新たな“情報の生命線”始動へ--日米をつなぐ光海底ケーブル「FASTER」が陸揚げ

 YouTubeの動画もストアのアプリも、海底ケーブルを伝ってやってくる──。KDDIは6月15日、2016年4月に運用開始を予定している日米をつなぐ光海底ケーブル「FASTER」の陸揚げを記念し、KDDI南志摩海底線中継所付近の海岸で記念セレモニーを開催した。

 KDDIの南志摩海底線中継所は、FASTERと同様に日米を結ぶ光ケーブル「Japan-US」(2001年運用開始)の陸揚げのためにつくられた局だという。南志摩局では、2001年の「C2C」以来14年ぶりの陸揚げとなる。

ケーブルの陸揚げを記念してセレモニーが行われた
ケーブルの陸揚げを記念してセレモニーが行われた
シャンパンがけも行われた。陸揚げの際には、世界的に行われているという
シャンパンがけも行われた。陸揚げの際には、世界的に行われているという

増え続けるトラフィックへの対策--メード・イン・ジャパンの光海底ケーブル

海からの引き込み作業風景
海からの引き込み作業風景
日米間の通信量は今後5年間で約4倍の増加を見込む
日米間の通信量は今後5年間で約4倍の増加を見込む

 FASTERは、日米間を直接結ぶ総延長約9000kmの光海底ケーブルだ。米国西海岸と日本の千葉県千倉および三重県志摩の2か所を結ぶ。回線容量は60Tbps。60Tbpsといってもあまり想像がつかないかもしれないが、1秒にDVD最大1500枚のデータを送信できる能力を持つ。高精細映像(15Mbps)を約400万人が同時にストリーミング視聴することができる速度という。

 海外とのデータ通信は、99%が海底ケーブルを経由しているといわれる。バックアップとして衛星通信もあるが、インターネットを使う上で光海底ケーブルは、今や欠かせない社会インフラとなっている。

 KDDIは、昨今の動画コンテンツのリッチ化やIoTの普及などにより、日米間の通信は今後5年間で約4倍になると予測する。KDDI 理事 グローバル技術・運用本部長の梧谷重人氏は、FASTERの背景について、「この伸びになると今運用している光ケーブルでは容量が足りない。新たなケーブルをつくろうと2年前からスタートした」と説明した。

 今回、南志摩に陸揚げされたFASTERは、海岸の目の前にあるKDDIの南志摩海底中継所に引き込む作業が行われる。続いて7月にも千葉県の千倉でも陸揚げされ、千倉第二海底線中継所に引き込み作業が行われる予定だ。それぞれ回線設定、接続試験や確認作業を行った後、2016年4月をめどに運用を開始する見通し。

左手の白い建物が南志摩海底線中継所。陸揚げされたケーブルは、掘った砂の中を通って中継所に引き込む
左手の白い建物が南志摩海底線中継所。陸揚げされたケーブルは、掘った砂の中を通って中継所に引き込む
KDDI 理事 グローバル技術・運用本部長の梧谷重人氏と志摩市長の大口秀和氏
KDDI 理事 グローバル技術・運用本部長の梧谷重人氏と志摩市長の大口秀和氏

 志摩市長の大口秀和氏は、「伊勢志摩サミットが2016年5月末か6月に開催される。いま経済など世界中のあらゆるところで通信が必要になっている。その通信の要となるものが志摩にあるのは嬉しいこと。われわれも環境について協力したい」とコメントした。

 また梧谷氏も「サミット前までには完全に試験を終え、皆様にサービスを運べる状態にする予定」と話す。なお、KDDIによればFASTERは2016年に予定される伊勢志摩サミットに合わせて敷設するものではなく偶然だったという。

海底ケーブルの今と昔--1ケーブルあたりの伝送容量は約3000倍に

新たな光海底ケーブル「FASTER」
新たな光海底ケーブル「FASTER」
光海底ケーブルの敷設には二隻のケーブルシップを活用
光海底ケーブルの敷設には二隻のケーブルシップを活用

 今回のFASTERは、KDDIほかChina Mobile International、China Telecom Global、Google、シンガポールのSingTel、マレーシアのGlobal Transitの6社がコンソーシアムとして共同建設協定を締結。総建設費として約3億米ドル(約370億円)かけて共同建設されている。

 すでに現在は運用を停止しているが、大容量通信に対応した初の光海底ケーブル「TPC-5」は1995年にスタートした。その当時の伝送容量は20Gbpsで、建設費用は約1350億円かかったという。21年たった今、1ケーブルあたりの伝送容量は約3000倍に拡大。費用は約4分の1にまで削減されている。

 ケーブルやシステムの供給は通常、複数のサプライヤーが選定されるが、今回はコスト削減や技術の安定性などの理由から一気通巻で行う方針により日本電気(NEC)が1社単独で行った。技術もケーブルの積み込みなども日本で行われており、「NECによるメード・イン・ジャパンの光海底ケーブル」(梧谷氏)という。

光海底ケーブルシステムのイメージ
光海底ケーブルシステムのイメージ

 NEC 海洋システム事業部長の吉田直樹氏は、「光海底ケーブルの技術を持つ会社は、世界で3社ある。米国に1社、欧州に1社とNEC。ほとんど同じレベルで供給能力があるが、生産場所(北九州)から直接船に運んでそのまま敷設していく場合において、物理的にお客様の近くにいるのは重要なこと。また、今回の伝送技術は現在ほかの会社も持っているが、契約当時において、わわわれが最先端をいっていたと認識している。それと地理的な有利なポジションを利用した。かつ細いケーブルによって安価なシステムを作ったことが評価された」と説明した。

 FASTERは、6月1日に北九州にあるOCC北九州工場でケーブルの積み込み作業が行われ、6月2日に中継器の積み込みが行われた。「ケーブル積み込み作業は、実は人が行っている。巻く作業はデリケートなもので、ねじれを避けるために機械ではやらない。実際に人が約1万キロ歩いている。中継器も精度の高い機械なので、ちょっとの振動も与えられない。慎重に慎重に積み込む。設計寿命は25年で、25年海の中で壊れないというすごい技術」(梧谷氏)

災害にも強いネットワークづくり--日本は日米をつなぐのに適したポジション

FASTERの特長
FASTERの特長

 今回のFASTERの特長は、(1)大容量、(2)2箇所の冗長構成による災害に強い構成、(3)低遅延──の3つだ。

 梧谷氏は、FASTERの名前の由来について「NECとの協力によって相当早い期間で実現したこと、早いスピードの2つの意味がある」と説明した。

 また、構成について「この志摩と千倉第二の2つの局がKDDIにとって最も重要な拠点。志摩局は主に大阪に向かって線をつなぎ、千倉は東京に向かって線をつないでいる。さらに陸上で東京と大阪を結んでいるため、もし関東大震災が起こっても、関西地区と北海道・東北の国際通信は、志摩局が担える」と説明した。

日米間をつなぐ光海底ケーブル「Unity」
日米間をつなぐ光海底ケーブル「Unity」

 現在、日米間においては、20Tbpsの通信容量を持つ「Unity」(2011年運用開始)が最も通信容量のある光海底ケーブルだという。米国においては、Unityがカルフォルニア州に敷設されており、今回のFASTERはオレゴン州に陸揚げされる。米国でなにか災害が起こっても、両方が大きなダメージを受けることはないと見る。

 日本は、米国との海底ケーブルの敷設に適した位置にあるという。「オレゴン州と日本は最短距離で結べる。およそ9000km~1万kmの間。平面の地図だとわかりにくいかもしれないが、地球は丸い。球状で見ると、アジアから米国へつなぐ場合に日本はいい位置にいる。そのため多くのケーブルが日本を経由して作られている」(梧谷氏)

日本とアジアをつなぐ光海底ケーブル「SJC」
日本とアジアをつなぐ光海底ケーブル「SJC」

 日本をハブとして、シンガポールなど東南アジアのデータセンターと米国西海岸のデータセンターとの間を最短ルートで接続する「South-East Asia Japan Cable(SJC)と組み合わせ、米国とアジアを最短ルートで接続していく。

 このほかにも新潟県の直江津にも海底中継所があり、日本とロシアを結ぶ光海底ケーブル「RJCN」を経由してロンドンと繋がっているという。「(米国とのネットワークが)全部ダメになってもロシア経由があり、ロンドンにいけば大西洋とつながっている」と説明する。

 「弊社は東京と大阪に2つの大きな監視体制をもっている。問題があったときのために、海のケーブルに加え、山口県には山口衛星通信センターがあり、衛星でもバックアップできる。そこまでの事態になることはほとんど考えられないが、万全の体制でインターネットを支えて行きたい」(梧谷氏)と語った。

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