Debra Bowenが暮らす南カリフォルニアの海岸地域は、シリコンバレーから南に数百マイル離れた場所にある。しかし、この地からBowenが打ち上げた爆弾は、ワシントン州にあるマイクロソフトにも十分届くものだったようだ。
リドンドビーチに暮らす州議員Debra Bowenは、ことスパムに関する限り、Microsoftの態度におかんむりだ。
カリフォルニア州で10年にわたり政策立案に携わってきたBowen議員は、スパム業者を取り締まり、消費者のプライバシーの保護を目指した法案を議会に提出した。つい最近は、一部のスパム関連法案が議会を通過しないよう、Microsoftがロビー活動を行っていると批難している。その法案の中にはBowen議員が提出した法案も含まれている。
Bowenの語気は荒い。「Microsoftがユーザーをスパムから守ってくれると信じるのは、テレマーケティング会社に『着信拒否者リスト』の作成を任せるようなものだ」(Bowen)
上院新技術小委員会の委員長をつとめるBowenはハイテク嫌いなわけではない。ペットの犬や猫が迷子になったときに備えて、追跡用のRFID(radio frequency identification)チップを埋め込んでいる。お気に入りの作家はおしゃれ系オタクに人気の高いSF作家William GibsonとNeal Stephensonだ。2人の作品はBowenの政策姿勢にも影響を与えている。
---Microsoftに対し、一部の反スパム法案の成立を妨害していると激しく批判されていますね。ご自身が提出した法案もその1つですが、その主張は的を射たものでしょうか。
そう思っています。私はスパム問題に対する同社の態度を正確にとらえたつもりです。同社の態度、それは簡単にいってしまえば「二枚舌」です。Wall Street Journalによると、Bill Gatesは自主規制の仕組みを提唱しているそうですが、これは同社がスパムの郵便局となり、一通一通のスパムメールから「切手代」を徴収するというものです。
当然、スパムを防ぐという名目でインターネットユーザーやソフトウェアユーザーに課金をすることもできます。つまり、Microsoftはスパムのライセンス化や切手制度の導入を公然と主張しているのです。
---何が問題なのでしょう。
もっと簡単に考えてみましょう。Microsoftが本当にスパムに反対しているなら、消費者の同意なしに広告メールを送りつけることを禁止するSB12法案などを支持していたはずです。しかし、Microsoftはそうしませんでした。代わりに、スパムというのは詐欺的なメールのことであって、Microsoftに「切手代」を払っている業者が送る広告メールはスパムではない、などと言いはじめたのです。
---以前スパム問題についてお話を伺ったのは、あなたの提出したSB12法案を小委員会が否決し、Microsoftが支持したもう一方の法案を可決したときのことでした。あのとき、可決された法案にはいずれ修正案が持ち出されるはずだと警告されましたね。そして、自分は法案の復活を試みると。その後どうなりましたか。
SB 12の骨子は可決された法案に取り入れられました。2つの法案が1つになったわけです。私が懸念していた個所もおおむね取り除かれました。現在、議会に提出されている法案はSB12に非常によく似たものとなっています。
---可決された法案の進捗状況はいかがですか。
現在は下院で審議中のはずです。追って、上院でも審議が行われることになるでしょう。
---スパム問題に対する連邦議会の取り組みをどう思われますか。
現在、連邦議会に提出されているオプトアウト方式の法案は、ないほうがましともいうべきものです。ユーザーが拒否しない限り広告メールを送り続けてもいい、というやり方では問題は解決しません。これはスパムを合法化し、問題をユーザーに押しつけるものです。スパム業者の特定は難しいこと、受信拒否の手続をとっても効果はないこと、そして業者は始終Eメールアドレスを変えることを知っていながらこうした法案を提出するのは、消費者を侮辱する行為です。
スパム業者が心を入れ替え、受信拒否者には送信を控えるようになることを議会は期待しているようです。しかし、これほどのんきな話はありません。もっと別のやり方が必要です。受信箱を管理する権利は本人にあるべきです。消費者の同意を得た場合にのみ、広告メールを送ることを許可するような国家基準が必要です。
---先月、RFIDに関する公聴会を開かれましたね。RFIDのどんな点を懸念されているのですか。
私が懸念しているのは技術そのものではありません。技術自体にはいいも悪いもありません。問題は、例えばRFIDタグが組み込まれた商品をクレジットカードで買った場合に何が起きるのかということです。購入者を特定する情報がタグに記録されれば、公聴会の席でも話題にのぼったように、家にスキャナーやアンテナが設置されるのと同じことになりかねません。
スニーカーにタグが埋め込まれていれば、それを履くたびに、だれかに所在をつかまれることになるかもしれません。つまり、RFIDタグに関する懸念というのは、プライバシーが失われる恐れがあることなのです。
---何らかの法規制が必要でしょうか。
答えを出すのはまだ早いと思います。今回の公聴会の目的は、RFIDに関する政策論議に先鞭をつけることでした。ご承知の通り、こうしたタグの機能にまったく気づいていない人は大勢います。タグの存在に気がついていても、例えば長い金属片のようなものだと分かっているだけで、それが具体的に何をするのかは分かっていないのです。
どんなデータが送信されるのかも知りません。タグのついた商品をクレジットカードで買えば、商品と個人情報が結びつく可能性があることも理解していません。もっと啓蒙活動が必要です。法案を提出する前に、この技術はどうあるべきなのか、プライバシーに対する懸念をどう解消するのかについて議論が必要です。
---小売業界は自主規制を行い、しかるべき行動をとることができると思いますか。
もちろん、RFIDを有効に活用するためには小売業界の参加が不可欠です。RFIDがどのように働き、どんなことを可能にするのかを知っているのは小売業者だからです。プライバシーの問題がどういう形で決着しようと、最終的にはシステムの側で対応が必要になるでしょう。基本的に、私は自主規制というものをあまり信用していません。ほとんど役に立たないことは過去の例からも明らかではないでしょうか。スパムはその最たるものです。
---一般の認知度という意味では、RFIDはスパムの域には達していません。なぜ今、この問題に取り組むのですか?
インターネットの場合、構造そのものがスパムを可能にしています。スパム業者を追跡し、そのシステムを閉鎖することが難しいのもインターネットの構造によるものです。RFIDタグは本格的な利用が始まったばかりですから、まだプライバシーや追跡の問題に配慮した仕組みを作るチャンスが残されています。それに問題が大きくなるまで待つより、今行動するほうがはるかに効果的です。
---仮にRFID法案がカリフォルニア州で通過したとしても、効果のほどはどうでしょうか。ほかの州にもRFIDの導入を計画している企業は多々あります。Wal-Mart Stores、Gillette、Procter & Gambleもそうです。
実際問題として、カリフォルニア州は3400万人を抱える巨大なマーケットです。この州で何かが決まれば、小売業者や卸売業者はカリフォルニア州専用の例外規定を設けるか(この州の規模はケタ違いですから、そういうこともありえます)、あるいはこの州に合わせた規定を作り、ほかの州に適用するかを決断することになります。意外かもしれませんが、めずらしいことではありません。
---RFIDは生まれたばかりの技術です。規制によってこのテクノロジーの可能性が制限される危険性はありませんか。潜在的な利益がつぶれてしまうかもしれません。
そうは思いません。我々が目指しているのは、このテクノロジーの発展を社会全体にとって好ましい方向に導くことです。消費者の不買運動を招くようなものに巨額の開発資金や導入コストを割くなど、だれも望んでいないはずです。
---インターネット、データマイニング、RFID---新しいテクノロジーが登場するたびに、プライバシーが侵害されるリスクも高まっています。社会はプライバシーをあきらめなければならないのでしょうか。社会はどのような方向に向かい、またどんな問題が予想されるのでしょうか。
それは難しい問題ですね。プライバシーが脅かされているという感覚ほど、人を不安にさせるものはありません。それは自分の個人情報を自分で管理できないという不安です。私はこの感覚が、許可なく顧客の金融関連情報を他社に開示することを禁止したカリフォルニア州上院法案1(SB1)を通過させたのだと確信しています。
もし、これが金融情報だけでなく、所在地情報やその他の個人情報にも及ぶなら、人々の関心はさらに高まるでしょう。人々が議論に参加したいと望む理由は十二分にあるのですから。
---現在、カリフォルニアは州知事のリコール選挙で大騒ぎです。ところが、ハイテク業界はこの問題についてほぼ完全な沈黙を守っています。これまでにない静けさの原因は何だと思われますか。これは今回のリコール選挙に限ったものなのでしょうか、それとも大統領選挙でも同じようなことが起こるのでしょうか?
ハイテク産業が大統領選挙を黙って見ているとは思えません。今回のリコールは興味深い事態です。カリフォルニア州法は住民にリコールの権利を認めています。現時点では、今回のリコールが本当に草の根運動に端を発しているのかは何とも言い難いところですが、住民が自ら決定を下し、政策問題を議論したいと考えていることは確かです。カリフォルニア州の経済状況が焦点のひとつになるでしょう。それはハイテク産業にとって、縁のない話ではないはずです。
---なぜこれほどハイテクに関心をお持ちなのですか。
私の父はエンジニアです。祖父もエンジニアでした。高校時代、製図のクラスをとることを禁じられていなかったら、私は議員ではなくエンジニアになっていたかもしれません。つまり、今は私のなかにあるオタクの要素が発揮されているのだといえるかもしれませんね。
---SF作家のWilliam GibsonとNeal Stephensonのファンだそうですが、政策立案者として、何か影響を受けたと思われますか。
彼らはテクノロジーがどこに向かうのか、新しいテクノロジーがどんな社会を生みだすのかを常に考えていました。2人の作品には多大な影響を受けています。最近は私も、未来を語ることが多いですからね。私はテクノロジーの問題に取り組むかたわら、StephensonやGibsonらの作品にも目を通してきました。1994年にSF小説で読んだことのいくつかは現実のものとなっています。
---例えば?
Stephensonの初期の作品に「Snow Crash(邦題:スノウ・クラッシュ)』というものがあります。謎のコンピュータ・ウイルスをめぐる話ですが、私たちも最近はコンピュータ・ウイルスの問題に悩まされています。たとえば、Air Canadaは(システムがウイルスに感染したために)搭乗手続を手作業で行ったといわれています。同じような例はいくらでもあります。私の脳内にはデータベースがあって、テクノロジー関係の情報を次々と収めるようになっているのです。
政策立案者の立場からいうと、ハイテクほどやりがいのある、そして楽しいテーマはありません。なぜなら、これは新しい分野だからです。そこには必ず、だれも考えたことのなかったような問題があります。かみそりのパッケージを個別に認識し、その動きを追跡するような技術が現れるなど、一体誰が想像したでしょうか。
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