10月21日、私的録画補償金管理協会(SARVH)は東芝に対し、デジタル放送専用録画機の補償金を支払っていないとして訴訟を起こす考えを明らかにした。これを受け、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)と主婦連合会(主婦連)は29日、千代田区の主婦会館プラザエフで記者懇談会を開催。9月8日付けで出された、アナログチューナーを搭載していないDVD録画機を補償金制度の対象機器とした文化庁長官官房著作権課長名の判断に対して強い反発の意を示した。
この件に関しては主婦連が7日、MIAUが9日にそれぞれ意見や要望をまとめた書面を公表しており、前出の文化庁の回答の撤回や新たな議論の場の設置を求めている。
アナログチューナー非搭載の録画機器については、5月22日付けで文化庁が発表した「著作権法施行令等の一部改正について(通知)」において「今後、関係者の意見の相違が顕在化する場合には、その取り扱いについて検討し、政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずる」と記載されている。にもかかわらず今回、文化庁が何の審議も経ずに東芝の支払い義務を認めたことに対し、MIAU代表理事の津田大介氏は「解釈の悪用であり、文化庁の先走り」と非難した。また、訴訟の当事者となっている東芝については「支払うべきものを支払っていないのではなく、論理的整合性のないコストを消費者に負担させるべきではないという判断」と説明した。
訴訟の結果については「どちらが勝ってもおかしくはない」とした上で「補償金制度はメーカーの協力があってかろうじて成り立っていたものであり、機能不全を起こしかねない」(津田氏)と予測。また、「ここまできたら裁判で白黒つけてほしい、という思いがある一方で、(私的録音録画小委員会などにおける)これまで話し合いはなんだったのか、との思いが残る」と複雑な心境を口にした。
今回表明されたMIAUと主婦連の主張は、調整を約束しておきながら一方的な判断を下した文化庁への不信感と、デジタル放送のコピー回数を制限する「ダビング10」というコンテンツ保護技術を用いながら、さらに補償金を求める著作権利者側への反発の2点に集約される。特に後者は権利者側の主張と大きく食い違ううえ、権利者の利益にも直結する内容だけに根が深い問題だ。
主婦連の意見・要望書では「地上波のテレビ放送に世界で唯一複製制限が施されることで自由を制限され、それを実現する複雑な仕様のためにコスト負担をさせられ、その上私的録画補償金も課されるということは消費者の権利侵害」との文面がある。主婦連事務局次長の河村真紀子氏は、現行のB-CASによるコピー制御について「全く別の問題であり、納得して認めているわけではない」とした。津田氏も「B-CASが廃止されれば補償金を認めるという考えはある」と話す。
一方、権利者側の中には「B-CASによるコピー制御は放送事業者が独自に開始したものであり、こちらが望んで導入したものではない」との声が根強い。MIAU代表理事の小寺信良氏は「B-CAS廃止はメーカー、消費者、権利者が一致団結できる数少ない考え方では」と指摘するが、放送事業者はこれまで、この件について大きなリアクションを取っていない。
今回の文化庁判断や訴訟提起を受けて、メーカーサイドの足並みが乱れる可能性はある。会に同席した社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)常務理事の長谷川英一氏は「JEITAとしての方向性は固まっている」としたが、メーカー個々の判断に強制力はなく、場合によっては自主的に支払いに転ずるメーカーが現れるのではないかと記者団から問われると、可能性を否定しなかった。
現在アナログチューナー非搭載の録画機器を販売しているのは東芝とパナソニックだけであり、パナソニックは補償金の支払期限を迎えていない(2010年3月まで。東芝は2009年9月末)ため、今回の訴訟対象にはならなかった。現時点においては両社とも流通済み機器について補償金額を上乗せしていないものとみられる。
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