これまでサーバのプラットフォームとして語られることの多かったLinuxだが、今回のLinuxWorldでははじめて家電製品をテーマとした基調講演が催された。「Linuxは情報家電のプラットフォームになれるか」と題した講演の壇上に立ったのは、ソニー執行役員上席常務で同社プラットフォームテクノロジーセンターのプレジデントを勤める所眞理雄氏。同氏は、Linuxに対して積極的な姿勢を見せるソニーの取り組みや情報家電市場について語った。
所氏によると情報家電とは、家電、コンピュータ、ネットワークの3つがつながったもの。使われる場所として想定されるのは、家庭、学校、ホテル、車中など場所を問わず、製品として考えられるものは、すでに幅広く使われているPDAや携帯電話などをはじめ、インターネット冷蔵庫、デジタルAV家電など数多い。また、これら製品にそれぞれ違った使い道やコンテンツが想定され、「市場規模としてはかなりのものだ」と所氏は語る。
あるデータによると、日本における情報家電の市場規模は2002年で約5000億、2006年には1兆1000億にも上るのだという。世界市場としての正確なデータはないが、所氏はこの数字の約4倍はあると見込んでいる。また所氏は、「2006年には情報家電市場の規模がPC市場より大きくなる可能性がある」とし、エンジニアの需要もPCサーバ系から家電系にシフトするのではないかと語る。
ソニー執行役員上席常務 所眞理雄氏 | |
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幅広いニーズが想定される情報家電ではあるが、技術的に求められるレベルは非常に高い。消費電力を極力抑え、レスポンスや起動時間が短く、また信頼性が高くて誰にでも使える製品を作らなくてはならないからだ。また、製品ごとに設計思考や商品化のスピードも異なるため、多様性と効率性の両立が求められる。
そこで、すべて自前のプロプライエタリな世界から、共通プラットフォームを活用しようという動きがソニーでも2年ほど前から始まったのだという。「共通プラットフォームを採用することで、製品間のインターオペラビリティが実現される。また、開発の一極化で開発効率が向上し、開発スピードを短縮することができる。開発資産の共有化も可能で、しいては開発コストの削減にもつながる」と所氏。
共通プラットフォームとして有望なのがLinuxだ。ソニーはLinuxを使った家電として、好みの番組を自動録画するチャンネルサーバ、コクーンを2002年9月に発売している。Linuxを採用したのは、ネットワーク機能の可能性が大きいことや、設計スピードが向上されることなどからだという。所氏が実際に開発に関わったエンジニアから意見を聞いたところ、「ソフトウェア資産共有化のメリットは大きかった」「バージョンアップが早く、ついていくのは大変だが進化はすばらしい」など、肯定的な意見が多かったとのことだ。
「Linuxを採用することで、社内だけでなく他社との共通性も生まれる」と考えるソニーは、2002年12月に松下電器産業とデジタル家電向けLinuxの共同開発で合意している。2社はオープンソースコミュニティと意見交換を行いつつ開発を進め、GPL(General Public License)のもとソースコードを一般に無償公開していく。また、国内外のデジタル家電機器関連企業と協調して活動を拡大発展させるため、デジタル家電Linuxのフォーラムグループの設立を推進しているのだという。
ただ、情報家電でLinuxを採用する際に課題がないわけではない。知財・特許の問題や、コミュニティとの連携、そしてLinuxエンジニアが限られていることや、ユーザーのニーズに継続的に対応しなくてはならないことなどだ。しかし所氏は、「ハードが一定ではなく、オープンスペックもない家電の世界でこそLinux活用の価値がある」と語り、今後も積極的にLinuxに取り組んでいく姿勢を見せた。
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