楽曲は原則無料、CD-Rやポータブルオーディオプレイヤーへのコピーは自由――こんな音楽配信サービスが12月に開始する。サービス名は「music forecast 247(mF247)」。主催するのは、ソニー・ミュージックエンタテインメントの元代表取締役社長で、現在は「に・よん・なな・みゅーじっく」(247MUSIC)の代表取締役を務める丸山茂雄氏だ。
丸山氏はEPICソニーレコードを設立し、佐野元春や小室哲哉など多くの著名ミュージシャンを発掘、育成したことで知られる。また、ソニー・コンピュータエンタテインメントを設立してPlayStationの開発に携わったほか、ソニー・ミュージックエンタテインメントでは日本初の音楽配信サービスである「bitmusic」や、レコード会社が共同出資したレーベルゲートの設立において中心的な役割を果たした人物でもある。
247MUSICは、丸山氏が小さな組織で、自分ががいいと思う音楽をユーザーに届けたいと考えて設立したレコード会社だ。247は「24時間、週7日」を意味し、「24時間365日、常に音楽を聴き、音楽のことを考え、音楽と関わっていたい」という気持ちを込めているという。また、大手レコード会社の多くが国道246号沿いに位置していることから、247MUSICはそこから少し外れ、メインストリームではない音楽を志向するという意味も表現しているとのことだ。
mF247を開始する狙いや、インターネットと音楽の今後の関係について、丸山氏に話を聞いた。
--mF247では楽曲はすべて無料、コピーも自由という点が大きな注目を集めています。サービス説明会では「音楽が『情報』である間は無料でいい」という話をされていましたが(関連記事)、これはどういったことなのでしょうか。
音楽業界に長く勤めている60歳代の友人がある日、「俺はついにiPodに5000曲入れたぞ」という話をしてきたんです。そのときに、「確かにこの人は音楽業界で40年間も働いてきた人だから、自分の好きな曲が5000曲あってもおかしくはない。けれども、20歳くらいの人が5000曲もiPodに入れて持ち歩くというのはどういうことなんだろう」と考えたんです。
どう考えても、20歳の人が5000曲の全てに感動してiPodに保存しているとは思えない。それは単に楽曲を入れているだけで、そのうち感動して保存してある曲は10%くらいしかないとしたら、残りの90%はその人にとって特別な価値はないものかもしれない。
音楽は人によって、単なる情報で終わる場合とすごく大事な作品になる場合がある。でも、まず判断してもらうためには聴いてもらわないと仕方ない。だから、情報ならタダでもいいんじゃないかと。そしてたくさんの情報の中から、その人にとっての気に入った「作品」を見つけてもらう。お金をもらうのはそこからだと考えたんです。
--ずいぶん思い切った決断ですね。
そう。だからミュージシャンにいかに我々の考えに共鳴してもらって、参加してもらうかが鍵なんです。この考えを共有してもらえないと最初から成立しないですからね。
--どうやってミュージシャンを巻き込んでいくのですか。
新人の場合はどうしても、大きなレコード会社と契約したいと思うものです。ですから、最初はなかなか難しいかもしれません。
逆に我々がbiG"A"と呼ぶ大物アーティストのほうが、「こういうアプローチはあるよね」と言ってくれています。biG"A"というのは、すでに実績をもつミュージシャンで、mF247で新曲を配信することに同意している人を指します。彼らは過去に大ヒットした素晴らしい作品があったけれども、当時のリスナーは年を取り仕事が忙しくなって、音楽を聴かなくなっている。そういう人たちを呼び戻す1つのきっかけになるんじゃないかと思ってくれているんです。
biG"A"にはmF247で新曲を発表してもらうだけでなく、お勧めの楽曲を紹介するネットジョッキー(NJ)になってもらい、一緒に新しい音楽を発信していこうと考えています。
--インディーズの曲を中心に、無料で楽曲を提供する音楽配信サービスはすでにいくつもありますが、どれも大成功したとは言えません。mF247はこの現状を打破できるでしょうか。
音楽ってやっぱり才能なんですよ。インディーズと一言でいっても、きちんとお客さんがお金を払うであろうミュージシャンと、そうでない人はやっぱり違う。
これまでのサービスがきちんとした楽曲を集められていたかという点が一番の問題です。特に才能のあるミュージシャンはきちんとしたところと組みたいと思っているわけですから、こちらがふさわしい中身や哲学を持っていないといけない。ただ無料というだけでは、自分の音楽に自信のあるミュージシャンは簡単に登録しないですよ。
それから、自分の楽曲の隣に鼻歌のようなものが並べられていたら、やっぱり嫌ですよね。屋台の店に本物のシャネルのバッグが並んでいても誰も本物だとは思わないように、ある程度の品揃えがされている場所に自分の楽曲を並べてもらいたいでしょう。
mF247ではミュージシャンから提供された楽曲を審査した上でサイトに公開する制度がありますが、これはある程度の品質を保つためです。高い品質の商品が並んでいて、さらにbiG"A"というカリスマ店長がいて、「お客さん、これがお勧めですよ」と言えばお客さんも買う気になる。
いままでの配信サービスがフリーマーケットだとしたら、mF247は一定以上の品質のものしか置かないデパートなんです。ただ、シャネルのような名門の商品だけじゃなくて、若い人が作った新しいタイプのブランドも置くというようなサイトにしたいと思っています。
リスナーの立場からみれば、楽曲の料金は無料でも、良い楽曲を探すための時間というコストがかかるんです。だから、たとえ無料でも何十分も時間をかけて何も得られないようなサイトでは満足してもらえない。ある程度の品質を保つことで、安心してサイトで音楽を楽しめるようになります。
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