そこでまずはじめにやったのは、我々が持っている考え方や技術が実際に実用化できることを証明することでした。まずは技術コンセプトを証明するチップをつくろうということで、米国の展示会であるSIGGRAPHに出展したりして、お客さんに見ていただくと同時に、市場性を探っていきました。
そうした中で気づいたのは、いくら技術的に優れており、それを評価いただいても、最後に決まって「この製品は、この技術はほかのどこで使われているのですか」という質問があるということでした。何十社の方に我々の製品についてお話しましたが、みなさん同じでした。
家電や組み込みの世界というのは、非常に実績を重視する傾向にあります。お客様のマインドの中には、あえて新しいテクノロジーを使って失敗するというリスクを怖れるところがあるようです。特に日本ではそれが強くて、ベンチャーが成功できない、つまりキャズムを超えられない1つの要因になっています。
--そうした中でどうやって「キャズム超え」を図られたのですか?
山本:ビジネス的な反応を見る中で、実はパチンコなどのアミューズメント業界だけはまったくマインドセットが違うマーケットだということがわかりました。つまり、誰も使っていない技術を評価するという、ほかの業界とまったく逆の発想を持っている方が多いのです。また、我々のIPコアが高性能に加えて低消費電力、低発熱を目指したものであり、これがアミューズメント向けのきょう体にとって重要なポイントとなりました。
ベンチャーが事業を立ち上げるときには、マーケットごとに、競合状態や成長性、収益性、差別化への要求度といったチャートで比較するのですが、その中でいちばん問題になるのが実績重視度なのです。ベンチャーは、「実績を作れないからビジネスを取れない、ビジネスを取れないから実績を作れない」というループから抜け出せないのです。だから我々としては、それならば実績重視度が低いアミューズメント市場に一度会社のリソースをすべて向け、そこでの実績をもとにほかの業界にも事業を展開しようと計画しました。
井出:技術系企業の成長において、“Jカーブ”(最初に設備投資などで資本が減少していき、ある段階まで来た時点で企業価値が高まり、上昇のカーブを描く)というのがよく言われますが、我々が投資した時点でDMPは底辺より前の段階でした。そこで投資するのは、まだもう1段下がるわけですから、VCとしてもやはり怖い。投資後に、追加投資が必要になる可能性も十分ある訳で、それを支えられるだけの懐の規模も必要です。それを含めて長期的な視野で判断して投資をしています。
--VCとして、投資を決める上でポイントとなったのは何なのでしょうか。
井出:プロダクトマーケティングの顧客視点ですね。“ある技術をどういう製品に展開していくか”をもっとも重視しています。技術者といえども、あるニーズに対してどのような技術を持っていけばどんなことが実現できるのかという公式をいつも必ず頭に持っておかないと、優れた技術も自己満足的な間違った方向に行ってしまう可能性があります。したがって、投資の前にはそれを完全に明示化して、多角的にリサーチした上で、マトリクス上でロジカルに選んでいくというのが重要なステップだと思っています。当然間違えることはあるのでPDCA(Plan-Do-Check-Action)を回していくのですが。
--一般論としては、ベンチャーに投資する上で求める必須の基準というのはあるのでしょうか?
井出:日本は人材流動性が低いので会社の経営層を投資後に探す、という条件ですとハードルが非常に高くなります。やはり優れた経営陣が投資前にそろっているというのが重要なポイントです。シリコンバレーは経験のあるCEO、CFOなどの流動性があるので技術視点の投資もありなのかも知れませんが、まずは人材ありき。優れた技術力があるからと言って投資をしようということにはなりません。
--逆にベンチャー側から見たVCのあり方や付き合い方について、山本さんはどのように考えていますか。
山本:通常、日本のベンチャー投資というのは大体1ラウンドで2〜3億円程度です。それである指標を達成した段階で追加投資を行うというのを毎年のようにやりますが、それでは経営者はまったく事業にフォーカスできなくなります。我々の場合はそこを理解していただきました。最初に13億円を投資いただいた結果、3年間まったく資金調達に注力する必要がなかったというのは非常に恵まれたことです。
また、私が考えるVCのメリットというのは、横断的にいろいろなベンチャー企業を見たり、業界を超えていろんな会社と関わっていけたりする点にあります。我々はあるところにとどまっているので非常に限られたものしか見えないところがあります。しかし、ほかの業界のプレーヤーや同じ業界でも違うレイヤーのプレーヤーとのつながりを持っており、その組み合わせを考えられるのがVCだと思います。
たとえば、株式公開に対するプロセスというのはちゃんとしたルールがあるので、テクニカルにできるものです。しかし、誰でもできるテクニカルな部分ではなく、人と人、企業と企業をつなぐ“ネットワーキング”という部分で、支援いただけるとありがたいですね。つながりのあるベンチャー同士を組み合わせて1たす1が2でなく5になる可能性もあるはずです。
2007年グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。同社にて半導体や通信などのコア・テクノロジーセクターを中心に投資を行う。担当先企業としてディジタルメディアプロフェッショナル(DMP)、a2network、米Zettacore、アイディなどがある。米KLA-Tencor Corporationでの半導体製造装置エンジニア、米McKenna Groupの経営戦略コンサルタント業務の後、2002年からは東京でベンチャー企業の海外事業推進ディレクターなどに従事。バージニア大学工学部卒、スタンフォード大学経営工学修士修了。
1981年日本IBM(藤沢研究所)入社。PC開発部長としてDOS/V PC等を企画・開発。その後米国IBM(オースチン)でPowerPCシステム開発ディレクターとしてPowerPCベースのワークステーション開発を手掛け、初代Apple Power MAC共同開発ではIBM側プロジェクトリーダーを務める。その後シリコンバレーでセガ米国法人副社長としてゲーム機開発を担当。日立製作所半導体事業部米国副社長、ルネサス・テクノロジー米国バイスプレジネントを経て、2004年から現職。
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