現在いくつもの企業では、従業員が遠隔地からネットワークに接続するための方法として、より簡単で安価なものを採用していることから、ネットワークセキュリティ会社にとっては新たなビジネスチャンスが生まれ、同時にまた競争も活発化している。
チャンスや競争を生んでいるのは、ブラウザのセキュリティ技術であるSecure Sockets Layer(SSL)技術に基にして、企業ネットワークに安全に接続できるようにするゲートウェイだ。多くの企業ユーザーがSSL技術を用いたVPN(仮想プライベートネットワーク)を実装し始めている、とアナリストやSSLベースのネットワーク機器メーカーは話している。
VPN用のセキュリティ技術としてはIPSecが一般的だが、IPSecは柔軟性が低いという欠点があった。SSLは、IPSecに代わる使いやすい技術として、急速に市場シェアを獲得している。この流れを受けて、企業や従業員の間でリモートネットワークアクセスへの需要が新たに高まりを見せている。
昨年米AT&Tが主催した調査報告によると、勤め先から離れた場所で働くことへの需要が高まっている第1位の理由は、そうした場所からの勤め先へのネットワークアクセスが改善されたことだという。
「半年前には、皆がSSL-VPNに対して様子見を決め込んでいた。ところが、状況は全く反対の方向に変化し、いまでは誰もがSSLがないならリモートアクセスはしないと言うようになった」と、NetScreen Technologiesのセキュアアクセス製品マーケティング担当バイスプレジデント、Jason Matlofは述べている。
SSLの高まる人気を目にした業界大手各社は、次々とこの市場に参入し、わずか1年程前には市場を支配していた小さな新興会社が淘汰されるといった状況になった。現在出回っているSSL製品はほとんどが、Cisco SystemsやCheck Point Software、F5 Networks、Nokia、NetScreen、Nortel Networks、Symantecなど、大手セキュリティ会社やスイッチメーカー大手の製品だ。
こうした企業のなかには--F5 NetworksやNetScreen、Symantecなど--新興会社を買収してSSL技術を手に入れたところもある。また、CiscoやNokia、Nortelなどは、社内で独自にこの技術を開発した。
「今まで、SSL-VPNメーカーのほとんどは小規模で、より大きな市場に対処することが不可能だった。大企業が製品を提供することにより、この市場が注目を集め、そしてそのことが需要拡大に役立っていると思う」と米Pacific Growth Equitiesのアナリスト、Erik Suppigerは述べている。
SSL--人気の秘密
SSL技術自体は目新しいものではない。SSLは何年も前から標準的なウェブブラウザに組み込まれており、Amazon.comやE-tradeなどの電子商取引会社がインターネット経由での安全な取引を実現するのに利用している。
SSL-VPNでは、事実上どのウェブブラウザからでもアクセス可能になるので、リモートアクセスやエクストラネットアプリケーションとは親和性が高い。大半のウェブベースのアプリケーションでは、ユーザーがクライアントソフトを使う必要がないので、社内の従業員や外部のパートナーなら誰でも簡単にネットワークにアクセスできることになる。
一方IPSec VPNでは、すべてのクライアントに専用ソフトウェアをインストールして設定する必要がある上、リモートアクセスに関しては使い勝手が悪い場合がある。またIPSec VPNにはしばしば相互運用性上の問題があり、従業員が出張先で重要なネットワーク情報にアクセスできず取り残されるケースもよくある。
リモートアクセスにSSLを採用している企業にとって、SSLの使いやすさは大幅な経費節約という形で現れることが多い。市場調査会社のFrost & Sullivanでは、IPSec VPNを採用した場合のユーザー1人あたりの平均コストは150〜300ドルだが、SSL-VPNを採用すれば1人あたり平均60〜220ドルにできると見積もっている。
「所有コスト全体で言えば、SSL-VPNのほうがはるかに安い。これは各パソコンであらかじめ設定を行なう必要がないためだ。また、サポートに関わる手間も全くない」とFrost & Sullivanのアナリスト、Jason Wrightは述べている。
SSLの見通しは明るい
金融アナリストや業界アナリストらはすでに、来年この市場が大成長すると予測している。先週、Pacific Growth EquitiesのアナリストErik Suppigerは、NetScreenの売上予想を上方修正した。NetScreenは昨年11月に、SSLネットワーク技術を開発するNeoterisの買収を完了している。
また業界アナリストらは、SSL-VPN技術についても楽観的だ。Frost & Sullivanによると、SSL-VPN技術市場の売上は、2002年の2000万ドルから昨年は9000万ドルへと、360%増加したという。同社では、今年の売上は昨年の倍以上の2億200万ドルに達し、2006年には5億ドルを超えると予想している。
しかし売上に関して言えば、まだIPSec-VPNのほうがSSL-VPNを上回っている。Frost & Sullivanの予想によると、2002年のIPSec VPN製品の全世界での売上額は18億ドルで、2003年には合計24億ドルに達するという。
リモートネットワーキング用の技術として、SSL-VPNが普及することで、すぐにもIPsecが衰退するというわけでもない。専門家の多くは、この2つの技術が補完し合うものだと言う点で意見が一致している。Neoteris買収以前は、IPsec-VPNおよびファイヤーウォール分野を得意としていたNetScreenでは、現在両方の製品を別々に販売し続けることを計画している。
同社はまた、1四半期に8000万ドル程度ある売上の大部分を、IPsec-VPNやファイヤーウォールアプライアンス機器の販売から得ている。またCiscoやNortelでは、それぞれSSLとIPsecを統合して1台のVPN機器に搭載するようになると見ている。こうしたVPN機器なら、顧客がそれぞれの技術が提供する機能を両方とも利用できるからだ。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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