この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
最近、シンガポールでアジアのスタートアップシーンを沸き立たせる出来事が起こった。シンガポールを拠点とするチャット・サポートソフトウェア企業のZopim Technologies(Zopim)が、米国を拠点とするカスタマーサービスソフトウェアプロバイダのZendeskに買収されたのである。
Zopimはこれまでも、アジア発のスタートアップ企業の成功例として語られてきた。2008年に設立され、2010年にリアルタイムチャットツール「Zopim」のベータ版を公開。製品は現在世界150カ国以上で利用されており(日本語にも対応)、創業から6年で欧米企業による企業買収という形でイグジットを果たした。
Zopimはシンガポール国立大学出身の4人のメンバーによって設立された。この4人は、以前連載でも紹介したシンガポール国立大学(NUS)が運営するインキュベーション事業NUS Enterpriseのフラグシッププログラム「NUS Overseas Colleges Programme」を通じて知り合ったという。
今回の買収により、Zopimの株主たちは3000万ドルもの大金を得ると言われている。さらに将来的にはIPOにより1億5000万ドルの資金調達を目指すという。国をあげての起業家育成の取り組みが奏功し、アジアのスタートアップ企業に対する欧米からの注目を惹きつけるきっかけを作ったといえるだろう。
Zopimは企業のウェブサイトに埋め込めるリアルタイムチャットツールである。たとえば、ECサイトで商品を購入したいとする。その過程で顧客に疑問が生じたとき、従来ならばメーカーにメールや電話で問い合わせることが多かっただろう。しかし、返信や応答までの待ちの状態にストレスを感じ、途中で購入を断念したことがある人も少なくないと思う。
ECサイトがZopimを導入していれば、顧客はサイトに表示されたチャット画面で質問ができる。顧客からのメッセージは担当者のPCやモバイル端末向けに通知され、その場で対応できる。即座にやりとりできるため、メールや電話では察知できなかった顧客の希望を引き出すこともできるかもしれない。
ほかにも便利な機能がある。たとえば、サイトを訪れている顧客が滞在しているウェブページや、利用しているブラウザ、国など、顧客の行動や状態に関する情報を担当者が把握できる。これによって、顧客にとっては面倒な前提条件に関わるやりとりがショートカットされるだろう。さらに、チャットの内容をメールに転送したり、Google翻訳と連携して言語の異なる外国人とコミュニケーションを図ることも可能だ。
料金プランには無料版と有料版がある。無料版は、利用できる担当者は1人まで、同時に使えるチャットは1つのみ、過去の履歴は14日間のみ記録するなど、主に個人が運営するサイト向けの仕様となっている。有料版にはベーシック(月額11.2ドル)とアドバンス(20ドル)があり、複数の部署にチャットを割り当てたり、分析レポートを閲覧したりできる。
今回の買収により、ZopimはZendeskの子会社となるが、Zopimチームは存続し、サービスは継続される。両社の顧客は両サービスを同時に利用できるようになる予定だ。
買収したZendeskの創業者 兼 CEOであるミッケル・スヴェーン氏は、「リアルタイムのチャットは、オンラインでのやりとりを望む顧客にとって、今日の基盤となった。顧客にとってより便利になり、企業にとっても顧客とより接しやすいものになっている。Zopimはプロアクティブな顧客エクスペリエンスを実現するためのツールを提供しており、そこでの高い実績を持っている。何より重要なのは、Zopimチームが、シンプルで美しく、どの企業が使うのにも簡単な製品を作る、という私たちと同じ信念を共有している点だ」とコメント。
一方、ZopimのCEO 兼 共同創業者であるロイストン・テイ氏は、「私たちは、ビジネスと顧客との関わり方を変えるというビジョンを持ってZopimをスタートした。Zendeskの企業文化と、優れた顧客エクスペリエンスを構築することへのフォーカスは、私たちのフィロソフィーとぴったりだ。私たちは力を合わせることで、世界中のより多くのビジネスにおける顧客エクスペリエンスを改善していけると信じている」と述べている。
Zopimへの需要は世界中に存在し、今後ますます大きくなっていくだろう。一方のZendeskにとっては、EC市場が急成長するアジアに拠点を置くZopimを買収したことが、今後のアジア展開の足がかりとなるかもしれない。
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