Microsoftは、OracleがPeopleSoft買収に成功した場合、データベースソフトウェア市場における自社の立場が危うくなるかもしれないと不安を感じていた。そしてこの恐れが、結局は物別れに終わったSAPとの合併交渉へと同社を走らせたという。
またMicrosoftは、わずかの間ではあるが、PeopleSoftの株式を一部取得して、PeopleSoftがOracleからの攻撃を交わすのを助ける案も検討していた。「OracleによるPeopleSoftへの買収提案について考えているうちに、われわれがPeopleSoftにアプローチすべきだと思うようになった。Windowsプラットフォームをサポートするとの約束と引き替えに、PeopleSoftにそれほど大規模ではない投資を行い、彼らが独立性を保てるようにするとの提案を行ってはどうか」。これは、Microsoft会長のBill Gatesが、同社CEOのSteve Ballmer宛てに出した電子メールの文面だが、このメールはOracleによるPeopleSoft買収の提案を発表された翌日に書かれたものだ。
MicrosoftのシニアバイスプレジデントDoug Burgumは23日(米国時間)、Oracleの独占禁止法訴訟で、政府側の証人として証言台に立ち、Microsoftの考え方を説明した。OracleはPeopleSoftの買収を望んでいるが、米司法省はビジネスアプリケーションソフトウェア市場に悪影響を及ぼすとして、この買収成立を阻止しようとしている。
Oracleは、Microsoftには「高度な」ビジネスアプリケーション市場に参入する意図があり、もしPeopleSoftと合併できれば、Microsoftの市場における力を牽制できると述べた。また同社は、MicrosoftがSAPと話し合いを行っていた事実を指して、Microsoftがビジネスアプリケーション市場での競争を望んでいることを示す何よりの証拠だと主張した。なお、SAPは同市場におけるOracleの最大のライバルである。
SAPとの交渉について尋ねられたBurgumは、BallmerやGatesを含むMicrosoftの幹部らは昨年6月、OracleがPeopleSoftに敵対的買収を仕掛けた後に、合併を検討しめたと語った。Burgumによると、Microsoftの幹部らは、OracleとPeopleSoftの合併が成立した場合、データベースソフトウェア市場で自社と競合するOracleがPeopleSoftの顧客に働きかけて、Microsoftのデータベース製品からOracle製品に乗り換えさせることを恐れていたという。PeopleSoftの現行アプリケーションは、MicrosoftとOracleのデータベースを両方ともサポートしているが、Oracleのビジネスアプリケーションは自社のデータベースとしか連動しない。
Microsoftの幹部Cindy Batesは、昨年6月にBallmer、Burgum、Gatesの3人に宛てた電子メールのなかで、「どんな結果になるにせよ、業界の力関係は変わってしまった。われわれは自社の運命を決定するにあたり、先を見越して検討すべきだ。IBMの人たちも、間違いなくそうしているはずだ」と語った。
IBMはデータベース市場で戦う競合メーカーの1つだが、Microsoftがこうした動き--つまりSAPの買収を企てるという手--に出れば、IBMとしてはなおさらSAPの顧客を奪い取るか、あるいはSAP自体を獲得することに力を注ぐようになるだろうと、Microsoftの幹部らは推測した。もしそうなれば、Microsoftのデータベースビジネスにはさらに圧力がかかることになるが、MicrosoftがSAPを買ってしまえば、話は違ってくる。この裁判に証拠として提出されたMicrosoftの機密文書によると、同社の幹部はそう考えていたという。
この機密文書によると、Microsoftは、SAPの後ろ盾が得られることで自社のデータベースビジネスに「好ましい影響」がもたらされる可能性を、同社買収の理由の1つに挙げたという。Burgumはこの「好ましい影響」について詳しく説明したが、それによると、MicrosoftはSAPを手に入れることで、同社の顧客へのデータベース販売台数を増やせるようになり、それがデータベース事業の収益を押し上げることにつながると考えたという。
同氏はさらに、MicrosoftではSAPの買収後も、同社の顧客に対してライバルメーカーのデータベース製品を使い続けることを認めるつもりでいたと付け加えた。だが、この点が交渉をさらに難しくさせ、最終的にはMicrosoftが買収をあきらめる原因にもなった。そして、IBMにはSAPを買収する計画がないとわかったため、Microsoftは今年に入ってSAPとの交渉を打ち切ることにした。
自社のデータベースビジネスに対する懸念を解消する以外にも、MicrosoftにはSAPを魅力的な買収対象と思える理由があった。SAPは世界の大企業をターゲットにしたアプリケーション市場で首位を走っているが、同社を買収できれば、即座にその立場を自社のものにできる、と機密書類には書かれている。しかし、結局この交渉が失敗に終わった時点で、Microsoftは大企業向けのビジネスアプリケーション市場で争うことをすべてあきらめた、とBurgumは説明した。
同氏は、証言全体を通じて、MicrosoftがSAPとの交渉をあきらめた時点で、同社にはSAPやOracle、PeopleSoftなどと争いながら、内部の仕組みも複雑な大企業にアプリケーションソフトを供給しようとする意図はなくなったという点を強調した。その代わり、Microsoftはいわゆる中規模な企業を相手にしたビジネスに重点を置くことにしたとBurgumは語った。なお、Microsoftでは従業員数500人未満の企業を「中規模企業」と定義している。
Burgumは、Microsoftにとって、SAPの存在なしに単独で「高性能」アプリケーションソフト市場に参入することは、あまりにコストがかかりすぎると語った。「自前でいちから取り組むという選択肢は、初めから検討すらされなかった」(Burgum)
Burgumの上司にあたるSteve Ballmerは、もっと規模の小さな企業を相手にしたほうが利益も多いと考え、Burgumに対してこの市場に力を入れるよう要求したと、同氏は付け加えた。「Microsoftの強みは、低価格のパッケージソフトを、何百万という顧客に販売することで、これはSAPやOracleのようにわずか数万社を相手にするビジネスに対して発揮できる強みではない」(Burgum)
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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