最先端の放送関連技術を展示するNHK放送技術研究所「技研公開2010」が5月27〜30日に東京世田谷区砧で開催する。今回のテーマは「技研80年 さらなる未来へ」。走査線4000本級の超高精細映像「スーパーハイビジョン」をはじめ、近未来の放送サービスの数々を体感できる。
昨年に続いて今年も最大の見所は「スーパーハイビジョン(SHV)シアター」。450インチの大型スクリーンで体感できる超高精細映像は、近年ブームを巻き起こしている立体(3D)と見間違うほどの圧倒的な臨場感を誇る。今回はパブリックビューイング的な活用を意識して、スポーツやステージ関連コンテンツを用意しており、特に選手と同じ目線で撮影された「フィギュアスケートNHK杯」や、「NHK紅白歌合戦」の映像は、通常のテレビ中継とはまったく異なる迫力を体感できるだろう。
一方、裸眼で立体映像を楽しめる「インテグラル立体」は「20年先の研究」(NHK放送技術研究所所長の久保田啓一氏)というだけあって少々、一般的な満足度を得にくい展示。SHV技術を応用して前回の展示より解像度を高めているが、現状普及している、メガネを使った立体テレビに慣れた人には物足りなく感じる部分があるかもしれない。あくまで将来の放送サービスとしてとらえてほしい内容だ。
1階エントランスで大々的に展示しているのが「放送通信連携サービス」関連の技術。本来、外国語字幕のない番組に通信経由で字幕を付加する「拡張コンテンツサービス」、インターネット上の各種ソーシャルネットワークサービスと連携する「ソーシャルテレビサービス」など、通信サービスによって放送番組の楽しみ方を拡げる内容がメインで、こちらは1〜2年程度での実現を目指す研究となっている。
ソーシャルテレビに関しては、視聴者が入力した番組関連コメントを解析する研究(コメント解析技術)が2009年の公開でも展示されており、今回は携帯端末からも参加できる「モバイル共感サービス」が追加されるなど進化を遂げた。いわば“NHK公式ニコニコ動画”のようなサービスだが、視聴者にとっては単純な参加の楽しみに加え、ほかの視聴者との共感を高められるほか、放送局側にとっては「どのシーン」「どの人物に対する」「どのような意味」のコメントかを解析して番組制作に反映することも想定しており、期待の高い技術となっている。
放送と通信が連携することによって生まれる2つの大きな課題「個人認証」と「著作権保護」についても、対応技術を展示している。「コンテンツ配信用セキュリティ技術」は、ユーザーとサービスプロバイダの間にNHKが入り、個人情報や視聴履歴などの情報をNHKまでで留め、サービスプロバイダに対して匿名で視聴権利を取得できるというもの。 NHKオンデマンドをプロバイダ経由で利用する際など、プロバイダは会員であるか否かのみを確認するだけ(グループ署名方式)で、そのほか一切の情報を渡さないでいいという仕組みだ。
著作権保護関連では、コンテンツに目に見えない情報を埋め込む「電子透かし」がさらに進化。録画された放送番組ではなく、もともとインターネット上に展開される動画(NHKオンデマンドなど)にも電子透かしを埋め込めるようにしたことで保護の範囲を広げ、また従来より検出作業を高速化したことで不正アップロードに対する削除対応(アップロード時点で電子透かしを検出して削除するなど)が強化された。
機器・デバイス関連では、やはり「スーパーハイビジョン・フル解像度カメラシステム」が目をひく内容だった。信号処理機能の追加による高画質化、伝送装置の小型化によるカメラヘッド一体化の3板式カラーカメラを試作しているが、前述のSHVシアターで公開している映像を撮影する際にも用いられている。
スーパーハイビジョン用22.2チャンネル音響の家庭導入を目指して研究されている小型・軽量スピーカーとしては、高分子膜を用いたまったく新しいタイプのものを考案。柔軟で軽量の膜状スピーカーで設置場所を選ばず、また技術的にも再生周波数帯域の拡大に成功したことで実用化へ向けて一歩前進している。
超薄型で軽量、クルクルと丸めることも可能な「フレキシブル有機ELディスプレイ」(有機TFT駆動)は、ディスプレイの高精細化や動作信頼性に一定の進歩は見られるものの、依然として携帯端末サイズの研究となっており、「テレビを置く内外問わず大画面で」というコンセプトには遠い。「2020年のスーパーハイビジョン実験放送開始」(久保田氏)が大画面化実現への目安のひとつと考えられるが現状、一般レベルで将来像を理解するのは難しいレベルにあるのも事実だろう。
3Dの大流行、それに伴う3D対応テレビの登場など、数年前には予想しなかった方向性が生まれつつある映像コンテンツ業界。そうした中で放送、とりわけNHKの研究テーマから新たな将来像が生まれる可能性もある。放送技術に興味のある方もそうでない方も一定の楽しみが得られる技研公開で、さまざまな可能性に触れてみてはいかがだろうか。
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