第8回 起業家人生ならではの醍醐味とは?

 前回は失敗したときのリスクなどを述べましたが、今回は逆に起業のうまみを述べましょう。以下は「成功すれば」の前提がつく話が多くなりますが、大きなリターンにはそれなりのリスクテイクがつきます。しかしこのエッセイをお読みいただければ、それが実は無謀ではない、管理可能なリスクであることがわかるはずです。では、起業家ならではの醍醐味をならべてみます。

会社をつくって社会に貢献することで自己存在証明を果たす

 これはやや優等生的な表現かもしれませんが、あえて真っ先に述べます。自分の信じるビジネスチャンスに賭けて会社をつくり、成長させ、顧客をよろこばせ、従業員と喜びをわかち、株主にも報酬をもたらし、喜ばれる。場合によっては、「世界を変える」ほどのインパクトを社会にもたらす。それが大きな自己存在証明、自己実現になります。雇われの身とはまるで違う満足感です。会社が生成発展することを創業者が喜ぶのは、わが子の成長を喜ぶ親と同じことで、そのすばらしい満足感はいわずもがな、です。

自分の人生を自分で舵取りする喜び

 人生は選択の連続ですが、ともすれば、大組織にいると、人事異動その他、一事が万事、自分の範囲外で自分の人生が運命づけられていきます。「それも人生、塞翁が馬」という見方もありますが、起業家としては、あくまで自分の人生を自分で舵取りしたいという人が多いようです。そうでないと生きている気がしない、という人までいます。

創造のよろこび

 起業はビジネスにおける芸術的創造行為です。人間をホモ・ファーベルと呼びならわすように、人間の存在の本質に「造る」という性質があります。何かを創造することは人間の最大の喜びなのです。それをビジネスというシーンにおいて自分の意志、自分の才覚で試すことができる。それが喜びでなくて、なんでしょうか?

ゲームのスリルと楽しみ

 起業はゲームとしての楽しさとスリルがあります。ビジネスはお金儲けのゲームです。つまり、使ったお金以上のお金をとりかえし、その後もどんどん増やすことを目指すゲームなのです。資本金として最初に投じた資金は、最初は開業準備などで当然減っていきますが、その後開業して商売がまわりだすとだんだん増えだし、ついに売上げがコストを上回るようになり利益が出始めます。そして、時間の経過とともにさらにどんどん膨らんでいけば、ゲームに勝ったことになります。逆に開業後も売上げがあまり上がらず、資金が減ってなくなれば負けです。単純な話です。

 そしてゲームに勝てば、出資したシェアに応じて大きなリターンがきます。負ければ、投資家の出資額がフイになるわけです。起業家自身が投資した分も当然失われますが、個人保証などをいれないかぎり、それ以上のマイナスは残りません。失敗しても再起はいくらでも可能です。

24時間が自分のものに

 勤め人の時代は、強く意識していようといまいと、サラリーをもらっている勤務時間とそうでない時間の二元論の中に人生があります。また勤務日と休日・有給休暇の区分があります。サービス残業なんていやだな、と思いながら残業します。ところが、起業してしまうと24時間365日が自分のものです。仕事時間が多くなっても、すべて自分のためにやっているのですから、いやだな、という感情にはなりません。二元論が一元論にかわり、自分の人生の時間がすべて自分のものになるのです。これはやってみた人でないとわからない不思議な時間感覚です。

大金持ちになれるかも

 どんなに給与の高い職業でも、お金持ちになるという点では、成功した起業家にははるかに及びません。マイクロソフトのビル・ゲイツは、起業後20年で世界一の富豪という頂点にまで登りつめました。アラブの石油富豪とちがって、相続などの方法ではありません。あくまでまったくのゼロから自分の才覚での起業によるものです。もちろんビル・ゲイツは例外的でしょうが、数十億、数百億円単位の個人資産を作る合法的な方法は起業家しかありえません。サラリーマンのファイナンシャルライフプランと比較して桁違いに大きい夢を追いかけうるのです。お金持ちになることが幸福と必ずしも直結していないのは世の常です。また、特に日本の社会風土では、ねたみの対象になったりして複雑です。が、このような規模のお金持ちになる可能性がある、ということは起業家としての特権のひとつといえます。

 もっとも、株式公開して成功した起業家の財産は、ほとんどが株の形で保有されますので、それほど一挙にキャッシュがふえるわけではありません。また、最近の若い起業家は成金趣味とは縁遠い人も増えていますから、見た目は普通の人となんらかわらないかもしれません。

より発展的な人生に。有名人・注目の人に。

 起業家は、仕事が発展していくと、いままでではつきあえなかったレベルのより高次の人とあったり、いっしょに仕事をするチャンスを得ることも多いものです。また、注目をあつめるような事業に成功した起業家はいろいろともてはやされます。マスコミも追いかけます。有名人になります。その発言は影響力をもちます。そうなっても謙虚さをうしなわないようにしなければなりません。ただ、起業家の中には、目立つことを避ける主義の人もおり、それはそれで奥ゆかしいものです。

ドラマチックな人生にむく

 私は「サラリーマン」という言葉が実になんとも嫌いです。毎日9時から5時までお勤めしていればサラリーをもらえる人という意味で、なんとも受身のニュアンスがただよって、物悲しいです。まだ、「ビジネスマン」のほうがマシです。ビジネスをやる人、という「行為の人」の意味でしょうから。さて、起業家は、自らの道を自らで拓く決意をし、リスクをとって実行した人です。指示待ち族の対極にいる人です。

 そして、成功すればそれはそれですごいことですが、事業が失敗しても、また挑戦するなり、一時的に雌伏するなり、とにかく一生自分の人生をあきらめずに、自分で追求していく。あるときは失意のどん底で極貧にあえぎ、あるときは成功の頂上感に酔いしれる。そういう意味で映画のように実にドラマチックな人生といえます。

 人の好みですから、どちらがいいというものではありませんが、もしあなたが平穏・安定を好まず、ダイナミックでドラマチックな人生をおくりたい情熱家であれば、迷わず起業家を目指すことをおすすめします。

 とまあ、かんがえるだけの起業家のうまみ・醍醐味を並べてみましたが、どこかあなたの心に共鳴した点はあったでしょうか。また、もっとぜんぜん違うところに魅力を感じる人もいるでしょう。醍醐味は自ら発見し、創造してください。

「起業家というキャリア」は毎週木曜日の更新予定です。


筆者プロフィール
西川 潔
ネットエイジ 代表取締役社長
KDD、米国コンサルティング会社、AOLジャパン などを経て、98年2月、ネットエイジを草の根的に創業。 インターネットビジネスの企画・開発・運用を通じ、ビジネス インキュベーションおよび、投資業務を手がける。現在までに12のビジネスをおこし、M&Aで4社を売却。また、99年に 日本中を席巻したビットバレー構想の発案者でもあり、常に起業家主導経済の重要性を説く。東京大学教養学部卒

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