ハイテク業界には様々な噂が飛び交っている。しかももっともらしい話ばかりだ。予期せぬ出来事も頻繁に起きる。
10年前、豚の皮を油で揚げたスナック菓子が好きなイリノイ大学の大学院生が後に世界のビジネスを変えるとは誰も思っていなかった。フィンランドがワイヤレス通信やOSで世界をリードするなんてもってのほかで、ベルギー覇権の時代が来る可能性のほうがよっぽど大きいと思われていたくらいだ。
一方、よく耳にはするが実現性が極めて薄いような話がいくつもある。テレビ会議やマイクロペイメント(小口の電子決済)、電子書籍などは、いつか大ヒットすると思われていた。しかし一般ユーザーはこれらすべてに不満を感じ、大ヒットは未だ実現していない。
確かに何だって起こる可能性はある。2001年始めにHewlett-Packard(HP)のWebb McKinneyは、PC業界での合併は一般的に成功しないと言い、Compaq ComputerのMike WinklerらはCompaqが持ちこたえられると語った。しかしその5カ月後、HPはCompaqを買収したのだ。
つまり噂話が実現する可能性がゼロということはないのだが、ここでは実現の可能性が極めて薄い諸説について検証してみよう。
1.Apple ComputerがIntelの半導体を採用?
安価でメガヘルツ級のIntelプロセッサをMacに搭載する契約は、1980年代にほぼ実現しかけていたと、Appleの前CEO、John Sculleyは語った。Sculleyは最近「あれはAppleの最大の戦略ミスのひとつだった」と話している。
何が問題だったのか。もしAppleが自社のOSをIntelに移植し、OSを店頭販売していたら、クローン企業がすぐに生まれていただろう。訴訟を起こして、コピーOSの製造メーカーを取り締まったとしても、消費者が独自にOSをコピーする可能性もある。そしてAppleは、安価なコピー商品に悩まされる羽目に陥っていただろう。
2.Microsoftが本社をカナダに移転?
この説は、カナダがMicrosoftに米国の規制の手の及ばない安全な避難所を提供し、その見返りに雇用を得るというものだ。
これには2つの問題がある。まずこの説が実現するためには、カナダ人が丸太小屋から這い出てきて、金もうけのためなら何でもする国民に生まれ変わる必要がある。しかしこのような性質は、どちらかというと私の出身地であるネバダ州のほうがぴったりだ。もうひとつの問題は輸出規制だ。合法的に米国で製品を販売するため、Microsoftは米国の司法に準じなければならない。だからこそEUも調査ができるのだ。つまり、本社を移転しても意味がない。
3.Microsoftが積極的に悪事を働く?
確かに、Microsoftの建物は五芒星に近い形をしている。もっと論理的な言い方をすれば、同社には非常に攻撃的な人材が多すぎるということだ。また同社は、契約文書作りと交渉術にも長けている。
それでも、私自身が好むBill Gatesのイメージは、本社中を駆け回りながら次のように叫んでいるものだ。「Raikes、Ballmer、マントを羽織って、生け贄の鶏を持って来なさい。祈祷室で落ち合おう」と。
4.IBMがAdvanced Micro Devices(AMD)を買収?
IBMは、Intelの手強い競争相手となる必要条件をほとんど備えている。強力な半導体開発陣、膨大な資金、ニューヨーク州のイーストフィッシュキルという町にある最先端の製造工場などだ。一方AMDは、Opteronという半導体を抱えているが、これをビジネスとして成功させるための資金と手段を必要としている。
ならばどうしてIBMによるAMD買収が現実しないのか。それは、Intelと競うのは面白いことではないからだ。AMDが1995年以降に黒字を出したのは1年だけで、同社は(映画「ロッキー3」のミスターTのように)自分の主張が正しいと証明するためだけに努力しているようにさえ見える。だがIBMがそんなことをする必要はない。おまけにIBMは1990年代後半、CyrixとのPC互換機用半導体事業で失敗を味わっている。
それよりIBMは、Opteron技術のライセンス契約をAMDと結び、例えば製造の一部を担うことで利益を上げられるだろう。
リサーチ会社IlluminataのアナリストJonathan Euniceは、この2社の合併を、SperryとBurroughsの合併に置き換えて語っている。SperryとBurroughs合併後の新会社Unisysの新モットーは「2つのパワー」で、成長が累乗されることを表すものだったが、Euniceはこれを「パワーのあるものと、それほどパワーのないものとが合併した(結果、パワーが倍増したわけではない)」と揶揄した。
5.Sun Microsystemsはソフトウェア企業である?
ハードウェアのコモディティ化理論とは、「現在ユーザーがSunのサーバを買う理由はOSとアプリケーションにある」というものだ。実際、ハードウェアのコモディティ化は急速に進んでいる。つまりSunは、Intelベースのサーバ上で走るSolarisとミドルウェアを販売していれば成功できるのだ。同じ説がEMCなどのストレージ企業にもあてはまる。
技術的には、これはまさしくSunが目指していることだ。しかし、結果は期待されているほど単純ではないだろう。ソフトウェアが稼動するには何らかのハードウェアが必要だ。また、ハードウェアとの相性が悪ければ、ソフトウェアは力を発揮できない。つまりハードウェアメーカーは、ハードウェアの開発を続けるか、または信頼できるパートナーを見つけて大きなプロジェクトを分業しなければならない。
個性を変えることに成功した企業は数少ないし、成功に至った企業には特別な事情があるものだ。Pixarはかつてワークステーションを製造していたが、映画の成功に押されて変わった。Intergraphもワークステーションメーカーだったが、後に新しく生まれ変わった。しかしこれも、同社の持つ特許のお陰でIntel、Texas Instruments、Gateway、HPなどを訴えることができたからだ。
6.PCは消えて無くなる?
ハードウェア業界でも軍事機密並み扱いの説であるが、決してなくならない説でもある。IBMはPCから撤退すると思われていたし、HPもそれに続くと思われていた。インターネット家電が、またゲーム機やテレビの双方向通信サービス用端末が、IBMやHPを駆逐するはずだったのだ。しかし、およそ1億6100万台のPCが今年中に出荷される見込みだ。
なぜPCは姿を消さないのか。PCの低価格化は続き、設計に明らかな欠陥もあるが機能的だからだ。IBMとHPのPC販売の利益はたいしたものではないが、仮に彼らが市場から撤退したとしても、今度はDellが彼らの企業顧客相手にデスクトップを提供しようと攻勢をしかけてくるだろう。毎日Dellの営業員が差し入れのコーヒーを手にやってくるに違いない。
ある意味、PCの位置づけは自動車と似ている。公共の交通手段は、燃料効率はいいが遅い。自動車の効率は悪いが、それでも売れ続けている。効率も良くて早いといった夢のマシンはまだ実現していないということだ。
7.サービスこそがドル箱?
各企業はサービス事業に力を入れ始めている。しかし、成長中の市場とはいえ、サービスの提供には大きな問題が伴う。実はサービス提供における利益は他の事業に比べてかなり薄いのだ。最近の四半期で、IBMはサービス事業の純利益は25.1%と報告しているが、これはハードウェア事業の利益率25.2%よりも低い。同社のソフトウェア事業の利益率は85.2%、金融事業の利益率は57.7%、その他事業の利益率は53.4%だ。
サービスには2つの問題がある。第一に、ユーザーはサービス料の支払いを嫌う。商品は目に見えるものなので、どこにお金が行くのか説明がつく。つまり、サービス料は契約交渉の際に値引きを迫られてしまうのだ。第二の問題は、ソフトウェアの開発コストがサービスの料金ほど簡単には下がらないことだ。また、アプリケーションを製品として販売する場合なら、いったんその開発が終了すれば後はたいしたコストはかからない。これに対して、サービスとしてアプリケーションを提供しようとすると、開発コストを回収するために数多くの顧客を獲得せねばならず、結局プレゼンに走り回る営業担当者を雇い続ける羽目に陥り、その分の人件費も払い続けることとなってしまう。
8.ウェブサイトは広告主の希望に合ったコンテンツの提供をする?
私は毎日5、6通の手紙を受け取るが、手紙の内容は私がいくつかの大手広告主のためにサクラを演じていると非難するものだ。しかし私を信じて欲しい。それが本当なら、こんなにみすぼらしい生活はしていないはずだ。
9.マーケティング担当者は、ユーザーのネットサーフィンの習慣を材料に、特定のユーザーに照準を合わせることができる?
これはいつか実現するかもしれない。しかし、アルゴリズムには必ず何らかの助けが必要だ。住宅ローンの借り換え、ワニの干し肉、脳移植の秘密といったことに興味を持っている人間は数多いのである。
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