PCと家電の融合が語られるようになってずいぶん経つ。しかし、これまでの議論は序の口にすぎない。
問題は、融合の具体的な形を見極めることだ。議論はまだ続いているものの、テクノロジー業界の長年の夢はまもなく実現すると言う人物がいる。Bill Gatesだ。
7日(米国時間)の夜、GatesはラスベガスでConsumer Electronics Show(CES)の開幕を告げる基調講演を行った。近年の技術進歩により、融合が実現する素地は整ったとGatesは確信している。CNET News.comは Microsoftの共同設立者で現会長のBill Gatesにインタビューを行い、楽観的な発言の背景を聞いた。
---テクノロジー業界はあとどのくらいで融合を実現できるのでしょうか。
すべてのメディアがデジタル化され、どのデバイスでも簡単に利用できるようにならない限り、融合は実現しません。それでは特に重要な3つのメディア---写真、音楽、ビデオ---について考えてみましょう。いずれもデジタル化が進み、柔軟性は飛躍的に高まっています。長年語られてきたことが、ついに現実になろうとしているのです。
---それはテレビのデジタル化やワイヤレスの普及のことですか。それとも、テクノロジーの進歩全般を指しているのでしょうか。
写真がここまで進化したのは、カメラ、プリンタ、ソフトウェアのおかげだと考えるべきです。こうしたソフトウェアのおかげで、ユーザーはPCを使って写真を整理、加工、送信できるようになりました。たとえば、MicrosoftのPhoto Storyというソフトウェアでは、複数の写真を拡大縮小したり、写真にナレーションを加えたりすることができます。
このように、写真の分野ではPCを中心とした統合が進んでいます。一方、音楽の世界では合法・違法を問わず、楽曲のダウンロードが盛んに行われるようになりました。ダウンロードした楽曲はPCに蓄積されますが、再生のときはワイヤレス技術などを使って外部のスピーカーに伝送するか、携帯プレーヤーを利用する。音楽の分野ではこうした使い方が一般的になっています。ビデオの世界でも同じことが始まってきています。
消費者はビデオや写真、楽曲のデータをPCで管理し、家庭のディスプレイやスピーカーで自由に再生したいと考えています。しかし、現状ではPCの前に座り、キーボードで作業するという限界がある。そこで、「リモートコントロールの仕組みがいる。それから、どのディスプレイでも再生できるようにしなければ」と考えたわけです。
---業界は使いやすさをアピールしていますが、現実にはハードとソフトは一体化しているとは言えず、ユーザーは苦労を強いられています。あなたはComdexの基調講演で「シームレスコンピューティング」を打ち出し、テクノロジーが人間とデータの壁を打ち崩すと語りました。しかし、家電に関する限り、今も混乱が続いているのでは。
新しいシナリオをユーザーに受け入れてもらうためには、使いやすさが鍵になると考えています。Media Centerの狙いもそこにあります。ユーザーが複数のソフトウェアを購入し、自分で組み合わせるのではなく、すべてをMedia Centerで実現する。そうなれば、ユーザーはハードとソフトを別々に買うのではなく、Media Center PCを買えばよくなります。
もちろん、デジタル著作権管理や、それに伴う煩雑さの面では改善の余地があるでしょう。消費者が求めているのは柔軟性です。それは好きなデバイスと業界標準のPCソフトウェアを使ってミュージックストアにアクセスできることであり、別々のストアで手に入れた楽曲を標準のMedia Playerでミックスし、さまざまなデバイスで再生できるようになることです。
---この10年の予想を振り返って、野心的すぎたもの、あるいはまったくの間違いだったものはありますか。
私の予想の多く---かなりの割合と言っていいでしょう---はきわめて野心的です。こうした予想が実現するには時間がかかります。タブレットPCの場合は10年かかりました。タブレットPCは注目を集めつつありますが、やるべきことは山ほど残っています。Tablet PCはいずれモバイルPCの主流になると考えていますが、それもまだ先の話です。
いくつかの基礎的条件は、私自身も驚くほど早く実現しました。特にブロードバンドとWi-Fiの普及、そしてディスプレイとディスクの進化は重要です。おかげでMedia Centerのコンセプトは我々の予想通りに、驚くほど順調に進んでいます。しかし、これは予想が楽観にも悲観にも転ばず、かつパートナーシップが非常にうまくいったまれなケースと考えるべきでしょう。
いずれにしても、デジタル写真の撮影や保存、整理、チェック、ほかとの連携といった面では、テクノロジー業界の宿題は多いとユーザーは考えているはずです。
---そのビジョンを実現するためには何が必要ですか。
常に顧客の声に耳を傾けること。ハードウェアの進化。そしてデジタル著作権管理の問題---購入した映画はどのデバイスでも再生できるようになるべきです。我々はコンテンツ企業と密接に連携して、消費者にとって分かりやすく、かつコンテンツ所有者の権利も守ることができるようなデジタル著作権の基準作りに取り組んでいます。しかし、これは難しい問題です。
音楽の分野では状況は改善方向にありますが、先ほども述べた通り、デバイス間でのデータのやり取りや、使用権の理解は十分とは言えません。こうした課題を早急に解決するためにはコンテンツ企業との連携が不可欠です。
---今後の展開を考えると、融合の主役になるのはテレビでしょうか、それともPCでしょうか。
テレビに接続されたPCです。テレビと聞いて思い浮かぶのは大きな画面です。複数の人間が少し離れた場所に座って番組や映画を見る---こうした用途にテレビはぴったりです。一方、番組ガイドから見たい番組を探したり、ハードディスクに情報を記録して、好きなときにアクセスできるようにしたり、旅行やその他のキーワードで写真を検索したりするためには、PCの能力をフルに活用する必要があります。
本格的なデジタルライフを実践している家庭では、PCがテレビを制御するようになるでしょう。ビデオやその他のメディアを大量に保有して楽しみたいなら、拡張性、豊かさ、そしてそれを取り巻くフレームワークの面でPCに軍配が上がることは間違いありません。
---双方向デジタルケーブルテレビの現状と短期的な見通しについて、Microsoftの見解を簡単に説明してください。これまでのところ、ビデオオンデマンドや双方向デジタルサービスはごく限られた形でしか実現していません。この状況をどう思いますか。
現在、ケーブルインフラは2つの形で利用されています。1つはPCと接続するモデルで、当然、双方向性はきわめて高く、財務的にもすばらしい成功を収めました。ケーブル業界を支え、成長を牽引してきたのはこのPCモデルです。
もう1つはケーブルテレビです。ケーブルテレビのセットトップボックス(STB)はほとんど進化していませんが、衛星放送の追い上げとビデオオンデマンドという強力なライバルの出現を受けて、各社はSTB用ソフトウェアのアップデートに着手し、ハードディスク内蔵型など、新しいSTBの開発も検討しています。ケーブル事業者はユーザーを維持するために、衛星放送やTiVoにひけを取らないサービスの実現を急いでいますから、こうした取り組みは今後、大きな意味を持つことになるでしょう。
MicrosoftのTV Foundationソフトウェアは既存のSTBでもこうした新機能を実現できるようにしたものです。このソフトウェアはモトローラなどが開発しているハードディスク内蔵型STBや新機能を搭載したやや新しいSTBでも動作します。
テレビサイドではまだこれといった変化はありませんが、状況はすぐに変わるでしょう。必要なコマはすでにMicrosoftやその他の企業が提供していますし、ケーブルテレビが生き残り、サービスのデジタル化を進めるためには行動を起こす必要があるからです。
---CESの開催中にケーブル事業者とのパートナーシップを発表する予定はありますか。
CESの場で発表する予定はありません。CESで発表することはほかにも山ほどありますからね。基本的に、ケーブル関連の発表はケーブル関連の見本市で行っています。
---反トラスト訴訟が和解に向かっていますが、そのせいでMicrosoftの家電戦略が及び腰になる可能性はありますか。家電事業がとんとん拍子に進めば、「Microsoftがまた新たなプラットフォームを独占しようとしている」と言う批判が高まる可能性があります。
この業界の競争は熾烈です。Windowsが競争力を維持するためには、そして、最新のハードウェアを購入し、新しいシナリオを受け入れる理由を消費者に与えるためには、新しい機能を追加し続ける必要があります。手をゆるめることのできる場所などありません。この競争で唯一、確実に得をするのは消費者です。消費者はすばらしい変化を体験することになるでしょう。家電とPCの融合が現実味を帯びてきたのです。長い間語られるだけだったものが、ついに形を成しはじめたのです。
---そう言えば、Microsoftは家電企業や映画会社にWindows Mediaフォーマットを(高画質ビデオ圧縮用に)採用するよう働きかけていますね。しかし、ビデオフォーマットとしてはMPEG-4も見劣りしないという意見もあります。MPEG-4に何か問題があるのですか。
品質、ライセンスに関する柔軟性、そしてハードウェア要件の面で、Windows MediaにはMPEG-4にはない利点がたくさんあります。MPEG-4とWindows Mediaはどちらも、今後広い範囲で利用されるようになるでしょう。
どちらのフォーマットも重要ですが、我々はWindows Media の優位点を明らかにし、その利点が生かせる分野ではWindows Mediaを活用してもらいたいと考えています。我々がWindows Mediaの普及に取り組んでいるのは、利用可能なメディアとして広く認知してもらうためです。すべてのデバイスにWindowsを搭載しなければならないと言っているわけではありません。
---先日、MicrosoftはMSBlastワームの新しい除去ツールをリリースしました。ワームとウイルスに関して言えば、2004年は昨年よりもよい年になるでしょうか。
セキュリティは当社に限らず、業界全体の最優先項目です。Microsoftは昨年、セキュリティ面で大きな進歩を遂げました。企業顧客の相当部分がSystems Management Server (SMS)を導入するようになり、その結果、デスクトップソフトウェアを簡単に更新できるようになったのです。これはネットワークの安全性を確保する上で非常に重要です。
システムの設定に関して言えば、我々ははっきりと、ファイアウォールを利用し、自動更新機能をオンにするよう呼びかけてきました。その結果、状況は大幅に改善されました。しかし、敵も攻撃手段を進化させ、注目であれ何であれ、望みのものを手に入れようとしていますから、気を抜くことはできません。
個人・法人を問わず、ファイアウォールの監視やソフトウェア更新サービスの利用については、今後さらに突っ込んだ対策が必要になるでしょう。攻撃手段は進化し続けていますから、我々は今年もセキュリティ問題を最優先課題として取り組んでいくつもりです。
---Windows の独占といった「モノカルチャー」の環境が、企業ネットワークの脆弱性を高めているという見方もあります。このような意見にどう反論しますか。
皮肉な話ですね。というのも、我々がセキュリティの監視に莫大な投資を行うことができるのも、Windowsを攻撃するツールが出てくるのも、Windowsの人気によるものだからです。実際、システムの安全性を高めることが目的なら、善意の協力者を募って、システムを攻撃してもらうのが一番です。
小規模な攻撃が分散的に起きているだけでは、システムの安全性に問題があっても気づくことはできません。我々はセキュリティ対策に最良のスタッフをあて、24時間体制で取り組んでいます。これだけの体制を複数のシステムに用意することはできません。つまり、我々が行っている最先端の研究(そして対策ツールの開発)は、その他のシステムの脆弱性の低減にもつながっているのです。
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