArnoldは言う。「十数カ所あるGoogleのデータセンターがこのような高速回線で接続されれば、処理能力が向上し、VoIPやメディアの配信以外にも、さまざまなことが行えるようになるだろう」(Arnold)
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