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「あなたの知らないICタグの(本当の)話」

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 今回は、実際の利活用に向けての戦略としてe-Japanでも推進されている「電子タグ」(ICタグ)について、経済産業省の新原浩明製造産業局紙業生活文化用品課長に話を伺った。新原課長はこの7月まで、商務情報政策局情報経済課長を務め、経済産業省のみならず、政府の電子タグ政策に深く関与していた、「Mr.タグ」との異名を取る人物である。(なお、インタビューは異動間もない8月中旬に行われた)

 ちなみに新原課長は、経済産業研究所にも在籍(コンサルティングフェロー)していた際に「日本の優秀企業」(日本経済新聞社)を出版し大きな話題をさらった、企業戦略のエキスパートとしても知られており、今回は、ICタグ政策全般についてもさることながら、ICタグがもたらす企業戦略の変化にまで話が及ぶ、内容の濃いインタビューとなった。

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経済産業省 製造産業局
紙業生活文化用品課長
新原浩朗 氏
1984年東京大学経済学部卒業、通商産業省入省。同省にて産業政策関係の多くの法案作成などに携わる。米国ミシガン大学大学院経済学博士課程留学。経済産業研究所上席研究員を経て、経済産業省商務情報政策局情報経済課長及び経済産業研究所コンサルティングフェロー(併任)。2004年8月より、製造産業局紙業生活文化用品課長。
1.ICタグはもう「使われている」という事実
2.タグを巡る二つの政策課題と「響プロジェクト」
3.周波数とタグを巡る課題

1.ICタグはもう「使われている」という事実

ICタグ活用は日本が先頭を走っている

--今日はよろしくお願いいたします。ICタグについては、国際標準や周波数の問題など、本格的な導入に向けては、摺り合わせを行っていく必要がよく指摘されます。e-Japan重点計画2004の中でもICタグについては、強調して記されていましたが・・・

新原: まず最初に、ICタグに関してよく誤解されていて、それで混乱を招いている点について、認識を正しておきたいんですが、ICタグは、もう既に実用化されているんです。新聞報道では、まさに「実証」という認識で捉えられているし、取材をするときも、実証実験(※注1)の所に行きたいというわけです。でも、私はその認識はまったく間違いだと思っています。既にユーザーが(補助金ではなく)投資してICタグを実際に使って、投資を回収している例が山ほどある。だから、僕は「使う」というフェーズに関して言えば日本が先端を走ってると思っています。なぜならサプライヤーの技術は別にしてユーザ側の問題は、生産管理、サプライチェーンマネジメントなんです。こういう現場の使い方の技術はもともと日本企業は得意としている強いところですから。それから作り込み。普通のIT技術とICタグが違うポイントは、パソコンみたいに完成品がドンと出てきて、さあ何でもお使いください、という世界ではなくて、ICタグはできあがったシステムをドンと導入するのではなくて、現場で何が問題になっているのか、ICタグで何が解決されるのかをよく考えて、システムを設計していくスタイルになっている点です。こういう時に、現場のニーズに合うように物事を設計していくノウハウは日本がとても強い部分なのです。

 例えば昨年(ICタグの実例として)小泉首相を回転寿司に連れてったんですが、回転寿司店を選んだ理由というのは、先行導入例ということに加えて、作り込みの好例だったからです。いま、回転寿司店が抱えている問題に、外食産業の価値の分化への対応というのがあります。一方で高付加価値を目指す流れ、もう一方で安く大量に売るという流れがあって、現在回転寿司業界は、高付加価値の方向にどんどんシフトしてるんですけど、そうなると必然的にお皿の数も10種類以上出てくるわけで、それぞれの色も微妙になってきて数えるのも大変、間違いも起きるし人件費は高くなるという、回転寿司業界特有の問題が発生してきます。そこを解決したいというニーズからICタグ導入の議論が出発しているんですね。そこの部分の人件費を削れるなら(ICタグに)投資してもいいよね、という話になり、結局は双方のコストの比較になって十分釣り合ってるということがわかり、回転寿司の機器ベンダも共同開発する形でICタグを使った精算システムを作って売っています。この開発手法も、ベンダの技術者が現場に入っていって、実際の職人の手さばきやお客さんの流れ、店員のレジでのカウント方法などを観察して、一番コストがかからないやり方を勉強してから開発したのです。その結果、(裏面にICタグを貼り付けた)お皿を積んで、5枚なら上からパっと読み、10枚なら横から読むように設計して、それをカードに転写してお客さんはそれをレジに持っていけば精算が完了するという仕組みになりました。

 アパレル業界もICタグ実証実験に関連して騒がれる業界ではありますが、もう導入している所はあります。例えば、渋谷109のカリスマ店員が居るようなブティック。ここでは、在庫管理にICタグを使っています。値札の紙タグの部分をさわると、固い部分があるはずですが、そこにICタグが埋め込まれています。(商品が複雑なので)店員が在庫管理をすべて行うのはかなり厳しい作業です。ですから、圧倒的に在庫管理の部分のコストは減らせるのでタグを導入しているというわけです。個人的には、タグを使っているのであれば、しっかりそう表示してほしいと思ってるんですけどね。

 大きなブランドでも、利用している例があります。ワールドとか、オンワードは実証段階ですが、「ルスーク」というブランドを展開しているフランドルでは、ルスークの44店舗に、ICタグを自費で導入しています。(※注2

 なぜ彼らがタグを導入したかというと、「棚卸し」です。棚卸しの作業を開店中にするわけにはいかないですから、残業代を払って閉店後に在庫をチェックします。このコストがバカにならない。タグのリーダを持って店員さんがすーっと棚を移動していけば、時間内に棚卸しの作業が出来るから、残業代を払う必要がなくなった。これで投資コストがバランスしているわけです。

 物流でもこれから実証段階だ、とよくいわれます。確かに大規模なシステムについてはそうだと思いますが、単純なシステムについてはもう使われているのです。例えば、佐川急便なんかは長距離輸送のハブから小口輸送への積み替えにタグを使っています。彼らも、漠然と物流を合理化したいというような話ではなくて、やっぱり具体的に困っていることがあるから、そのソリューションとしてタグに行き着いたということなんですね。で、何に困っているかというと、宅配便業界は同じ構造ですからすべて似たような問題を抱えているはずですが、小物があるんです。サイズの制限がないですからね。そのまま積んだらつぶれちゃいますから、プラスチックのコンテナの中に入れて運んでくるわけですが、当たり前ですけどそのコンテナから行き先別に整理する必要がある。以前はトラックが着いてから20個から1個くらい出てくるプラスチックのコンテナをバイトさんが手作業で分けていました。それを挟むために、全体のコンベアラインの処理速度が遅くなってしまうわけです。それをなんとかしたいと。タグの話をしていると、いかにも小物の荷物一つ一つにタグが着いているようなイメージをもたれますが、彼らはもっと単純な使い方をしています。箱形の、RFIDの化け物みたいな大きなタグを、小物コンテナに投げ込んで、そのままラインに流してしまうんです。ラインの出口の方に読みとり機があって、コンテナだけを専用の仕分け場所に流してそこに小数の仕分けバイトさんを配置しているのです。こうすれば、全体の処理速度は落ちないわけです。

 いま申し上げたいくつかの例は、いずれもきっちり利益が出てるんです。だけど、あまり一般には知られていませんよね。なぜかというとそれは業務ノウハウだから。一生懸命説明するインセンティブは彼らにはないです。実証試験は、業界で応援しているものだから、説明しても大丈夫ですけど、実際にベンダとユーザが一対一でやっている事例では、詳細は全く出てこない。やっぱり企業の収益の直結するノウハウだから。ベンダの方も喋ると売り上げが上がるから喋りたいけど、ユーザから止められている状況です。だから、実際どれほどICタグの導入が進んでいるのかが見えにくい。

政府はICタグのどこを政策ターゲットにしているか

--なるほど、確かにこの辺りは一般の人はほとんど知らないでしょうね。となると、政府の役割はどのようなものになるんでしょうか。既にある導入時例を基に、標準化を進めていく、ということなのでしょうか。

新原:  時々誤解されるのは、あるいは誤解させるようにプレゼンテーションする人がいますけど、なんでもこういうICタグの標準化を経済産業省が旗を振っていると問題視する議論があります。「経済省は標準化を進めている。だから日本発のノウハウがつぶれてしまう」とか、「アメリカのやり方にすべて従うのか」という種の議論ですが、これはまったく間違いです。これまで紹介してきたような事例のノウハウは、まったく企業のもので、ベンダとユーザが独力で頑張って作り上げてきたのです。こういうことはどんどんやっていただきたい。また、そのような流れに政府が介入すべきでもないと思います。

 ただし、政府の役割は何かということを考えると、彼らが今後ビジネスを展開していく際に困る話があります。現在、ICタグを導入した企業がが収益を上がるビジネスモデルを組めている理由は2つあって、1つ目はよくいわれるタグのコストの問題です。いまひとつ50円と言われていますが、彼らにとっては、多少チップのコストが高くても問題になりません。彼らの利用モデルでは、「タグは再利用する」ということが前提になっていますから。回転寿司の皿も、佐川急便の箱型タグにしてもそうです。たとえ(そんなに高くないですが)5万円したとしても、1000回使えば50円、10000回使えば5円です。ここはあまり理解されてないところで、例えば社長会とかに呼ばれてタグの話をすると、どんな業界に呼ばれても、「ICタグを知っている」という方は9割以上です。「誰から聞きましたか?」と続けると、「社員から」という人が8割くらいいます。その社員は、「『値段が高くて使えません』と言ってませんでしたか?」と聞くと、やっぱり8割くらいの社長さんが「そうです」と答える。それで、私は「あなた方は、社員にだまされてませんか?」と言うんです。つまり、本当に使えないのかどうか。つまり、一定のサークルの中でリユースされているものだったら全く問題ないわけで、目先の利く企業は既にばんばん入れているのです。こういう賢い使い方をしているのは、おそらく日本だけだと思います。アメリカでも、例えばプラダのニューヨークの店舗でICタグ使ってます、といっても、あれはアンテナショップで、全然彼らの収益に役立つこと、つまり在庫管理への活用とかはせずに、単に未来の店舗です、ということで商品の詳細情報提供をしている程度です。このような場合は商品に固有のタグで、リユースしませんからペイしないかもしれない。でも、リユースすれば全然問題にはならないわけです。

 2つ目の問題は、1つ目の問題とつながってますが、タグが使えるのは一定のクローズドな世界だと言うことです。だからこれまで紹介してきたような事例の場合は、互換性は問題にならないですのですが、ここでいう互換性の問題というのは、作り込み、ビジネスモデルの互換性と言うことではなくて、商品のプロトコル(商品毎の番号付けのコード体系)をきちんと整備する事と、エア・インターフェイスですね。日立のタグが流れてきても、富士通のリーダ・ライタで読めるという話です。一つの企業内で使うなら、ベンダにお願いすればそのベンダの製品だけが流れるので問題ないですが、問題は企業間取引に使う場合です。ベンダ毎にリーダ・ライタをすべて揃えるなんてバカバカしいですよね。

 従って、政策的なターゲットとしては、「企業間」でサプライチェーンやトレーサビリティの手段としてタグを運用していく場合におけるエア・インターフェイスの互換性の問題、及び商品コードの体系の整備、という2点になってきます。しかも、あくまで「企業間」だけ。企業内部の話は政府が介入する必要はないです。例えば日立が開発したミューチップ。これは非常に小さいチップですが、これをサプライチェーンで共通して使っていくものにはたぶんならないと思います。しかし、例えばミューチップにしかできないマーケットとして、有価証券やお札での活用が考えられていますが、こういうニッチなマーケットでの取り組みはどんどん進めて頂いてかまわないと思います。それを標準で弾こうとは全く思ってない。私がISOとかEPCでの議論の中で言っているのは、企業間で転々流通する場合について、しかも商品コードとエア・インターフェイス「だけ」を標準化しましょう、ということです。それ以上やったら企業努力を圧殺してしまいます。

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