メディアプロセスに飲み込まれる快感 - (page 2)

マスメディアの凋落は進むのか

 少し視点を転じて見ると、デジタルになろうがなるまいが、そもそもマスメディアのパワーは減じているのではないかという議論もある。テレビの平均的な視聴率は継続して低下し、新聞や雑誌の購買数は右肩下がりを続け、楽曲のミリオンヒットは今年ゼロという有様なのだ。なのに、なぜデジタルテレビは売れるのか。一見すると矛盾した感想を禁じ得ない。

 しかし、一部のマスメディアでは、以前に増してロイヤリティを持った利用者も増えているようだ。例えば、関東、特に神奈川県をカバーするFM Yokohamaで朝の番組「The Breeze」のパーソナリティを勤める北島美穂さんによると、彼女のたった一度の呼びかけであっという間に数百通のレスポンスが集まるのは当たり前なのだという。70年代や80年代のようにテレビや深夜ラジオ全盛の時代ではなく、平日の午前中、それも全国向け放送ではなくとも、なのだ。

 これは、マスメディアのパワーが衰えたというよりも、レスポンスに使われるメディア(ケータイやメール)が普及し、反応しやすくなったからという見方もできる。だが、テレビの仕事もこなす北島さんやテレビ局の人間からも聞くところによれば、首都圏向けのテレビ番組や全国放送であってもそれほどの反応がくるとも限らないというから、レスポンスに利用できるメディアの整備という環境変化が主要因でもなさそうだ。

レスポンスのためのメディア

 少なくともマスを対象とした放送という観点からいうと、視聴率など「数で量る」評価指標を用いる限り「凋落」という言葉は否定できないだろう。ましてや「(電源を)付けてはいるが、観てはいない」とか、「ザッピングしたり、ケータイで話したりしながらの視聴」が当たり前になっているわけだから、実質的には視聴率よりも低い値が実感値となるだろう。

 一方で、熱烈な視聴者も多い番組があることは、前述の北島さんの「The Breeze」や、高価なDVDボックスを予約購入する視聴者も多いアニメなどからも想像ができる。視聴率という指標では評価しきれない。むしろ、ネガティブな評価しかつけられないだけなのだ。

 では、マスメディアであっても、その瞬間はマスを対象とせず、一種の特定層向け映像情報配信プラットフォームとして機能していると考えればどうか。収入的にも安定した=忙しい人が多い世帯でもデジタルテレビという出費に躊躇しない人は何らかの形でマスメディアに接触していることは事実だ。典型的には「スゴ録」や「DIGA」といったパーソナル・ビデオ・レコーダーの普及は、その事実を裏付けるものだろう。あるいは、多すぎるといわれ続けても、BSにCSといった多チャンネルがプラットフォームとしては否定されていないこともこの発想を支持する事実とはなるまいか。

メディアミックスからメディアプロセスへ

 80年代に、店頭や映画館なども含む複数のマスメディアで一斉に同じメッセージを連呼するという「メディアミックス」キャンペーンがはやったことがある。典型的には、角川映画作品などがとった手法として知られる。しかし、現代ではそもそもマスメディアを一斉動員すること自体が困難であり、その効果も限定されてきているに違いない。また、新味がなくなったのもたしかだろう。

 だが、視聴率は低迷しているとはいえ、半ば強制的にではあるものの高価なデジタルテレビへ買い換える動きは一般的になっていることからも、テレビなどのマスメディアが見放されているとは言い難い。そして、視聴者数は少なくても、必ずレスポンスが帰ってくるという現象も見受けられる。

 であれば、僕らはメディアの一斉砲火のごときメッセージ発信には飽き飽きしてしてしまってはいるものの、何らかのアクションを求める大きなプロセスの中に取り込まれることに対しては、必ずしもネガティブではないことにはならないか。

 テレビなどで見たCMに触発されて、得られたヒントを基に店頭で商品を探り、底に貼り付けられたユニークな番号を持って、ネットで見つけた情報をクリックする。そんなふうに、異なるメディアを自らの行動によってプロセスとして連携・成立させること=メディアプロセスに取り込まれることの快感こそが、僕たちを動かしているのかもしれない。こんな仮説では、凋落するメディアと機器の過剰な普及という矛盾を説明することはできないだろうか。

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