AppleがIntelプロセッサに切り替えると、いったい誰が予想しただろうか。
少なくとも、私は違う。18カ月前のコラムで、私はこのような話は実現しないだろうと書いた。そんなことになれば、クローンメーカーが低価格のMacをつくるようになり、MacはWindows PCとの価格競争にさらされることになる、というのがその理由だった(このコラムではIBMのサービス事業の低迷も予測したので、予想が全く当たらなかったというわけでもない)。
先月、Appleがプロセッサの変更を検討しているというニュースが流れると、私はこの提携の可能性を疑問視するアナリストらの言葉を引いて記事を書いた。動物は変化を事前に察知するというが、私は我が家の飼い猫が2週間前からコーヒーを飲んだり、ノコギリで遊んだりするようになっていたことをすっかり見逃していた。
もっとも、私の予測は完全に外れたわけではない。チップの変更は簡単には進まないだろうし、2006年6月にIntelプロセッサを搭載した最初のマシンが登場するまでは、Macの売上も低迷するだろう。製品ラインから消えることが分かっているPCを買う客は多くない。一方、賢いPC/ソフトウェアメーカー、特に新興市場のメーカーは、Mac OSを低価格のホワイトボックスPCに搭載する方法を見つけるだろう。
意思決定には得てしてリスクと困難が伴う。1914年のオーストリア・ハンガリー帝国は、セルビア人に自分たちの意思を押しつけてはいなかった。バルカン諸国では羊のチーズが重要な交易品だったからだ。しかし、威信を失う恐怖、ロシアに対する懸念、そしてドイツの皇帝からの圧力が帝国を次第に危険な行動へと駆り立てていった。
PowerPCチップを採用した頃から、Appleは性能の問題に直面するようになった。90年代前半には、PowerPCの性能も、IntelやAMD(Advanced Micro Devices)のプロセッサと比べても、それほど見劣りするものではなかった。しかし、両社がIBMを上回るペースで、より高速で安価なチップを開発したため、その差はどんどん開いていった。
2003年にG5プロセッサが登場すると、問題はさらに深刻化した。AppleがG5の優位性を証明するために発表したベンチマークには多くの人から疑問の声が上がっていた。
AppleがG5を搭載したPCに水冷システムを採用すると、AppleファンはこれをAppleの技術的先見性を示すものだと称えた。しかし、VLSI ResearchのCEO、Dan Hutchesonの見方は違った。Hutchesonによれば、この冷却システムを導入したことにより、Macの製造コストは約50ドル跳ね上がったという。歴史的にみても、液体冷却はそのプロセッサ製品の寿命がそう長くはないことを示している。
Appleが電話会議でG5への不満を公言するようになると、IBMとの関係は危機的状況に陥った。IBMは批判、特に同盟相手からの批判に耳を傾けるタイプではない。「われわれはレジを発明した!われわれはフラクタルを見いだした!われわれはクリスマス特番の常連スポンサーだ」というのが、外部に対するIBMの基本的な態度だ。IBMはゲーム機メーカーに接近し、カーステレオでスプリングスティーンの古いレコードを聞くようになった。別れの予感は突然やって来た。
Appleの開発者向けカンファレンスで、同社CEOのSteve Jobsは、「将来に向けて、さまざまな製品の開発を計画しているが、PowerPCのロードマップでは、これらの計画をどう実現できるのか分からなかった」と述べた。
不思議なことに、G5の問題があるにもかかわらず、Appleの市場シェアは最近、四半期ごとに伸び続けている。
IntelのPentium 4にも消費電力の問題はあるが、Intelはデュアルコアに移行することで、この問題に対処しつつある。ノートPCやデスクトップPC向けの新しいチップ(「Yonah」「Merom」「Conroe」など)が登場すれば、消費電力はさらに削減され、Appleは小さくスマートなシステムを構築できるようになるだろう。
Intelと提携する利点は他にもある。同社は近年、サーバやその他のコンピュータの開発に必要な技術を、他社に積極的に提供するようになっている。同社が提供するリファレンス設計を使えば、部品メーカーは共通の仕様に沿った部品を簡単に開発することができる。この仕組みはAppleのPCと他社製PCの価格差を縮める上でも役立つかもしれない(現在、その差は約300ドルに達している)
とはいえ、Appleは他社と同じ土俵に立つことも余儀なくされることになる。米国時間6日には赤絨毯の上を歩いたAppleも、来年は東芝、ソニー、Gatewayなど「その他大勢」の企業と同じバスに乗ることになる。Appleよりも多くのPCを販売しているAcerのほうが、Appleよりも大きなボリュームディスカウントを得られる可能性が高い。
Appleのこだわりである独自性にも翳りが出てくるだろう。これから何が起きるのかは誰にも分からない。Appleは肩を落とし、ふたたび思案をめぐらせるかもしれない。そのとき、Appleの目にはAMDのHector Ruizが映るかもしれない。そしてAppleはこう自問するかもしれない。「Ruizは新興市場の重要性を熱心に語っている。AMDは市場リーダーではないが・・・」
著者紹介
Michael Kanellos
CNET News.comの編集者。ハードウェア、科学、研究開発分野、新興企業などの分野を幅広くカバーしている。コーネル大学とヘースティングズカレッジで弁護士の資格を取得。弁護士、フリーのライターなど、さまざまな仕事を経験している。
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