デルのビジネスの核心はROIを徹底追求したIT投資--デルの北アジアCIOが講演

奥隆朗(CNET Japan編集部)2005年03月25日 12時05分

イントラネットで人材資源の強化を図る

 各種の調査機関によると、現在の企業のIT投資は、7割以上がシステム運用費で占めるられているという。これは、保守・運用に多額を費やしており、「守りのIT投資」と言われているのが実情だ。こうした問題に一石を投じようとするセミナーが「IT Trend 2005」である。同セミナーは「成長戦略につながる攻めのIT投資を--IT企業トップが語る日米最新事例」とサブタイトルが付いているとおりり、攻めのIT投資を促すベンダーが、自社や顧客企業の導入事例を提示した。

 その中で興味深かったのが成長の鈍化しているPC/IAサーバの販売で高い伸びを維持している米Dellの自社のIT戦略を紹介するセッションである。

Dell 北アジア地域CIO 山田祐治氏

 講演者であるDell北アジア地域CIOである山田祐治氏は、冒頭でデルの経営戦略の軸として「顧客との接点となるウェブサイトのほか、サプライヤーとのバリューチェーン、そして社内イントラネットの存在」を挙げた。

 同社が持つウェブサイトでの強みは、物販のほかにリサーチを積極的に行うことで、現状問題の把握と分析のチャネルとして活用すること。サプライヤーとのバリューチェーンの強みに関しては、完全なBTOと2時間ごとの部品供給を実現するために、約800社に絞り込んだ部品サプライヤーとの円滑な情報共有の体制を挙げる。

 講演の中で山田氏が最も強調した部分がイントラネットの活用だ。デルでは、営業や製造といった各種業務に関する支援だけでなく、Eラーニングやウェブキャスト、人材開発・評価ツールとしてイントラネットを利用しているという。

 一例を挙げると、デルは、プライバシー、セキュリティ、そしてコンプライアンスに関する事柄など、全社員に必要な知識を確実に習得させるのにEラーニングを使用する。学習状況は、ユーザーアカウントごとに管理されており、テストの進捗状況もチェックされるため、世界中で統一管理が可能となっている。

 ウェブキャストは、経営指針や各種の目標の伝達に利用されるという一般的な用途であるが、人材開発・評価ツールとしてかなりシステマティックな作りとなっている。イントラネットには、各個人の前職歴や社内での職務内容、そしてデル社員として習得しなくてはならない14のコンピタンシーレベルの熟練度などが掲載されている。これを基にマネージャーは、適性を判断すると同時に当事者と話し合い、人材開発プランを決定する。一方で、各個人の所属希望も記載できることで、人員不足の部署などが発生した際には、希望やスキルを加味しながら適正な人材をピックアップできる仕組みだ。

「かゆいところに手が届かない!?」システムが基本

 山田氏は続いて、デルの戦略的IT投資がどのような方法で行われているかを解説した。デルは今では「DELL on DELL」のコンセプトのもと、自社で販売しているハードウェアを全面的に採用するとともに、自社開発のシステムとパッケージソフトを組み合わせたグローバルシステムを構築している。だが、1998年までIAサーバを扱っていなかったことから、煩雑なシステム構成となっていた。

 山田氏は「自社のシステムに関しても、Unixやメインフレームなどさまざまなシステム環境が混在し、保守に多大なコストを費やしていた」と当時を振り返る。

 転機が訪れたのは、2000年に創業者であるマイケル・デル氏がデルが真のグローバル企業になることを標榜し、各分野にミッションステートメントを定め、IT投資にもROIを求めるようになったことだ。以降、IT投資はグローバルでの徹底した標準化を実施するとともに、6つの基本信条を策定した(写真1)。

 この中で2番目に挙げたグローバルなビジネス戦略とIT戦略の融合を図るために、それまでの部分最適から、全体最適を求めたシステム構築を進めた。IT投資が経営会議の承認の下で行われるようにしたことで、経営陣は、ブラックボックス化していたバックオフィスシステムの動きを把握するようになったのだ。

 さらに、予算ベースのIT投資から、やるべきことをベースに最小限の投資額で最大限の効果を出すためのシステム構築を追求。実施前に必要コストと利益の徹底したシミュレーションを行うだけでなく、プロジェクト実行後3カ月後に効果測定を行って、精度を向上させる取り組みを行った。デル内でのROI回収(投資額と同等のコスト削減や利益が創出されること)期間は、2000年には1.5年と設定されていたが、今ではわすか6カ月に短縮されているという。さらに、今後はITへの投資売り上げの1%以内に抑えると、他にはない厳しい目標を立てている。

 山田氏はデルのシステムを指して、「かゆいところに手の届かないシステム」であると揶揄する。それは、エンドユーザーの使いやすさを吸い上げて構築したシステムではなく、経営戦略としての利益を追求して構築したシステムであるからだ。「DELL on DELL」のシステムにしても、グローバルで共通なシステム構成なのに加えて、カスタム不要でパッケージを採用できる部分は、そのまま導入して、同社のビジネスモデルを支える部分のみ自社開発するという割り切りからも、利益追求型の姿勢がうかがえる。

 ただ、こうしたIT投資が無駄なコストを削減し、利益を生み出していることは、確実に成長を続ける同社の業績を見れば明らかである。個々のニーズを吸い上げればきりがない部分は排除し、ROIの追求という初志貫徹の姿勢を貫くIT投資が同社の成長を支えていることが理解できる講演であった。

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