コンピューティングサービスをインターネット経由で提供し、使用分だけ課金する「ユーティリティコンピューティング」。この業界に思いがけない企業が参入している。オンライン小売業の雄、Amazon.comである。
IBM、Sun Microsystems(Sun)、Hewlett-Packard(HP)などのハードウェアメーカーは何年も前からユーティリティコンピューティングの有用性を訴えてきた。その間、Amazonはひそかに、このサービスの実用化に向けアイデアを温めていた。同社オンラインストアのコンピューティング能力を外部企業に開放するAmazon Web Services事業によって、ソフトウェア開発者は、コンピュータ処理やデータストレージ機能、さらにはフルフィルメントや商取引といった同社の小売サービスにアクセスできるようになる。
このため、プログラマーは、eコマースパッケージやサーバファームを購入して運用する代わりに、Amazonのインフラをインターネットから利用して、使用量に応じて必要な額だけを支払うことができる。これは、電気、ガス、水道などの公共サービスを利用する方法とよく似ている。
「Amazonの傑出した資質の1つは、新しい種をまき、木を育てる強い意欲、そしてそれを時間をかけて実行するところだ」とAmazonの最高経営責任者(CEO)、Jeff Bezos氏は語る。「当社にはWebスケールコンピューティングの要件を理解しているという自負があるし、薄利多売のビジネスでは優位に立てると考えている」
Amazon Web Servicesは2002年に開始され、現在およそ20万人の開発者が利用している。Amazonは、長期的な資本回収を見越してこのサービスに引き続き積極的な投資を行っている。目標は、これまで培ってきた技術的な専門知識を基盤とする、同社の小売ビジネスの経済モデルを模した、1つの独立した事業部門を確立することだ。
Amazonの戦略は、同社がWebサービスのラインアップ を拡大し、経営陣トップが積極的にWebサービスビジネスの「伝道」を開始した2005年あたりから明らかになってきた。
多くの人々が見るところでは、これによって小売業界の巨人Amazonは従来のコンピュータメーカー各社、さらには、Google、eBay、Yahooといった大手ウェブプロバイダーとも競合関係を築くことになるとしている。
「基盤的なコンピューティングインフラストラクチャを従量制ユーティリティとして提供するサービスは、IBM、HP、Sunを含む大手IT企業の大半が行っている。だが、現状は、これらの企業よりもAmazon Web Servicesの方が優れているのではないかと思う」。こう語るのは、著書「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい(原題:Does IT Matter?) 」でアウトソース型ユーティリティコンピューティングサービスの急速な浸透を論じた、ビジネスライターのNicholas Carr氏である。
従来のIT企業の場合、ユーティリティコンピューティングを独立したビジネスとは見なさず、既存の法人向けITビジネスの付属物程度にしかとらえていないが、Amazonは違う、と同氏は話す。
「Amazonがこのビジネスに参入するにあたって、余計なものは何もない。この結果同社は、ユーティリティコンピューティングを最も必要とする企業、すなわちウェブベースのビジネスを運営し、高度にスケーラブルなシステムを必要とする新設企業や小規模企業に焦点を絞れている」(Carr氏)
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