映画やアニメーションなどの作品をファンド化し、投資家に販売するビジネスが広がりをみせている。作品がヒットすれば、投資家も収益の拡大が見込めるほか、実力はあっても資金力のない作家や製作会社を支援することでコンテンツ産業の底上げにもつながると期待されている。ただ、知的財産を扱う難しさもあり、流通市場の整備が課題といえる。(柿内公輔)
≪みずほ100作品投資≫
小学校卒業と同時に離ればなれになった男女が、淡い恋心を胸に再会を果たす−。2007年春に東京・渋谷で単館上映されたアニメ映画「秒速5センチメートル」(新海誠監督)。口コミで人気が広がり、上映は一時30館を超え、海外の映画賞まで獲得した。
みずほ銀行ニュービジネスチームの兒玉三香子氏も作品にほれ込んだ一人。「こうした良質なアニメや作家を銀行として応援できないだろうか」と思った。一般の企業相手の取引と違って担保も見込めず、融資の手法はなじまない。そこで考えたのが、アニメ作品をファンドに加工して投資する方法だった。
みずほのアニメ(映画)ファンドの仕組みはこうだ。まず製作会社などが作品から得る収益(主にDVDなどの2次収益)を信託化。その受益権を証券化し、みずほに譲渡する。みずほは投資家の立場にあたる。
すでに投資した作品は100タイトルを超え、累計投資額は50億円近くに上る。兒玉氏は「もちろんビジネスとして採算面を重視して作品を厳選しているが、才能のあるクリエーターを育てる気持ちが強い」と話す。
最近の映画・アニメ産業は、大手の映画会社や広告代理店で構成する団体が著作権やビジネスを管理していることが多い。このため、作家や製作会社は弱い立場で資金力も乏しいケースが多いからだ。
≪規制緩和が追い風≫
規制緩和もコンテンツ業界には追い風だ。04年の信託業法改正で金融機関以外の一般企業にも信託業への参入が認められ、著作権などの知的財産も信託できるようになった。さらに昨年9月の金融商品取引法の全面施行に伴い、信託受益権が有価証券として扱えるようになった。
ジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)は、映画やゲームの著作権を信託化し、作品の収益を受け取る受益権を証券会社などを通じて一般投資家に販売している。
「当たりはずれ」が大きいとされる映画業界だが、1本のファンドで複数の作品を投資対象とすることで、リスク分散を図った。JDC信託の土井宏文社長は「最初は手探りだったが、投資家や映画会社の問い合わせも増えた」と手応えを感じている。
≪知財扱う難しさも≫
だが、同社にとって懸念材料もある。米国のサブプライム(高金利型)住宅ローン問題に伴う株式市場の低迷で、証券会社が打撃を受けており、「海外の投資家への売り込みや、自前での販売も検討しないといけない」(土井社長)という。
ファンドのすそ野を広げるには、多くの投資家が参加できる受益権の流通市場の整備だけでなく、税制面での優遇など政府も巻き込んだ環境づくりが欠かせない。コンテンツなどの知財は「金銭価値や収益性の算定が難しい」(知財権に詳しい弁護士)とも指摘されており、ビジネスの一層の拡大には課題も多い。
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