第5回 起業は特殊な行為ではない

 前回まで3回にわけ、私自身の起業ストーリーをご披露しました。種をあかせば、編集者と相談の上、まず筆者本人の実話で読者の心をがっちりつかもう、という作戦をとらせていただきました。(果たして効果はあったかな?)では、これから本格的に、起業家というキャリアについて入ってまいります。

 起業にまつわる一般のイメージは、どんなものでしょうか?まずは、「危険な行為、リスキーな道」という単語が思い浮かぶのではないでしょうか?確かに、起業とは、いままでの典型的日本人の人生コースのような筋書きが一切ない人生設計です。保守的な人からみたらリスキーこの上ないものにみえるでしょう。

 最初から安全かつ有利なエリートコースを外れているなら、本人も親もあきらめもつきます。しかし、まさにそのコースを猛進中の人があえてそれを踏み外し、なんら成功の保証のない起業コースに乗り換えるという行為は、一見ペイしない行為です。親を嘆かせ、周囲から「気がふれたんじゃないか」とまで思われることさえあります。

 そして、成功すれば豪邸住まい、失敗すれば一家離散。そんな浮き沈みの激しいイメージがいまだに多くの日本人を支配しているようです。

 また、一方では、必要以上に派手なイメージをもつ人も多いようです。確かに大成功した起業家は有名になり、いろいろなメディアから取材を受け、経済界における「芸能界スター」のような存在になりえます。

起業はありふれた職業選択のひとつ

 しかし多くの場合、実は起業とはもっと地道なものであり、営々と継続する努力であり、また、日本以外の国では、もっと多くの人が目指す普通の職業選択なのです。特に中国の人たちは、他人に雇われるのは将来独立する準備だというくらいに考えている人が多いと聞きます。また、アメリカでも「自分のボスは自分」というライフスタイルを好む人が多く、起業率が非常に高い。もともと開拓者精神の国柄がありますから、当然ともいえますが。

 わが国でも、たとえば飲食業やヘアサロンなどには、のれんわけして独立することを夢見るハングリーな若者が大勢います。実は、起業意識が一番低いのが安定した大企業社員なのです。まず、そんな皆さんの意識をかえていただきたい。起業とはそんなに特殊な行為ではない、ということを認識していただきたいのです。そこが最初の出発点です。

 大企業にいる優秀なビジネスマンは、当然社内でも出世し、人望も厚く、将来を嘱望される存在です。まあ、そこまで優秀といかずとも、当面くびになる危険性はせまっていないでしょう。では、そんな彼らビジネスマンが起業する動機は何なのでしょうか?

やりたい、という本源的な欲求につかれて

 ひとことで上の答えを述べましょう。「人間は、やりたいことをやるのが一番自己充実感を覚えるから」。これが答えです。優秀なビジネスマンの多くは世の中の動きに敏感で、自分の職務経験の中から新たにやりたいと思えるビジネスアイデアを見つけることがあります。あるいは、偶然の出会いなどの中からものすごいビジネスチャンスを発見して興奮することがあります。技術者なら、独自に発見した技術を使って世の中にインパクトのある応用ビジネスを実現することを夢見ます。

 その思いが強いと、しだいにそれは情熱、パッションにかわってきます。それがあるにもかかわらず、いまの所属する会社のもとではなんらかの事情でそれを実現できないというとき、起業への葛藤がはじまります。いままでの常識でいうと、自分自身の固定観念として起業などという選択はなく、それをすぐあきらめていました。しかしいま、起業の方法論を知れば、それが可能になったのです。そして、そのメカニズムを知ると、「なんだ、これなら自分にもできる」とわかります。そして、世間体などの心理的バリアを克服して、ある臨界点を超えると、実際に起業を決意することになるのです。具体的な方法論はさておき、まずは起業に立志することです。

 次に、起業は「資本主義の世の中において、世間が必要としている」行為である、という認識をもっていただきたい。これについては次週に述べます。

(以下つづく

「起業家というキャリア」は毎週木曜日の更新予定です。


筆者プロフィール
西川 潔
ネットエイジ 代表取締役社長
KDD、米国コンサルティング会社、AOLジャパン などを経て、98年2月、ネットエイジを草の根的に創業。 インターネットビジネスの企画・開発・運用を通じ、ビジネス インキュベーションおよび、投資業務を手がける。現在までに12のビジネスをおこし、M&Aで4社を売却。また、99年に 日本中を席巻したビットバレー構想の発案者でもあり、常に起業家主導経済の重要性を説く。東京大学教養学部卒

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