Winny事件という誤謬の原点 - (page 2)

森祐治
構成/文:永井美智子(CNET Japan編集部)
2004年05月21日 10時00分

 このまま著作権者と利用者の利害が平行線をたどるようであれば、著作権者の利益を守るコピーワンス(1度しか楽曲のコピーができない技術)と違法コピーの世界に二極化するだろう。これは明らかに音楽業界のバランスを崩し、現状すら維持できなくなる。また、この平行線問題を放置しておけば技術のイタチごっこは継続され、更なるWinnyが現れることは必須だ。

 これらのIT/メディアサービスの根本の合意形成に関する議論、そして法執行のあり方に関する議論は非常に重要な課題であり、これらを直視しない限り、ファイル交換に限らず特許や個人情報保護など知的財産関連で類似の問題が再発するだろう。

必要なのは新たなビジネスモデル

 Winnyで実現されていたことについても、簡単に整理しておこう。

 ファイル交換における議論は、3つの論点から成る。すなわち、1)ファイル交換というテクノロジーの側面について、2)そこで交換されるファイルの知的財産権を含む法律的側面について、3)これらをベースにした、既存の、そして将来的なリスク・リターンを含むビジネスモデル的側面について、である。

 WinnyはPtoPテクノロジーとしては完成されつつあるが、ネットワーク事業者にとっては帯域占領という課題があろう。また、知的財産であるデジタルコンテンツデータがやり取りされてしまうことは、単純に問題だ。しかし、最も大きな問題は、既存のコンテンツビジネスとは本質的に異なるビジネスモデルが欠如していることに他ならない。

 ひとつの解決策としては、既存DRMを駆使して、コンテンツデータ自体はPtoPで流通させ、そのコンテンツを見る場合には料金を支払う、あるいは広告によって流通を促進するような仕組みが考えられる。このようなサービスの進歩の方向性の是非については、合意形成の場で議論すればいい。

 僕の最近の学術的興味は複雑系マルチエージェントモデルなのだが、その根本原理として「Micromotives、Micro-behavior」という発想と、その鉄則として「KISS:Keep It Simple、Stupid」がある。シミュレーションの世界を形成するエージェントは非常に単純な「飴と鞭」で動いており、一見現実の社会とはまったく異なるように見える。しかし、たくさんのエージェントがそれぞれはばらばらに、でも全体的に見るとまさしく「社会」になっている。すなわち、ファイル交換のように音楽や映画を「ほしい」という単純なモチベーション(Micromotives)をベースに、簡単に実現するようなテクノロジーとビジネスモデルさえあれば、AppleのiPodのように、一人ひとりの行動は変わりうるし、全体の動向すら変化するということを示唆している。重要なのは、そのようなMicromotivesをどう変えるかであり、局所療法的に法律を変えても意味はない。

 根本的にWinnyでの違法ファイル交換はなぜ起きたのかを考えることが、それを防ぐための一番の近道だ。それは警察だけですべての結論を出すことは難しいはずだ。今回のことを良いきっかけに、コンテンツの違法流通が起きる現状をいかに変えていくかという問題を、すべての利害関係者が向き合って議論していくべきだろう。

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