インドのIT産業は、毎年10〜50%の成長率を持続し、世界のソフトウェア工場として順調に発展し続けている。同国のIT産業の輸出額は、2003年度の予想で122億ドル。主要な輸出相手国は米国で全体の66.7%を占め、欧州の23.7%を合わせると全体の9割が欧米への輸出ということになる。日本への輸出は、全体の2.5%と規模は小さいものの、「成長率は驚異的」と野村総合研究所 金融プロジェクト推進部 上級システムコンサルタントの蛭田智彦氏。同氏は、13日に開催されたNRIメディアフォーラムにて、日本におけるインドオフショア開発の現状と方向性について語った。
NRI 金融プロジェクト推進部 上級システムコンサルタント 蛭田智彦氏 |
蛭田氏は、2002年度のインドから日本へのITサービスの輸出額が1.93億ドルというNASSCOM(National Association of Software & Service Company)のデータを基に、日本からインドへのITアウトソースに従事する就労者数を4000人程度と推定している(1ドル105円、40万円/人月で換算)。この数字と、電子情報技術産業協会等の調査による2002年から2003年のインドのアウトソース成長率330.8%という数字を組み合わせ、「3.3倍の成長が3年間続くと、3年後のアウトソース人数は14.4万人となる。これは日本のプログラマ数11.4万人を上回る数字だ」と述べ、国内プログラマが激しい生存競争にさらされる可能性があるとしている。
また同氏は、インドのIT企業最大手はすでに従業員3万人レベルの規模となり、グローバルプレイヤーとして十分なプレゼンスがあること、また日本市場に対しても、インドで受注を待つのではなく自ら顧客開拓に乗り出していることなどから、近い将来国内の大手SIerを脅かす存在となる可能性が十分あると警鐘する。「インドには2003年12月時点で、CMMレベル5を取得している企業が65社存在しており、技術力、品質、コスト、人材の厚みなどで総合的にソフトウェア開発における強みを発揮している。欧米顧客との実績や資金力もあり、今後専門家やコンサルタントを雇い入れて日本市場にアプローチしてくるだろう」(蛭田氏)
ただ蛭田氏は、実際にインドオフショア開発を行っている現場の声を聞き、苦労することもあると述べる。例えば、従来日本では発注時にシステム要件が決められないケースがほとんどで、設計を進めながら要件を決めていくため、同じ手法をオフショア開発に適用すると何を作ればよいのか正しく伝えられないばかりか、要件変更に伴う追加料金が発生することもあると指摘する。また、インドなまりの英語や、何でもできるという営業スタイルへの対応など、コミュニケーションにおける苦労話も多いという。
「それでもインドへのアウトソース傾向は今後も続くだろう」と蛭田氏。アウトソースにおける問題点を考慮したうえで、インドのIT企業の強みを活かしたアウトソースを行うべきだと同氏は述べ、オフショア開発に適した領域として、「他プロジェクトの依存度や関連部門との調整頻度が低い案件、たとえば組み込みソフトや通信制御ソフト、ERP、CRMのインプリメンテーション、企業向けソフトのマイグレーションなどが適しているだろう」としている。
また、今後競争力を持たないソフトハウスが価格競争において淘汰される可能性をふまえたうえで、日本のIT産業が目指すべき方向性として、同氏は「モノづくりへの日本人の強みを確立する研究を進めること、プログラマのみならず、ITアーキテクトやプロジェクトマネージャー、ビジネスアナリストといった人材を育成すること、自社のコンピテンシーを確立すること」などを挙げている。
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