ソニーは3月末にワイヤレス液晶テレビ「エアボード」の新製品を発売する。「LF-X1」という型番が付いたこの製品は、新たに家の外からでも自宅のテレビが見られる機能を備えた。モニターをインターネットに接続すれば、海外からでも日本のテレビ番組が見られるというものだ。
エアボードは、タッチパネルを搭載した薄型液晶モニターと、インターネット接続やテレビ放送の受信を行うためのベースステーションの2つで構成される。モニター/ベースステーション間のデータ伝送は、室内では無線を、宅外ではインターネットを利用する。データを暗号化することでコンテンツの著作権保護の問題も解消した。
エアボードの開発の陣頭に立ってきたソニー ブロードバンドネットワークカンパニー ブロードバンドシステムカンパニー LFX事業室 事業室長の前田悟氏は、2000年にエアボードの第1号機が登場してから3年以上経った今、「ようやく時代が追いついてきた」と話す。近年急速に普及してきた薄型テレビや無線LANという要素は、エアボードがもともと持っていたものだからだ。
一方で、ソニーの周辺には新たな嵐が吹き荒れているのも事実だ。PC業界の雄であるMicrosoftやIntelは、PCや家庭内の機器がすべてネットワークでつながるというホームネットワーク構想を唱え始めた。PC業界の風雲児であるDellもテレビ事業に参入している。
今までのテレビの常識を覆そうとするエアボードは、ソニーの切り札となるのだろうか。前田氏に話を聞いた。
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エアボード「LF-X1」 | |
---まず、今回のエアボードの特徴について聞かせてください。どのような点が改良されていますか。
大きく2つあります。1つはモニターを好きな場所に持ち運んで映像を楽しめる「ロケーションフリー」の世界を広げたこと。もう1つは画質の向上です。
今までは、ベースステーションから電波の届く範囲内でしかロケーションフリーを実現できませんでした。今回はブロードバンド環境のある場所なら、海外でも家の中にいるのと同じようにテレビ番組などが見られます。我々はこれを「究極のロケーションフリー」と呼んでいます。もともとこういった発想はあったのですが、当時はまだ環境が整っていなかったのです。
自宅の外から見るときは、モニターからインターネットを通じてベースバンドに接続します。エアボードは、ブロードバンドの上り回線を使う初めてのアプリケーションといえるでしょう。ADSLは40Mbpsまで高速化したと言われますが、これは下りの話です。上りの実測は600kbps程度でしょう。エアボードでは回線の上下速度がそれぞれ300kbpsあれば映像が見られます。FTTHのように、上り回線でも数Mbps出るネットワークを使えば、かなりきれいな映像が見られます。
2つめの改良点は、画質を一気に向上させたことです。斜めの線でもなめらかに表示する斜め線補正回路などを入れて高画質化を図りました。また、今までベースステーションとモニター間の無線伝送にはIEEE 802.11bのみを使っていましたが、これを802.11a/b/gの3規格に対応させ、環境に応じて最適な電波状態を選択するようにしました。現在は15Mbps程度で伝送できるようになっています。これはDVDレコーダーのハイクオリティ映像が送れる速度です。
「NetAV」を利用する場合、専用のAVマウスを取り付ける。写真はPSXの場合 | |
今回のエアボードでは、AV機器を遠隔操作する「NetAV」という機能も備えています。赤外線のリモコンで操作するものであれば、他社の製品でも操作可能です。外出先からでも家庭にあるVHSやHDDレコーダーに録画した映像を見ることができます。電源のオン/オフも操作できますから、電源を入れっぱなしにする必要もありません。また、デジタルビデオカメラを接続して家庭内の様子を見ることもできます。
3月に発売するのはベースステーションと12.1型のモニターだけですが、今年中には小型ディスプレイの発売も考えています。大きさは未定ですが、モックアップは7型のものを作っています(モックアップの写真は3ページを参照)。12.1型と同等の機能を備えていて、重さは1kg以下になる予定です。短期出張には小型機を、長期出張には大型機を持って行ってもらえたらと思います。今はベースステーションとモニターを1対1で認証させていますが、今後は1つのベースステーションで複数の端末を認証させる予定です。
---ソニーの打ち出す「ホームネットワーク」製品群の中で、エアボードはどういった位置付けにありますか。
今までソニーでは、エアボードを「ITテレビ」と呼んできました。しかし、これはわかりにくい。今は「ロケーションフリー」というコンセプトを全面に押し出して、「ロケーションフリーテレビ」という新しいカテゴリを作りたいと考えています。
ベースステーションの背面。アナログ入出力端子を備える
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---家庭内のさまざまな機器がネットワークでつながるホームネットワークの実現に向けて、複数の規格が乱立しています。シャープや日立などが推進するエコーネットや、AV機器を接続するための仕様であるHAVi、DHWGなどです。これらの動きをどう見ていますか。
冷蔵庫やオーディオなど、すべての機器が1つの規格でつながると言っていますね。しかし、もしそうなれば、消費者は全部の機器を買い換えないといけない。よほどメリットがない限り、消費者はそんなことをしませんよ。
エアボードはAV機器とベースステーションをアナログAVケーブルでつないでいます。ベースステーション/モニター間だけをデジタルで送っているんです。いつでもどこでも見たいテレビが見られるというコンセプトを、既存のインフラを使って実現しているという点が重要です。
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