これまで何年も憎悪に満ちた戦いを繰り広げてきた著作権所有者とファイル交換サービスだが、いま一部で休戦の動きが出てきている。これにより、まもなく主要レコードレーベルとピア・ツー・ピア(P2P)ネットワークが提携し、合法のオンライン音楽販売を始めることになるかもしれない。
この緊張緩和に向けて中心的な役割を演じているのが、Napsterの生みの親であるShawn Fanningだ。同氏の新会社Snocapは昨年、ファイル交換ネットワーク上にある楽曲を特定し、無償交換されている楽曲を購入へとつなげる技術を開発していた。同社は年末まで水面下で活動していたが、すでにUniversal Music Groupの楽曲についてはライセンスを取得している。
Fanningの技術は、Kazaaなどのファイル交換ネットワークや、Apple ComputerのiTunes Music Storeなどの既存のダウンロードサイトに直接取って代わるものではなく、他社のサービスのバックグラウンドで機能する設計になっている。しかし、複数の企業が既に同技術の採用を計画しており、この技術を使ってP2Pネットワークをオンラインストアに変え、iTunesによく似た合法的な楽曲販売を行おうとしている。
だが、これを実現するためにはまず、各P2Pサービス企業が違法な曲の排除に同意しなくてはならない。しかし、数百万人ものユーザーを抱える大手ネットワークが簡単にこれに従うとは思えない。
「P2P(サービス)がわれわれの曲を販売してくれるなら最高だろう」とある大手音楽レーベルの幹部はいう。匿名を条件にコメントしたこの人物は、「だが同時に、利用者が曲を盗むようなことも絶対にないようにして欲しい」と付け加えた。
裁判所が人気の絶頂期にNapsterを閉鎖させてから3年経過した今、Napsterの創業者はレコードレーベル側から再びオンライン音楽革命に加わろうとしている。
Fanningの明らかな態度の変化には、単なる歴史の皮肉以上のものがある。若い反逆者だった同氏は2000年、著作権によって保護された楽曲を最初のNapsterサービス上で交換しないよう裁判所から命令された。だが。この命令に従って用意したフィルタが使いにくいと評価され、このサービスは結局1年後に閉鎖に追い込まれてしまった。
代金を徴収する目的で楽曲を識別するSnocapシステムには、少なくとも当初の裁判所命令の影響が残っており、その成果であると考えられなくもない。
Fanningの技術は、新しいタイプのP2P音楽配信を実現すべく急速に集まりつつある一連の要因の1つに過ぎない。また、もう1つの変化はさらに重要なものかもしれない。それは、各レコード会社の態度が軟化し始めていることだ。彼らは、正規の流通システムとしてのP2P技術を利用することで、著作権侵害で失われる利益を相殺できると考え始めている。
BMG Musicの親会社であるBertelsmannが、最初のNapsterが閉鎖される数カ月前に金融支援に乗り出すなど、レコード会社がP2Pサービスに興味を示したケースはこれまでにもあった。さらに、Kazaaなどのファイル交換サービス経由で楽曲、映画、ゲームなどを販売しようとしたAltnetとの交渉にレーベル各社が乗り出したこともあった。だが、こうした交渉から具体的な成果が生まれることはなかった。
しかし、解決困難な訴訟合戦に嫌気が差した多くのP2P企業やその幹部は、レコード会社側が最も重視する要求に前向きに応じる構えを見せ始めている。主要レーベルの曲を販売するのはかまわないが、無償の海賊版と一緒にはするな、というのが彼らの要求だ。
Groksterの元社長Wayne Rossoは、「昨年は、どこもが必死にライセンスを要求していた。これを受ける機会を提示されて受けないのは誠実でない」と語った。同氏が来年初めに立ち上げる予定のMashboxx音楽配信ネットワークは、Snocapの技術を採用する最初のサービスの1つになるかもしれない。
iTunesのような先行ダウンロードサービスだけでなく、無償のファイル交換サービスとも競争していかなければならないP2P企業は、これから苦しい戦いを迫られることになる。だが、P2Pネットワークのコミュニティ的な側面を活用できると指摘する楽観的な意見もある。たとえ楽曲が有料になっても、ほかのユーザーのユニークなプレイリストを利用できるというのは魅力的な考えだろうという見方もある。
P2Pネットワーク上で楽曲を特定および排除する技術を提供するAudible MagicのCEO(最高経営責任者)Vance Ikezoyeは、「微妙な部分も出てくるが、eBayがAmazonに代わる商品購入手段を提供するように、最終的にはこれを必要不可欠なものにすることができる。P2Pも、iTunesやNapsterの代わりに利用するコンテンツ購入場所だと言えるのではないか」と語った。
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