国連とITUがインターネットの管理権を手中に収めることに成功したら、互いに対立する小国のように、インターネットが分割されてしまうことは想像に難くない。というのは、国連とITUを唯一の権威機関として認めることを拒否する決定が各国で下されているからだ。そうした事態になれば、世界経済は甚大な被害を被ることになる。
また、インターネットを統治するこれらの役職は、国連の役人がほしがるような割のいいものではなくなるだろう。インターネットの先駆者であるVint Cerfのような立場の人間が、どこかの国の独裁者の遠い親戚に取って代わられる、などということが起こるかもしれない。
国連とITUが、ICANNに取って代わるために展開している議論は、主に2つある。1つは米国からインターネットの管理権を取り戻すため、もう1つはICANNが民間の組織であり、誰の恩恵も受けず、誰も代表していないというものだ。
念のために言っておくが、ICANNはカリフォルニア州の非営利団体であり、形の上では米国商務省の下位組織である。そして、商務省によって6カ月ごとに見直し/更新される覚書にもとづいて運営されている。
だが、それでもICANNは米国の組織ではない。ICANNはあくまでもグローバルな組織だ。15人の理事のうち米国人は3名だけだ。主要な政策決定部門である汎用名支持組織評議会の22名のメンバーのうち米国人は6名、また一般会員による勧告評議会の10名のメンバーのうち米国人は2名しかいない。ICANNの会議が米国で最後に開かれたのは2001年11月のことで、また次に開催されるのは2007年6月だ(ちなみに、北米で開かれた最後の会議は2003年1月のモントリオールで、次回の会議は今年12月にカナダのバンクーバーで開かれることになっている)。
代表制という点に関して、ICANNは、時間をとって参加する努力を払う意思があることを、メンバーになるための唯一の要件として掲げてきた。現在の代表も、世界中のインターネットコミュニティから集まっている。参加のレベル、参加の質、意思決定プロセスの成果物は、ICANNの歴史の中で着実に改善されてきた。
国連やITUでは、こうしたことをうたい文句にするのは不可能だろう。意思決定プロセスに参加するには、一国の政府または大手通信企業での地位が必要になるが、そうした人物がインターネットの良さを評価も理解もしていないことはよく知られている。
国連とITUの担当者は、政治的駆け引きという点で、ICANNのスタッフあるいはICANNの意思決定プロセスに参加している大半の人たちよりも、間違いなく長けているだろう。それだけに、恐れていることが余計に現実味を帯びてくる。
われわれは皆、自由なインターネットという実り豊かなエコシステムに依存していることを忘れてはならない。誰もが、インターネットが生み出す技術革新、インターネットが提供する情報、インターネットによって実現される対話の恩恵を受けている。これを当たり前のことと考えてはならない。
自由なインターネットに依存している企業(つまりほとんどのIT企業)は、企業またはISPの基盤を利用して、ICANNの意思決定プロセスに積極的に参加する必要がある。その他の組織や非営利団体は、非商用基盤を通じて参加する必要がある。
政府の意思決定者に意見を言える立場の世界中の企業、組織、個人は、インターネットの自由を維持する必要があること、そしてICANNを支持することがインターネットの原則を支持することになることを、自国の政府担当者に伝える必要がある。インターネットの将来を危惧し、ICANNを改善して自由なインターネットを維持することができると信じている個人ユーザーは、ICANN指名委員会のスタッフ公募に応募してみるべきだ。ICANNは、候補者のなかから適任者を見つけて組織を改革することを望んでいる。
インターネットは、過去10年間で、自由、教育、革新的アイデアの進歩に最も大きく貢献した。インターネットの基盤をなす価値を維持することの重要性を理解していない人たちや組織からインターネットを守ろうではないか。
著者紹介
Elliot Noss
米ISP、Tucowsの社長兼CEO
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