「RIO+20」が6月20日~22日の3日間にわたり開催された。
RIO+20は、10年に1度開かれる国連の環境・サステイナブル分野の会議だ。名称は日本語に訳せば「持続可能な開発のための国連会議」となろう。1992年にリオデジャネイロで開催された同趣旨の会議から20年目にあたるため、「リオ・プラス・ツェンティー」と呼ばれている。
東京から、ニューヨーク~アトランタと乗り継いだが、リオまでは遠かった。筆者・福井エドワードは、ビジネスコンサルタントや金融機関で働いた経験が長いため、公的部門が中心になって政策について話し合われる大規模な国際会議に参加するのは初めての経験である。
国連機構は、官僚的対応を絵に描いたような組織で、参加登録するだけでも、会議場の受付デスクは、長蛇の列だ。その列に一緒に並んだ、ザンビア、セネガル、インドから来たという、3人のジャーナリストと話し込んだ。
彼らは、テレビや新聞といったメディアで働いているが、それだけでは生活できないので、ITや金融といった業種でも働いているのだそうだ。サステイナビリティーや人権について、国連などの取材を通じてネットワークができていて、「人権とサステイナビリティーをウォッチするジャーナリストグループ」を10人ほどで結成して、助け合って活動しているという。
ここでは、ザンビアのメディアで働きながら、ニューヨークでも働いている記者の話を紹介したい(あくまでも伝聞の雑談であるが、会場で受けた印象を伝えるために、そのまま記述する)。
「ザンビアでは鉱山資源があって、主要な働き口になっている。ところが、中国資本が進出してきて、ザンビア人の職を奪うか、あるいは安値でザンビア人を酷使するため、民衆の不満が高まっている。昨年、大統領選挙が行われ、中国資本への批判を鮮明にした候補が支持を集めて当選した」そうだ。ところが、「実は、新しい大統領は裏で中国資本と結託しており、中国資本はますます増長している。民衆は失望と怒りの状況」だというのだ。
今回のサミットの主要なテーマは、「グリーンエコノミー」であるが、欧米・日本や新興国の動向をウォッチするだけでは、到底知りえない、多様な文脈が世界には厳然と存在している。グリーンエコノミーは、人権や貧困の問題を抜きには語ることができず、「CO2を削減しよう!」「エネルギー多消費型のライフスタイルを見直そう!」といったスローガンは、経済開発のトピックを論じるコンテクストでは、的外れである。
多様な主体が集まる国際会議の場で、直接体験した印象は、本やテレビで見たり知ったりすることとは、全然違うということ。会期中を通して、筆者の頭の中で繰り返し考える前提となった。この会議のスローガン”Future We Want”は、誰の立場の願望なのか。会議に参加する一人ひとり、あるいはグループごとに、まったく違った内容を想起するスローガンであろう。
国を主体に政治リーダーが集まって演説大会となる3日間の本会議。その直前の事務レベル折衝(1週間程度)の期間中、リオの町を挙げて、さまざまな「サイドイベント」が開催される。国連スタッフに聞くと、サイドイベントの数は1万を超えており、「誰もその全体像を把握していない」そうだ。
代表的で、おそらく最も大規模なイベントは、「People’s サミット」だ。こちらは、ダウンタウンの近くのフラメンゴ・パーク(海沿いの市民公園)で2週間にわたって開催され、NGOを中心に、教育・文化も含む多様なブース、イベントが多数開催されていた。政治をテーマにしたNGOは、時には、本会議での議論を鋭く批判・反対するものも含まれている。
一方、近郊のビーチ沿いの高級ホテルで6月15日~18日の4日間、開催されたイベントが、「Corporate Sustainability Forum」である。
1つの試算では、2011年の全世界の金融資産の総額は212兆ドル(約2京円)、株式の時価総額は42兆ドル(約4000兆円)だそうだ。そのうち、“Future We Want”に関連した、投資額の数字をひろってみると、2009年の「自然エネルギー分野」への投資が1620億ドル(約15兆円)、2020年の同分野への投資が2兆3000億ドル(約200兆円)、2009年の「発展途上国での農業分野」への投資が830億ドル(約6.5兆円)などととなる。
これらの数字の見方は一概には言えないが、このような国際会の場での議論が反映される、各国の政策の動向によって、大きな変動があることが見て取れる。あるビジネスにとっては、ビジネスチャンスととらえられ、また別のビジネスにとっては、事業基盤が構造的に消失してしまうリスクともなろう。
ただし、政策担当者の間でのコンセンサスとなっているのは、サステイナビリティに向けて、実際に政策目的を実行し、あるいは解決策を与えるイノベーションをもたらすのは企業セクターである点だ。
パブリック・プライベート・パートナーシップを、政府部門の仕事のアウトソースとしてみる限定的な見方は、単純な間違いであり、著しく時代遅れな認識だ。むしろ、持続可能な経済社会のために、さまざまな社会の課題を解決するための、主要なツール・枠組みとして実績が出てきている。
ところが、多くの国における政治の腐敗や企業の収奪といった伝統的な問題は、いまなお、過去のものどころか、大方の現実でもある。パブリック・プライベート・パートナーシップがうまく機能する環境が整っているケースは、全体の1割にも満たないのではないかとの見方が多かった。公務員とビジネスマンが共通の言語で、プロジェクトを推進する光景には、筆者自身、滅多に遭遇しない。
今回のサミットでは、エネルギー分野や生物多様性の課題は、20年間に一定の成果をあげていることが確認され、さらに食料や水、都市や交通、森林や海といった分野への関心を呼びかける提案が、企業部門からも多くなされた。とくに、都市や農村の課題を「スマート化」、すなわちICTで解決していくコンセプトが、徐々に輪郭を形成している機会となった。
10年後のサミットでは、現状では1割程度といわれる、企業部門からのPPP(Public Private Partnership)への参加が、どの程度増えるのであろうか。これから、3年ほどの間に、国連グローバルコンパクトの場などで、政策部門に対するビジネスのインプットが形成されることになるだろう。
日本企業がこういったインプット形成の場に参加する機会は、非常に限定的であり、筆者としては、日本企業への情報発信を少しでも行っていきたいと感じている。
※このレポートは4回に分けて、不定期に発信する予定です。
【参考】福井エドワード
ルビーインベストメント株式会社
1968年、ブラジル・サンパウロ生まれ。幼少を米国シアトルで過ごす。1992年、東京大学法学部卒業、建設省(当時)入省。1997年、イェール大学スクール・オブ・マネジメント卒MBA。アクセルパートナーズ(サンフランシスコ)、みずほ証券投資銀行グループを経て、2004年からプライベートエクイティ投資コンサルティング会社ルビーインベストメントリサーチ。現在、同社が設立した研究所「クリーングリーンリサーチジャパン」のマネジングディレクターを務める。著書「スマートグリッド入門」
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