第2回:困惑するネットオークション運営者たち - (page 2)

互いの思惑が対立する侵害品の判断基準

 不満をつのらせる権利者側に対して、オークション運営側は困惑の色を隠せない。ヤフーの別所直哉法務部長は、「権利侵害の連絡が来た場合は、まず、本当に権利侵害品なのかを確認する必要があるので、第三者に分かる程度には示してくださいとお願いしているのです。また、権利団体との話し合いも、我々から積極的にお願いしています。互いにできることを協力してやらないと、問題解決はできないんですね。ヤフーは、これは権利者の問題だから、権利者が何でもすべてやるべきだとは言ったことがないんです」と説明する。

 また、海賊版や偽ブランド品の削除基準が明確でないことも、問題をより複雑にしている。とくに、靴やバッグなどのブランドメーカーでは、模倣品の具体的な判断基準を明らかにすれば、その基準を悪用して限りなく本物に近いコピー商品を作ることが可能なため、情報提供を渋る傾向にある。

 ビッダーズを運営するディー・エヌ・エーの春田真取締役総合企画部長は、「海賊版や模倣品に関する権利者からの連絡があれば、ロット番号で出品物を確定してもらい、指摘内容により権利侵害品と確認すればすぐに削除しています。しかし、運営者サイドで現状を把握するにも限界があり、権利者側から十分な情報を得ることができない場合は、削除のしようがありません。たとえば、各メーカーの製品ラインナップといった情報は事業者側では通常把握しきれないので、あるバッグが権利侵害品だと言われても、そのバッグがもともと存在するのかどうかすら判断できないのです。存在していたとしても、権利者にしか正規商品か模倣品かの見分けはつきません」と現状を語る。

オークションのイメージ低下を懸念

 権利者のなかには、侵害品の情報は提供できないが、自主的に見回りをしろと矛盾した主張をするものや、オークションというサービスそのものを否定的にみる企業も存在する。

 オークション全般のイメージ悪化を懸念する春田氏は、「権利者の方がネットオークション運営者に対して厳しいご指摘をされることがあるのですが、我々も野放しにしたいとは思っているわけではありません。知財侵害の温床としてネットオークションが例に挙げられることでイメージ低下につながり、良心的なユーザーが圧倒的に多いのにもかかわらず、オークションを怖いと思う人も出てくるでしょう。悪意を持って権利侵害品を出品する人が少人数でも存在すれば、産業育成という点でマイナスになるのです」と述べる。

 日本政府が設置した知的財産戦略本部による「知的財産推進計画2004」でも、「オークションサイト等を通じた多量の模倣品・海賊版の売買」への取締りを強化するため、2004年度中に取締方策について幅広く検討を行い、必要に応じ法改正等制度整備を行うとの項目が盛り込まれた。

 あるオークション関係者は、「知的財産戦略本部の議論は、権利者サイドの一方的な話ばかり。オークション運営者の意見も含めるようにと要望を出していたが、一切入れてもらえなかった。『大量の偽ブランド品の売買にネットオークションが使われている』など、犯罪の温床になっている印象を与えた結果となり、政府として計画をまとめるのであれば、現場でやっている我々の意見も聞いてほしい」と漏らした。

 ACCSでは、オークションというサービスそのものを否定的にみているわけではないとしながらも、「海賊版の出品者を明らかにできるよう、システムを改善する必要があるんじゃないかというのが我々の意見です」(葛山氏)と語る。著作権侵害が大量に行われる場所として、Winnyなどのファイル共有ソフトも問題視しているが、この場合も同様にP2P技術自体を否定しているわけではないと主張する。

 葛山氏は、「私自身は、P2P技術がインターネットの中核技術になるだろうと考えています。しかし、匿名間でデータを共有するシステムを作ってしまったら、他人が著作権を持つ、著名なコンテンツのやり取りに使われるのは明らかです。Winny開発者が幇助罪に当たるかどうかは司法の判断に委ねられますが、何らかの保護技術をほどこさない限り、大量にこのようなコンテンツがやり取りされることは容易に想定できます。ほんの少しだったらまだ理解はできますが、他人が著作権を持つコンテンツの無断流通がほとんどであれば、異常な事態だと思うんですよね」と語る。

協力体制の必要性を訴える現場の声

 強硬姿勢を貫いていた権利者側が、歩み寄りの姿勢を見せたのは、今年に入ってからである。電気通信事業法により、サービス提供者は権利者に出品者の情報を提供することは禁じられており、民事的な損害賠償請求を起こそうにも、権利者は訴える相手の出品者を特定することができない。また、落札者が出品者と接触するのは、金銭授受と商品を送るときの2回だけであり、架空口座を使われたら本人の特定はまずできない。そこで、権利者側は、2つの選択肢を考えた。まず、オークション運営者の法的責任を問うという方法、それと、オークション運営者との協力関係を築いて迅速に海賊版対策を行う方法だ。

 この2つの選択肢に対して、 「我々のなかでも議論が白熱し、権利者のなかにはヤフーの責任を強硬に追求する動きもありました。しかし、それで海賊版がすぐに減るわけではないのですし、膨大な出品物のすべてをオークション運営側が探知して削除するのは不可能です。まあヤフーが敵というわけではありませんが、『敵とでも手を組んだほうがいいんじゃないか』という結論になったのです」(葛山氏)

 こうして、今年1月15日、ヤフーとACCSは海賊版の出品を迅速に停止するための協力体制を発表、それにもとづき海賊版を判別するための基準を確立するために海賊版の疑いのある出品物を落札した。落札は、2月21日〜2月22日、3月2日〜3月3日の2回にわけて行われ、合計165出品を入手。それらの商品を調べてみたところ、すべてが海賊版だったという。

ACCSが2月21日〜2月22日、3月2日〜3月3日の2回にわけて落札した合計165点の海賊版ソフト。 ある特定表現が含まれている出品物を落札し、商品を調べてみたところ、すべてが海賊版だったという。

 ヤフー・別所氏は、「このサンプル調査により、ある特定表現が含まれている出品物はすべて海賊版であることが分かり、出品者IDを停止処分にしました」と語る。ちなみに、サンプル調査の過程で、銀行口座に入金はしたけど商品が送られてこないという詐欺が10件もあったという。落札者は、海賊版だと知っていて落札したという負い目があるため、警察にも通報していないと思われる。サービス提供者と権利者の敵対構造ともいえる関係が、協力体制へと変わって行ったが、次回は具体的な取り組み努力、さらに、その成果や今後の課題に迫る。

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