これからのIT戦略はどうあるべきか--本社フォーラムを開催

永井美智子(CNET Japan編集部)2004年03月10日 22時05分

 CNET Japanでは3月10日、「CNET Japanフォーラム 次世代のIT戦略を考える」と題したセミナーを都内で開催した。京都大学経済学部助教授の末松千尋氏、ガートナージャパン データクエスト 主席アナリストの亦賀忠明氏、サンブリッジ代表取締役社長のアレン・マイナー氏が今後のITトレンドについて講演し、ITベンダー各社の代表と末松氏や亦賀氏によるパネルディスカッションが行われた。

左から京都大学の末松千尋氏、ガートナージャパンの亦賀忠明氏、サンブリッジのアレン・マイナー氏
 まず、京都大学の末松氏が基調講演に立ち、システムのオープン化が企業間の関係性や社会全体のオープン化をもたらしていると紹介した。

 末松氏は、XMLやWebサービスなど組織間やシステム間のトランザクションを支援する技術が近年急速に発展しており、取引コストが大幅に下がっていると指摘。これによって企業の関係も従来の閉鎖的な限られた関係からオープンなものへと変化しているという。企業はムラ意識によるモノづくりからオープンな情報活用ができる体質へと変化する必要があるとした。

ITは経営課題を解決する武器

 ガートナーの亦賀氏は情報システム産業の課題と今後について講演した。ITが高度化・複雑化しすぎたために、情報システムを現場で最適化するのはもはや限界が来ている。この複雑性を解決するには、統合的なアプローチが必要だと亦賀氏は話す。

  しかし、今までの情報システムは、何のためのITなのかという問いに対する答えが置き去りにされた、技術主導型のものだった。ITは企業の抱える課題を解決するための武器であり、単なるシステムではなく経営そのものの問題として考えるべきと亦賀氏は話し、情報システムを中心とした考え方から、企業経営とベンダーを含めた三位一体のものとしてとらえ直す必要があるとした。

ソフトウェアにも押し寄せるユーティリティ化の波

  続いてサンブリッジのマイナー氏は、オンライン上でCRMアプリケーションを提供する米salesforce.comのビジネスモデルについて紹介した。サンブリッジはsalesforce.comと共同で、日本法人のセールスフォース・ドットコムを設立している。

  salesforce.comの特徴はASP事業にユーティリティの考え方を導入し、CRMアプリケーションの利用に応じて料金を支払う仕組みをとった点。これにより、大規模で高度なインフラを必要とするソフトウェアを中小企業でも低価格で利用できる。また、すべての顧客が1つのシステムをオンラインで利用するため、パッケージ型ソフトに比べてバージョンアップやバグ対応が容易なのがメリットだ。マイナー氏は、今後ソフトウェア業界がsalesforce.comのようにユーティリティモデルを採用すると予測する。このモデルを実現するための課題としては、初期に数十億円の投資が必要なことを挙げた。

日本企業に必要なのはチャレンジ精神

パネルディスカッションの様子

  会場では最後に「イノベーションを維持するために日本が解決すべき課題」と題したパネルディスカッションが行われた。末松氏や亦賀氏のほか、NEC IT基盤システム開発事業部 Java/XML技術センター長の岸上信彦氏、日本IBM グリッドビジネス事業部 技術理事の関孝則氏、富士通 プラットフォームソリューションセンター TRIOLE推進室長の三津濱元一氏、マイクロソフトアジアリミテッド 政策企画本部 技術戦略部長の楠正憲氏が参加した。

 末松氏は会場でアンケートを取りながら、ほとんどの日本企業では取引関係のオープン化が進んでいないと指摘。岸上氏は、オープンシステムを構築するだけでは不十分であり、システム導入前や導入後の状況をきちんと分析できるような仕組みが必要だとした。三津濱氏も、ITが経営の一部となるためには、定量的な効果測定によって価値を証明できることが重要だと話し、ITベンダーがこういった機能を提供していく必要があるとした。

 楠氏は、ナレッジマネジメントのようなシステムの場合、測定が困難だと話す。しかし新しいことを始めるときに事前に分かるわけはないとして、「分からないから導入しない」のではなく、「分からないからやってみよう」というメンタリティが大切だとした。関氏は、日本企業ではRFP(提案依頼書)が数枚しかないと言われるが、業界のトップを走る企業の多くは成功事例を世界中から集めて分厚いRFPを出すと紹介。ユーザー側の意識向上を訴えた。

  最後に亦賀氏は、現在基幹系で利用されているメインフレームも、最初に導入したときには大きなチャレンジだったと指摘。日本にもシステム構築に大きなリスクを取った歴史があると話し、リスクとチャンスを踏まえたうえでチャレンジしていくことが重要だとした。

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