6月27日、米国最高裁でGroksterとStreamCastが提供するファイル交換サービスに対して、実質的な違法判断が下された。しかし、ファイル交換サービス自体やそれを可能にしているテクノロジーに著作権侵害という違法性を見出すのは困難だと考える人は多いのではないか。
規範となっている「ベータマックス判決」
米国のIT産業では、幾つかの裁判所で下された規範となる判断がある。連邦委員会などによる裁定や同意審決があるが、いずれも産業のあり方そのものを変える分岐点となったものだ。
たとえば通信領域では、AT&TとIBMの事業領域の範疇(はんちゅう)を定めた1956年の同意審決と1982年の主にAT&Aに関する修正や、同じく2社間でデータ通信事業への進出を定めた1971年の「第1次コンピュータ裁定」などがあるだろう。
同様に、映像コンテンツをめぐる著作権関連では、1984年の「ベータマックス判決」が大きな影響を持っており、今回のPtoPサービス事業者に対する訴訟もそれをよりどころにするかどうかに大きな注目が集まった。
ベータマックス裁判とは、「テレビ番組や映画などを家庭用VTRによって個人が複製し、それを違法に販売するようになったのは、家庭用VTRを開発・販売する企業がそのような行為を助長したからだ」として、ディズニーらハリウッド映画会社が家庭用VTR規格「ベータマックス」を開発・販売しているソニーを訴訟した事件だ。結果的に裁判所は「フェアユース(私的利用)」の範疇での利用を前提とした個人の権利保護を優先し、家庭用VTR機器を提供している事業者はその利便性を提供しているに過ぎず、非はないとした判決を下した。
以来、著作権侵害という違法性のある行為の責任は、それを可能にした機器の提供者などではなく、それを意図し実行した個人や法人に帰属するとされるようになった。そしてその根拠となっているのがベータマックス判決であった。
複雑化する環境下では判断が困難に
しかしながら、ファイル交換「サービス」を提供した旧Napsterをめぐる裁判では、連邦地裁は旧Napsterに対してサービスの差し止め命令を2001年に下している。PtoPテクノロジーそのものの是非はさておき、そのテクノロジーの存在を前提にしたNapsterのサービスは、利用者が著作権を侵害する、つまり本来有料のコンテンツを無料で取得して不当に経済的な利益を得ることを想定したものだというのが判断の根拠となっていた。
一方、日本ではPtoPテクノロジーそのものの存在が著作権侵害行為幇助にあたるとして、ファイル交換ソフト「Winny」の作者が逮捕されている。
そして、今回のGrokster・StreamCastケースが現れた。
誰もが納得できる明確な判断基準は今のところ存在しない、という点には多くの人が同意するだろう。僕が学部の共通科目として「情報メディア論」を教えている江戸川大学で、受講者の学生諸君に今回の米国PtoPサービス判決についての意見をエッセーとしてまとめてもらったところ、実に多様な意見が表れた。誰もが明確な判断基準がないために混乱しているといった印象なのだ。
しかし裁判では、活発なロビー活動の成果か、全般的にコンテンツ制作者あるいは流通事業者にとって有利な判決が出る傾向が強まってきている。
米国の著作権侵害訴訟の背景には、音楽業界の経済的不調やデジタルテクノロジーに対する映像コンテンツ制作者らの過剰ともいえる恐怖感があることは間違いない。日本でもファイル交換に限らず、楽曲CDの逆輸入を制限するような保護主義的な動きが現れている。
その根拠としてよく言われるのが、ファイル交換によって本来あるべき流通(CDやDVDなどの販売)が阻害されるなどの「弊害がすでに生じている」という主張だ。
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