SAPがR/3の後継製品「mySAP ERP」を発表、7月5日より日本市場投入

 SAPジャパンは5月20日、同社のフラッグシップであるERP(Enterprise Resource Planning)パッケージR/3の後継製品「mySAP ERP」を7月5日より日本市場に投入することを発表した。ERPとは、会計や人事、生産管理など、企業の基幹業務に必要とされる各種の業務アプリケーションをまとめたもので、業務の効率化を実現する。SAPはERP分野の世界最大手であり、各業界の大企業を中心に同社の製品が広く導入されている。今回の製品発表は、1992年にR/3が登場して以来、実に12年ぶりのメジャーバージョンアップとなる。

SAP R/3とは? 同社の製品戦略

 前バージョンのR/3は、まだメインフレームの香りが残っていた1990年代初期に登場し、UnixマシンやPCなど、いわゆるオープン系と呼ばれるクライアント/サーバシステムをビジネスの中心に持ち込む原動力の1つとなった。その後、ウェブシステムなど3階層型システムが主流になってくると、R/3も時勢に合わせて改良が加えられ、システム内部を「コア」「エクステンション(拡張)」「ウェブアプリケーションサーバ」の3つに分割し、いくつかの機能拡張が施された「R/3 Enterprise」という製品にリニューアルされた。R/3 Enterpriseはその後、CRM(Customer Relationship Management)やSCM(Supply Chain Management)などのパッケージも加えた、mySAP.comというビジネスアプリケーション・スイート製品の中の1つとして組み込まれている。現在は、ERP、CRM、SCM、SRM(Supplier Relationship Management)、PLM(Product Lifecycle Management)の5つのパッケージを合わせ「mySAP Business Suite」という名称となっている。

 mySAP ERPでは、このように時代のすう勢に合わせて進化してきたR/3を、ESA(Enterprise Service Architecture)というアイデアを基に、さらに柔軟でユーザビリティの高いものにすべく再構築している。ESAとは、過去の資産を含むSAP以外のあらゆるシステムを統合し、社内外を含むすべてのユーザーがシステム内を自在に横断してデータにアクセスできる環境を実現するものだ。mySAP ERPでは、従来までアプリケーションごとに分散していたビジネスロジックやデータベースをモジュール単位に分割し、ビジネスプロセスから必要なモジュールを随時呼び出す「サービス指向型アーキテクチャ(SOA)」に変更することで、モジュール同士を柔軟に結合し、必要なデータを自在に参照することが容易になっている。

 このアプリケーションモジュール同士が通信するベースとなっているのが、SAPの統合フレームワーク「NetWeaver」だ。NetWeaverが仲介役として、SAP製品はもちろんのこと、非SAP製品についてもラッパー(Wrapper)として動作することで、WebSphereや.NETなど、あらゆる種類のビジネスアプリケーションやプラットフォームを1つのシステムに統合できる。NetWeaverでは、従来よりR/3の開発言語であるABAP(Advanced Business Application Programming)のほか、J2EEもサポートする。これにより、既存のシステムはABAPのままで、新たにウェブインターフェースをJavaで書き起こすといったことも可能になる。

mySAP ERPでの強化点

 今回ポイントとなるR/3からの強化点は、RFIDへの対応、専用の入力画面ではなくAdobe PDF形式の帳票イメージをそのまま流用可能な機能、「SAP BW(データウェアハウス)」と「SAP SEM(戦略企業経営)」をmySAP ERPと同一サーバへインストール可能という、主に3点である。

SAPジャパン バイスプレジデント マーケティング・ソリューション統括本部長の玉木一郎氏

 RFIDは、無線式商品タグを使って従来のバーコードを置き換えるソリューションだ。現在、小売大手の独Metroと米Wal-Martが他社に先駆けてRFID導入の実証実験を行っている。SAPジャパン バイスプレジデント マーケティング・ソリューション統括本部長の玉木一郎氏は「SAPはMetroと共同で、このRFIDに関する取り組みを1990年代より続けている。RFIDのインフラを標準で組み込んだことで、無線タグリーダが読み込んだタグ情報はすぐにデータベースに反映され、企業ユーザーはリアルタイムでそれを参照できる」と説明する。

 PDFによる帳票イメージの画面への再現のほか、ユーザーの職割り分担に応じてポータル画面をカスタマイズすることで、ユーザビリティを向上させることができる。さらに、顧客からのクレームなど、即座の対応が必要な例外事象が発生した場合には、ポータル上にその旨を自動配信することも可能だ。

 また、これまでのR/3では、R/3以外のアプリケーションはそれぞれ別のサーバにインストールする必要があり、導入やメンテナンスに余分なコストがかかるのが難点だった。だがESA準拠のmySAP ERPになりNetWeaverとの親和性がアップしたことで、SAP BW/SEM、ポータル機能などを1つのサーバ上に統合することが可能になった。SAPでは現在、NetWeaverやBusiness Suiteを構成する各モジュールのESA対応を進めており、同社によれば2007年までにその作業が完了する予定だという。

明確化された保守期間

 今回の発表でSAPは、これらの追加機能のほかに8年体制での製品保守サポートも表明している。このサポート制度では、製品がリリースされてから最初の5年間は通常の保守期間、その次に1年間の有償保守期間がきて、最後に2年間のやや割高な有償保守期間がやってくる。これ以降の保守契約は特別扱いとなる。つまり今回発表されたmySAP ERPは、2012年までが製品保証期間となる。この期間以降にmySAP ERPのマイナーバージョンアップ版やメジャーバージョンアップ版が市場に登場することになると思うが、それぞれの製品について、出荷時点から8年間の保障期間が設定される。ユーザー企業が毎年ライセンス契約を結んでいたとして、5年間の保証期間内に新しいバージョンへの乗り換えを行えば、追加料金の支払いなしに新製品のサポート期間が適用されることになる。

 「保守期間の体系を明確化することで、ユーザー側が自ら乗り換えプランを練ることができるようになる」と玉木氏は述べる。製品のライフサイクル上、新しい製品への乗り換えは避けられないものだが、その負担を少しでも減らすのが今回の8年ルールの狙いだ。

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