MSのデジタルメディア戦略は消費者に受け入れられるか

Joe Wilcox(Staff Writer, CNET News.com)2003年04月17日 10時00分

 Microsoftデジタルメディア部門のトップは、高い人気を誇る大学バスケットボールの決勝戦をテレビで見ようか、オンラインで見ようか悩んでいる。

 MicrosoftのWindows Digital Media総合責任者であるDave Fester氏がなぜこんなジレンマを抱えているかというと、米Yahooの新契約配信サービスがNCAA(全米大学競技協会)トーナメントのオンラインストリーミングに、部分的ながらWindows Media技術を採用しているからだ。

 Windows Digital Media部門は、Microsoftの中でも最も影響力があり、かつ最も論議を醸しがちな製品グループの1つだ。Microsoftに批判的な人々は、同社がNetscape Communicationsとのブラウザ戦争のときと同じような戦略で、価値のあるデジタルメディア技術を無償提供している点を非難している。同部門では現在、5.1チャンネル・オーディオサラウンド対応のデジタル音楽が再生できるなどの新機能を盛り込んだ、Windows Media 9 Seriesを提供し、顧客を惹きつけている。

 しかしながら、同部門の最大の課題はライバルや批評家への対応ではなく、コンテンツ制作者や消費者を魅了できるかどうかという点にある。Microsoftのデジタルメディア戦略の中心にあるのは、オンラインデジタルコンテンツの配信を推し進めるデジタル著作権管理(DRM)技術だ。

 Fester氏はCNET News.comに、コンテンツ制作者の要求と、消費者の期待とをうまくバランスさせることは難しいと語る。

---MicrosoftはWindowsをデジタルメディア技術の配信プラットフォームとして使うことで、市場で不当に有利な立場にある、と非難する人々がいますが。

 デジタルメディアは10年以上も前から、WindowsにもApple ComputerのMac OSにも組み込まれています。Microsoftは、ソフトウェア開発者やコンテンツプロバイダが、それぞれのデジタルメディアソリューションを開発できるようなプラットフォームを提供しています。そしてWindows Media 9 Seriesコーデックで採用した新ライセンスプログラムにより、Windows以外のさまざまなプラットフォームやアプリケーション、機器にもこのデジタルメディアプラットフォームを拡大しています

 我々は開発者やサードパーティーが、わが社の技術をベースにして素晴らしい製品を作り続け、デジタルメディア市場を成長させてくれると期待しています。Windows Mediaなどの技術をベースにした500を越えるソフトウェアソリューションやサービス、機器などが様々な分野で存在しています。この事実は、チャンスがそこにあること、そして業界の多数の人々がそれを理解していることを見事に証明しています。

---他の企業は有益なDRM技術を、Windowsのような他製品を通じた技術投資として無償提供するのではなく、販売すると思いますが。

 我々はWindowsを販売していますが、DRMはWindowsの全体的価値の一部を担うものです。DRMは、Windows OSの他のセキュリティ機能と相補的な役割を持っています。ちょうど現在のWindowsのセキュリティが、深いファイル層にまで達しているようなものです。ただしDRMの場合、メディアがマシン間で移動する場合やインターネットでやりとりされる際にまで著作権保護を拡張しています。デジタルメディアがコンテンツ産業のソリューションとして成長していくためには、DRMがプラットフォームの一部となる必要があるのです。健全なデジタルメディア市場を築くため、つまり、消費者が素晴らしいコンテンツを求め、コンテンツプロバイダがそれを提供し、それに対する報酬を受けるという関係が続いていくために、我々はDRMをWindows内に組み込んでいるのです。

---昨年、Microsoftのある研究者が個人で発表した「Dark Net」という研究論文では、消費者はファイル交換を止めないため、DRMは市場で成功しないと結論付けられていました。この結論に対するあなたの考えはいかがでしょうか。

 この結論はMicrosoftの立場を反映したものではないし、わが社の立場がその論文の結論に書かれているわけでもありません。海賊行為が存在し続けるからといって、コンテンツ保護ソリューションを開発するのが無意味になるわけではないのです。確かに正当なコンテンツは違法な商品と争うことになるわけですが、合法コンテンツの配信は、健全な技術と、消費者が望む幅広いコンテンツへの手軽なアクセス、そしてそのコンテンツの所有者に相当の代金を支払えば、コンテンツをユーザーが自分の機器で利用できるシステムがあって初めて繁栄するということを、IT業界やコンテンツ業界が認識することが重要です。

---Microsoftのデジタルメディアグループは、なぜ単独の組織ではなく、Windows部門の1部分になっているのですか?

 デジタルメディアは1991年、Windows 3.1オペレーティング・システムに最初のWindows Media Playerを搭載してからというもの、Windowsの主要機能の1つとなっています。他のOSメーカーも同様の戦略をとっています。

 Windowsクライアントビジネスの一環として、我々の目標は、WindowsがOSで得られる最高のデジタルメディア体験を消費者や企業に提供できるようにすること、そしてソフトウェア開発者や消費者向け機器メーカーが自社製品開発の基盤に利用できるような、立派な開発プラットフォームを作ることです。Windows Digital Media部門はとくに、Windows Media PlayerやWindows XPのWindows Movie Makers、まもなく発売されるWindows Server 2003のWindows Media Servicesストリーミングサーバ、オーディオ・ビデオ圧縮(コーデック)や符号化ツール、そして開発者向けのソフトウェア開発ツールなど、Windowsクライアント・サーバ製品の主要機能の開発を監督しており、開発者がわが社のオーディオ/ビデオ、プレイヤー、符号化技術をベースにして新技術を開発できるようにしています。

---デジタルメディアやWindows、その他のコンテンツに関してのMicrosoftの著作権管理戦略はどのようなものでしょうか。

 デジタルメディアについてならお答えできます。わが社は世界最大の知的財産企業の1つであり、著作権保有者のニーズと海賊行為の問題にはもちろん敏感です。この点では、映画会社やレコード会社と同様の意見を持っています。我々は、消費者がコンテンツを簡単に利用できることと、知的所有権を尊重することのバランスが重用だと考えています。Windows Media 9 SeriesプラットフォームはDRMを内蔵しているので、消費者にシームレスな体験を提供しながら、著作権保有者は自分の作品を非常に柔軟に管理できるようになっています。

---DRMの設計に関する課題はありますか。

 DRMは、新しいビジネスモデルに適応し、変わり続けるルールにも対応できるように設計する必要があります。我々のDRM戦略の要は、バランスと柔軟性です。デジタルメディアに関して発展可能なビジネスモデルを興すためには、コンテンツ所有者が自分のコンテンツにふさわしい対価を得る方法が必要です。消費者体験を邪魔しないかぎり、DRMはそのための素晴らしい手段となります。ここでは、コンテンツプロバイダの知的財産の保護と、消費者が求めるものを提供することとの間のバランスが必要になってくるのです。これは難しいバランスですが、我々にとても重要なものです。

---そうですね。ですが、コンテンツプロバイダと消費者が「保護された」コンテンツのオンライン配信にDRM技術を採用することについて、Microsoftは現実的にどんなことを期待しているのでしょう。

 消費者は結局、自分の欲しいコンテンツを、欲しいときに、欲しい場所で得ることが大事なわけです。消費者から見て、最も成功するDRMとはそこに存在することすら気づかないようなDRMです。消費者にとってDRMは、Amazon.comで本を買うときのウェブ暗号化技術と同じくらい透明であるべきなのです。

 以前は、正当なコンテンツがオンラインで全く利用できないことが問題でした。音楽や映画などのコンテンツ企業はここ3年ほど、何が成功して何が失敗するのか、深く学習しています。また契約配信サービスも大きく進歩しました。これからは、どういうサービスやコンテンツなら成功するか、楽曲や映画に適正な価格はいくらか、消費者がコンテンツをメディアに記録したり、機器に移動させたりすることをコンテンツプロバイダがどの程度柔軟に認めるのか、ということを詳細に議論する段階にあります。

---著作権保護の適切なレベルは、どのようにして決まるのですか?

 どの程度の著作権保護が企業にとって適切で、消費者も容認できるものなのかは、市場が決定するでしょう。重要なのは、著作権管理技術がこういった要求に耐えられるだけの柔軟性と力を持つようにすることです。技術の準備は整っていますし、ブロードバンドはどんどん高速化しています。そして多くの顧客は、既にデジタルメディア対応の準備ができています。したがって今こそが、成功するチャンスなのです。

---Windows Digital Media部門の主な目標を3つ挙げてください。

 まず、クライアント、サーバ共に、Windowsで最高のデジタルメディアプラットフォームを提供し、業界内のデジタルメディアプラットフォームで首位になることです。我々は今Windows Media 9 Seriesでその目標に取り組んでいます。Windows Media 9 Seriesでは、ウェブストリーミング体験をより高速に、よりテレビ放送に近くするために開発された実に革新的な技術が使用されています。たとえばオーディオやビデオの圧縮は20〜50%改善され、オーディオ・ビデオ配信コストを抑えるのに成功しています。そして5.1チャンネル・サラウンド対応ウェブや、現在のDVDビデオの最大6倍もの解像度を実現する高解像度ビデオのようなCD・DVD用物理フォーマットなど、革新的な新体験を作り出しています。

 第2の目標は、メディアをいつでも、どこでも、さまざまな形態で利用できるようにすること、そして提携企業がよりよい事業やコンテンツ、製品、機器・サービスを構築できるような、健全なデジタルメディア市場を実際に作ることです。もちろんこの分野は、音楽や映画、消費者家電業界では進歩しています。現在、200以上の機器がわが社の技術をサポートしており、Pressplay、Movielink、CinemaNow、Yahoo Platinum、MusicNowなどの大手オンライン音楽・ビデオ契約配信サービス企業が顧客にプレミアムコンテンツを配信しています。Yahooは2003年のNCAA男子バスケットボール選手権大会56試合を、ビデオと音声でインターネット生中継すると発表しました。これらのサービスにはみな、Windows Media 9 Seriesが使用されていますが、それは、Windows Media 9 Seriesの高速ストリーミング体験と、Windows Server 2003の素晴らしい性能ゆえのことです。

 第3の目標は、企業における新たなコミュニケーション・シナリオを創造することです。デジタルメディアは単に消費者向けのものだけではありません。パソコンを5000台以上所有する大企業の40%が、従業員トレーニングや社内の情報スピードの改善にストリーミング技術を利用しています。実際、Mercedes-Benzでは、工場の作業現場のラップトップにビデオをストリーミングして、技師が車を修理する際、最新のトレーニング情報を得られるようにしています。

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