GoogleによるYouTube買収、フジテレビ子会社によるワッチミー!TVの開始など、動画共有サービスへの注目は高まっている。しかしその反面、著作権違反などの問題も大きくなっている。11月15日に開催されたイベント「JANES Way Episode2」では、テレビとネットの両業界の識者をパネラーに「激変するメディア、CGMの可能性と未来について」をテーマにしたパネルディスカッションが開催された。
パネラーには日本テレビ放送網第2日本テレビ事業本部エグゼクティブ・ディレクターの土屋敏男氏、フジテレビラボLLC合同会社営業企画部の井上裕基氏、サイバーエージェント アメーバ事業本部マネージャーの一谷幸一氏、データセクション代表取締役でメタキャスト取締役COOの橋本大也氏が顔をそろえた。モデレーターは慶応義塾大学教授・財団法人国際IT財団専務理事の中村伊知哉氏が務めている。
ライブドアによるフジテレビグループ買収、楽天によるTBS買収など、昨今話題となった“放送と通信の融合”だが、中村氏より「現場ではメディアとネットの融合はどう捉えられているのか」という問いかけがあった。
土屋氏は「ここ1、2年はビジネス面で放送と通信の融合が話題になったが、ネットだからこそできる表現をどうするかが忘れ去られているのではないか」とビジネス優先の融合論に警鐘を鳴らしたうえで「新しい技術で新しい表現を見いだしたい。そのために第2日本テレビを立ち上げた」と語っている。そう話す土屋氏は、テレビとネットの媒体としての違いを次のように表す。
「テレビは視聴率を無視できない。ゴールデンタイムにやるなら600万人の視聴者が見て満足してくれるものを提供しなければならない。逆にネットは狭くて深い表現が求められる。また、ネットならば数万人の視聴者でも成立する」(土屋氏)
IT業界出身でありながら現在はテレビ業界に身を置く井上氏は「テレビとネットのそれぞれの良さを理解しながら、両者にメリットのある仕組みを作っていきたい」と、業界の垣根を超えた事業構築に積極的な姿勢であることを強調した。
橋本氏は東京MXテレビで放映されている、ブログを取り上げて紹介する「ブログTV」という番組について話すなかで、テレビとネットのリーチが逆転する事態があると語っている。
「東京ローカル局であるMXテレビは、どのチャネルで放映しているのかすら知らない人も多い。しかし、この番組は放映後に全部の画像をYouTubeにアップロードしている。だから番組を見たいならMXテレビを探すよりYouTubeで見た方が手っ取り早い」(橋本氏)
GoogleによるYouTubeの16億5000万ドル買収ばかりが話題になっているが、「ビジネスとして動画共有サービスとしてはどうなるのか」、中村氏から問いかけがあった。
井上氏はワッチミー!TVについて「ユーザーインターフェースはYouTubeを参考にしているが、運営については彼らの真っ向から逆をやろうとした」と語る。同サービスでは投稿動画をすべてチェックし、違法性がないものだけをアップロードしているという。
「事前チェックをやり切っている、おそらく世界で唯一の投稿サイトだろう。これをやらなければ日本ではクライアントが付かない」(井上氏)
また、「YouTubeが日本でサービスを開始すれば、圧倒的に有利な立場になるだろう。しかし、ワッチミー!TVは事前チェックをやる安全なサイトということで、YouTubeのように数だけではなく“質”を重視する、ユニークなポジションを確保できた」と説明し、チェック後に動画を公開するサービスが単なる事前検閲ではなく、後発企業として戦略的に考えられた手法であることを強調した。
橋本氏は「YouTubeが流行したのは著作権違反、18禁、道徳的にグレーなものなどがあったからという面は否定できない。だが2007年は違法コンテンツを排除していく“クレンジング”の年になるだろう。クレンジングの後にどんなものが残るかが重要だ」と、動画共有サービスの転換点があり得ることを示唆している。
ブログやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、そして動画共有サービスなど、ユーザーの投稿する情報が集積されるCGMが発展し、誰もが情報を発信する側に立てる時代になっている。だが、本当にそうなのか、プロとアマチュアのすみ分けはどうなるのか。
橋本氏は、自分のブログに書いた書評をまとめた単行本を出版したことを紹介し「編集者は600冊分の書評を全部読み、おもしろいもの200冊分をピックアップし、さらにだいぶ書き直してくれた」と語り、ブログを本という“商品”にするためにはプロの編集者が関わる必要があるとした。
土屋氏も「誰もがコンテンツ発信者になれると言われるが、作られたものがコンテンツと呼ばれる水準かどうかは疑問だ。やはりプロのジャーナリスト、プロのエンターテイナーは必要だろう。足で回って記事を書く記者がいなくてはいけない。本当におもしろい投稿ビデオは100万本に1本しかないだろう」と、橋本氏の意見に同調している。
「ただ、30分の面白い番組を作れなくても、15秒の面白いものを作れる人はいっぱいいるかもしれない」(土屋氏)と語り、ネットならではの表現ができるアマチュアの登場にも期待を込めた。
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