Mark Cubanという人物には多くの顔がある。ネット億万長者、NBAのバスケットボールチーム Dallas Mavericks のオーナー、そして最近ではこれにゴールデンタイムの人気テレビ番組「Benefactor」の主役という顔が加わっている。
インターネットブームの最盛期に、自ら立ち上げたBroadcast.comをYahooに売却したCubanは、この時取得した59億ドル相当のYahoo株式のうち10億ドル以上を後に現金化し、文字通り巨万の富を手に入れた。しかし、この売却から5年たった今でも、Cubanの体内にはハイテク起業家の血が流れているようだ。先ごろ行われた「Web 2.0」カンファレンスで講演した同氏は、ちょうどそのとき連邦議会で審議されていたInduce Actを槍玉にあげた。同氏の言い分では、この法案は著作物の濫用に関して、他人の行為に対する責任をソフトウェア開発者に取らせようとするものだという。同氏はまた、この法案の旗振り役であるOrrin Hatch上院議員にさえも非難の矛先を向け、同議員は「コンピュータにぶつかっても、一体何にあたったか分からないだろう」と述べた。
こうしたレトリックはさておいて、Cubanの持つ多くのペルソナにはある共通の特徴がある。それは、同氏の疲れ知らずな働きぶりで、自らの立ち上げた事業を売り込み続ける同氏の姿を恥知らずと評する人間もいるほどだ。
Cubanは今でも副業として複数のプロジェクトに関わっているが、そのなかにはHDNetというCATVや衛星放送経由の高品位テレビ(HDTV)番組配信事業もある。同氏は、HDNetがHDTVを購入した家庭に対して番組を提供する最先端の放送局になることに賭けている。
そんなCubanの考えにも、確かに一理あるかもしれない。HDTVの価格はいまでも下がり続けており、またHBOやDiscovery Channelなど高品位の番組を流すCATVネットワークの数も増えている。さらに、連邦政府は従来のアナログ地上波で放送されているテレビのデジタル化を後押ししている。
実際、CubanはHDTV市場が今大きな転換点に差し掛かっていると考えており、この変化は1990年代に起こったPCや、世紀の変わり目にあったDVDプレイヤーの普及に相当するものだと考えている。つまり、価格が下落するなかで、HDTVの普及率は今後も増加していくというのが同氏の考えだ。
同氏は、CNET News.comと電子メールのやりとりをするなかで、HDTVの成長に関する自らの見通しを詳しく語った。
--あなたは、Broadcast.comをYahooに売却し、Dallas Mavericksを手に入れました。また、今ではご自分の出演するテレビ番組もお持ちです。この上、さらに自らのHDTV放送局をつくろうとするのは、一体どんな点に興味があってのことですか。
ずばり、大きなチャンスがあるからです。2000年には、HDTVなど高すぎて普及するわけがない--万一普及するとしても20年後だろう、と誰もがそう言っていました。ですが私は、これはテレビの形をしたPCなんだな、と考えていたのです。
HDTVが価格対性能比の点でPCと同じ軌跡をたどる--つまり、価格は大幅に下がり、同時に機能は向上していくということが、その時の私には分かっていました。そこで、HDTVのビジネス面を調べてみたところ、帯域幅には限りがあることがわかりました。さらに重要なのは、HDTV番組の製作に関して、大多数のケーブル局は確たる保証が見込めるまでは、決して投資を行わないということがわかった点です。
私はこの機会に乗じてHDNetとHDNet Moviesを立ち上げ、一部の帯域幅と配信チャネルを確保し、そしてすべてがHDクオリティで製作された番組ライブラリーをつくり始めた、というわけです。
--HD対応テレビに対する消費者の需要はいかがですか。価格はどこまで手頃になっていますか。
インターネットの普及にたとえると、ちょうど1998年頃の状況にあります。つまり、誰もが使っているというわけではないが、いずれは自分も使うようになることを誰もが知っている、という状況です。現在すでに36インチ以上のテレビでHDTVに対応しないものはありませんし、HDTV放送が観られる小型テレビの最安値は300ドル程度にまで下がっており、しかも下がり方が急になっています。
--地上波のネットワーク局に、HBOやDiscovery Channelのようなケーブル局、そして公共テレビなど、多くのテレビ局がHDTV番組を放映しています。しかし現時点では、これらの放送は先進的な新しい試みでしかなく、きちんとしたビジネスとして確立されていません。各テレビ局やCATV/衛星テレビ事業者は、どうすればHDTVでお金を設けられるようになるのでしょうか。
FMラジオが登場した時にも、それと同じことが言われていました。
AMでしか音楽が聴けない時に登場したFM放送は、お金にならない新奇な試みでしたか。それと同じように、今後HDTVに移行しない、あるいはしたくてもできないテレビ局は、いまのAMラジオと同じ立場に追いやられます。CATVや衛星テレビの価値が高まるなかで、アナログ局の価値はそれよりもずっと低いものになってしまうでしょう。
--消費者にとってHDTVのメリットとは何ですか。高画質以外にどんなメリットがありますか。
ワイド画面、高解像度、薄型/軽量化といった点に加えて、他にもいろいろな機能があります。しかし、どんな機能があるかは問題ではありません。テレビのアナログ放送はいずれなくなってしまうのです。いまのアナログ受像機よりも安くHDTV対応のテレビを買えるような時代が来るのです。
--カラーテレビの登場でテレビは大きく変わりました。高解像度のHDTVでも、同じような変化が起こるでしょうか。顔のシミを隠すためにメークさんが仕事が増えたりしますか。
確かにそういったことはあるでしょう。しかし、人間は変化に適応するものですから、これは大した問題にはならないでしょう。
--何十年も前からHDTVの普及を予想する声はありました。今実際にHDTV時代が到来しているわけですが、その普及を遅らせるものがあるとしたら、それは一体なんですか。
まったくありません、ゼロです。ただし、政府がInduce Actのような何か馬鹿げたマネをしなければ、という条件付きですが。
ああした提案を行う連中が何をしたいかはすぐ分かります。つまり、HDTVの普及で自分のビジネスがマイナスの影響を受ける人間が、テレビメーカーを訴えて高解像度テレビを作れないようにすることが彼らの狙いです。しかし、非常に美しい映像のせいで、人々が(違法)コピーをつくりたくなる、だからそんなテレビは禁止しろ、というのは馬鹿げています。また、ハードディスク内蔵のテレビについても同じことがいえるでしょう。
いずれにしても、余計な干渉をしなければ、いずれHDTVは自然に浸透します。そしてコンテンツの新たな配信手段として繁栄するでしょう。
--PCメーカー各社がHDTV分野で大きな役割を演じる方法はありますか。
私なら、現在も低下し続けているストレージのコストを利用します。そして、まずCinemaNowや他のコンテンツプロバイダと話をつけ、できる限りたくさんの映画やテレビ番組を、PC(のハードディスク)に詰め込みます。DRMを使えば、1コンテンツいくらという課金ができますし、それでかなりの売上をコンテンツプロバイダとシェアできるでしょう。しかもハードウェアの追加コストはゼロです。
--YahooやAOL、MSNといった大手サイトが、HDTV分野に進出する方法はありますか。
彼らがそうしたいと考える理由は?
--ハク付けのためです。ところで「Benefactor」では誰が賞金を手にすることになるのでしょう?
それは、私が決めることです。
--最後に1つだけ。MarvericksがNBAタイトルを手にするのは、いつ頃になりそうですか?
しばらく先でしょう。
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