著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム主催「第3回公開トーク『コミケ、2ちゃんねる、はてなセリフと作家と著作権』」が6月15日、慶応義塾大学三田キャンパスで開催され、様々な立場のパネリストが著作権問題の現状と課題について報告、議論した。今回、主なテーマとなったのは「総表現時代における著作権とは何か」。コミケと呼ばれる同人誌販売会や動画共有サイトの「YouTube」、動画上に視聴者がコメントを付けられる「ニコニコ動画」、漫画の吹き出しなどに自由に文字を入れられる「はてなセリフ」など、他人の著作物を活用したクリエイティブ活動が広がりつつある現状を踏まえ、改めて著作権のあり方を問う内容となった。
イベント前半戦で大きなテーマとなったのは「コミケなどにおける二次創作活動とクリエイター育成の関係性」。コーディネーターを務めた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究員の鈴木謙介氏が投げかけた「(他人の著作物を利用した)クリエイティブ活動は専業クリエイターの成長、育成を阻害しているのでは」という議題に対し、マンガ評論家でコミケの現状に詳しい伊藤剛氏は「同じ作品、キャラクターをモチーフにしても、(コミケの)作家それぞれに個性がある。だから人気作家も生まれる」とし、必ずしも二次創作活動がクリエイターの育成を阻害していないとの見解を示した。
法律学の立場から持論を展開したのは、法政大学社会学部准教授の白田秀彰氏。「(プロになるかどうかは)確率の問題であり、土壌として予備軍が増加することに問題があるはずがない」とした。その上で「早い段階で二次創作から脱却させ、オリジナル作品の制作に踏み出させる必要がある」とし、そのためにも同人誌活動を法律的にも守る仕組みを構築するべきと説いた。ビデオジャーナリストの神田敏晶氏も「人気作品の“API”を公開しては」とし、二次創作活動の更なる活発化をうながした。
唯一の「権利者側」として矢面に立たされる形となった小学館キャラクター事業センター長の久保雅一氏は「あくまで作家個々の考えが尊重されるべき」との立場を堅持。「(パロディ作品を)プロモーションに利用できると考える作家も増えてはいるが、一方で悪意に満ちたパロディ作品が存在するのも事実。結果として作家の創作活動に悪影響を及ぼすことも多い」とコミケ容認に否定的な見解を示した。
テレビの放送コンテンツ無断掲載が問題として指摘されるYouTubeについて、「心底ほれ込んでいる」という神田氏は「侵害動画をアップロードしているユーザー自体は一銭も儲かっていない。古いVHSテープから映像を起こすことを考えれば大変な手間をかけている」と権利侵害をベースとした放送局などの姿勢を疑問視。「それでも『自身が所有する映像(過去のテレビ番組など)を伝えたい』という欲求を持ち、結果的に他のユーザーへ感動を与えることもある」と参画型メディアとしてのYouTubeの意義を高く評価し、放送局に対しては「パッケージビジネスなどとは異なるビジネスチャンスが訪れている、ととらえてほしい」と提案した。
漫画作品同様、テレビコンテンツにも多くの著作物を持つ小学館の久保氏は「実際にパッケージ作品の売り上げが落ちることもある」と反論。一方で「うまくビジネス展開したいと考える権利者は多い」とし、法律や制度ではなく技術的なフィルターによってYouTubeを活用したビジネスが成立するとの発展的見通しを示した。
法律的見地から現状を捉え、「著作権法第一条にある『文化発展に寄与』を実践するための著作権を構築していくべき」との持論から著作権のあり方について疑問を投げかけた法政大学准教授の白田氏は、全体を通じて各パネリストと激論を交わすなどトークセッションを盛り上げた。コミケの二次創作の現状について「(法律的に微妙な位置となる)グレーゾーンで展開されている」という漫画評論家、伊藤氏の報告について「どこまで踏み込めばアウトであるのかがはっきりしないと、まともな表現、言論の自由も規制される恐れがある」と批判。「最初からアウトを承知で創作する確信犯ではなく、まともな創作活動を心がけるクリエイターにこそ悪影響を及ぼす」とした。
「(権利者である)作家個々の意思が反映されるべき」という小学館の久保氏の意見に対しては「実際には作家個々の意思を一般クリエイターが知る術などない」と反論。「作家本人は許諾を出す意思があるかもしれないが、出版社がガードしていて直接コンタクトを取ることはできない。出版社や著作権制度が守る範囲は『強く、狭く』でいい。個人取引が認められる状況があれば全体を一括して取り締まる意義が薄れ、はじめて現状のような『グレーゾーン』で取引があっても構わなくなる」と指摘した。
イベント内で中心話題のひとつとなったYouTubeについては「他人の著作物をそのままアップロードしているだけで、何らクリエイティブ活動とは認められない」とバッサリ。「本来は(パッケージ商品の購入など)お金を出して楽しむべきコンテンツを無料で視聴するなどという下品なことはやめるべき。単なるコピーだけでは何の発展性もない」と日本でのYouTube需要そのものを切り捨てた。
「著作権は自然権ではなく、本来は言論、表現の自由が上回るべき。かつては家庭外の商取引にのみ適用されてきたが、状況の変化に応じてその領域は年々広がりつつある。権利者側がビジネスのために著作権の重要性を指摘するのであれば、もはやコピー作品の単純所持をも認めないほどの、覚醒剤並みの規制をかけてしまえばいい。そうすれば、結果的に広く著作物の活用を認める権利者だけが成功する理想的な展開となるはず」(白田氏)。各パネリストと対論しながらも一貫した意見を主張する姿勢を受け、終盤には会場から拍手が沸き起こった。
イベントタイトルにあった「2ちゃんねる」については時間の都合上、特に踏み込んだ議論は持たれなかった。自身も2ちゃんねるの「音楽職人」であったというセッションコーディネーターの鈴木氏は「2ちゃんねるにはかつて多くの優れたクリエイターが存在したが、そのほとんどがプロになったとの話を聞かない。そうした現状を踏まえて今回、テーマのひとつに挙げていた」と説明した。
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