サンフランシスコに拠点を置くKQED Public Broadcastingの社長Jeff Clarkeは、インターネットを使ったファイル交換の愛好家である。
Clarkeのテレビ/ラジオ放送局は、4カ月前にサービスを開始した「Open Media Network」というPtoPネットワークを使って、しばらく前からインターネット上でコンテンツを配信してきた。Open Media Networkは、公共放送局向けに、高音質/高画質のコンテンツをインターネット上で配信できるサービスを、手頃な価格で提供している。
現在、KQEDがネット上で配信しているコンテンツは、サンフランシスコの歴史や地元の公園についてのドキュメンタリー番組など、わずか2、3本にすぎないが、今後さらに追加されることになっている。Clarke によると、KQEDは長年、自社サイトに動画や音声データを試験的に掲載してきたが、Open Media Networkのおかげで、これまでよりもはるかに安くテレビ番組を配信できるようになったという。
「公共放送サービス(Public Broadcasting Service)は、これまで常に誰もが番組を楽しめるということを大切にしてきた。われわれはいま21世紀の技術を使って、この目標を実現しようとしている」(Clarke)
ClarkeのKQEDは、インターネットで人々にテレビ番組を届けようとする流れの最先端を行っている。この流れはまだ始まったばかりだが、いずれはこれが、ブログが活字メディアに与えた影響や、ポッドキャスティングがラジオに与えた影響と同じような影響をテレビの世界に与える可能性がある。プロの製作した番組を、アマチュアやインディーズの製作したコンテンツと同じ方法で配信することで、これらのツールはメディアの民主化を推し進めようとしているが、ただしそれがどのように進むかはいまのところ予測できない。
こうした変化を主に促しているのが、新しい配信技術であるのは、他のツールやメディアの場合と同じだ。この新しい配信技術は、従来のメディア企業によるオンラインでのコンテンツ提供を可能にすると同時に、一般の人々が自主制作したコンテンツを低コストで配信することも可能にしている。
従来、映像の配信は、他のメディアの場合に比べて、より多くの困難を伴うものだった。わずか2、3分程度の短い映像ファイルでも、平均的なMP3ファイルの数倍の容量になり、高画質で撮影された30分番組となると、ブロードバンド接続でもダウンロードするのに数時間を要する。それだけの大容量データの送信に必要な帯域幅を確保するには多くのコストがかかるため、多くの小規模な企業や個人ユーザーにとって、映像をそのままダウンロードさせることはあまり現実的ではなかった。
しかし、PtoP技術が、小企業や個人によるビデオ配信をより現実的なものに変えた。PtoPでは、あるファイルをダウンロードしてきたコンピュータが今度はそれを他のコンピュータに配信することができる。そのようにして、視聴者全員がそのファイルの配信に力を貸すことができ、大勢のユーザーが帯域幅の負担を分担することになるため、番組制作者だけが配信コストの負担を余儀なくされることはない。
すでに、KontikiやRed Swooshなどの企業が、独自のプロプライエタリなファイル交換ツールを使って、映像やコンピュータゲームといった大容量ファイルを低コストで配信できる手段を提供している。また独立系の製作者らは、オープンソース技術のBitTorrentをよく利用している。
ビデオブログから、ダウンロード可能な高画質映像ファイルまで
米国時間8日には、Participatory Culture Foundation(PCF)と呼ばれる組織が、DTVソフトウェアの最初のベータ版を公開した。Downhill BattleというPtoP活動家グループから分派したPCFでは、このアプリケーションを使ってインディーズのビデオをオンラインで集め、それを配信しようとしている。
このソフトウェアの最初のバージョンは、Macintosh向けのもので、iTunesに似たすっきりとしたインターフェースをしており、映像のフルスクリーン表示が可能だ。当初、閲覧/視聴が可能なコンテンツの大半は、ビデオブログや独立系のメディアが製作したものだが、PCFは元副大統領のAl Goreとの間で、同氏が手掛ける新しいテレビ事業「Channel.tv」の番組を配信する契約を結んでいる。
PCFのアウトリーチ担当ディレクター、David Mooreは、同グループの開発プロジェクトに関する説明の中で、「オンラインビデオ(配信)にはホームベースが必要だとわれわれは考えている」と述べ、さらに「(つまり)iTunesが必要だ」と語った。
Mooreによると、PCFは、映像をBitTorrentファイルに変換して高速にダウンロードできるようにするツールをすでに開発しており、これを使えば誰でも同システムで作品を公開できるという。このソフトウェアのWindows版も今年中に発表される予定だ。
高画質の番組をケーブルテレビや衛星放送に配給している「HDNet」は先週、PtoPツール「Red Swoosh」を使った高画質コンテンツのオンライン配信を試験的に開始した。 同社を経営しているのは、NBAのバスケットボールチームDallas MavericksのオーナーであるMark Cubanだ。HDNetが最初に発表したコンテンツは、先ごろ行なわれたスペースシャトル打ち上げの模様を映した20分間(1.3ギガバイト)のビデオクリップだった。HDNetは向こう数週間以内にさらに多くのコンテンツを配信するとしている。
しかし、公共のテレビ局は、民間のテレビ局よりも早いスピードでPtoPの分野に進出している。
多くの公共放送局は、非営利団体のOpen Media Network(OMN)と連携している。OMNは、PtoPコンテンツ配信ネットワークKontikiの創設者で、Appleの元社員でもあるMike Homerが創設した企業。KQEDなどの公共のテレビ局の番組をインターネット上の一カ所に集めることを目的に4月に設立されたOMNには、現在1万5000件のファイルが集まっており、特に音声ポッドキャストに重点が置かれている。
OMNで検索可能なテレビ番組数は、KazaaやeDonkeyといったファイル交換ネットワークほど多くはない。だが、それらのネットワーク上にある番組とは異なり、Homerが提供しているコンテンツは、全て著作権保有者の許可を得て合法的に提供されている。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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