ボストン発--「あなたにもっと多くの選択肢を」。これは、米国時間7月30日に開幕したコンピュータグラフィックス会議、「SIGGRAPH 2006」の中で行われた誰でも自由に発言できるパネルディスカッションの中で、デジタル著作権管理(DRM)について質問を受けたソニーの幹部が繰り返し口にした主張だ。
このパネルディスカッションは、会場に集まった参加者たちがソニーのDRMの方針に関する疑問を同社の関係者に直接ぶつける絶好の機会となり、質問者もパネリストも、自らの意見を臆することなく表明した。
パネルディスカッションに参加したソニー幹部はSony Pictures Entertainmentでデジタルポリシーグループ担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるMitch Singer氏で、同氏は音楽や動画、その他の情報をデジタル化して配信することがこれほど容易になっている以上、何らかの形でDRMを用い、音楽や動画などの素材が公正に売買され、著作権が保護されるよう保証する必要があると主張した。
「FairPlayは、Steve Jobs氏にハードウェアを守る力を与え、その力を得たおかげで、同氏ははるかに多くのお金を儲けていると思う。新しいDRMのシステムができない限り、音楽を聴くだけか、コンテンツを購入するか、サブスクリプションモデル(に加わる)か、という選択肢を消費者に与えるには、今のところほかに方法がない」とSinger氏は語った。
「Digital Rights, Digital Restrictions」と題されたこのパネルディスカッションには、Singer氏のほか、Software Freedom Law Centerの弁護士であるKaren Sandler氏、 アニメーション雑誌の「Frames Per Second」誌を創刊し編集者を務めているほか、PC Worldのブログ「Digital World」にも寄稿しているEmru Townsend氏、映画制作を学ぶ学生で、著作権で保護された映画作品の一部を風刺的に改作し、自主制作映画を流すカナダのテレビチャンネル、Independent Film Channelで放映しているRobert Ryang氏が参加していた。しかし、最も多くの質問を受けたのはSinger氏だった。
Singer氏は、ディスカッションの冒頭で次のように話した。「音楽業界はNapsterやMP3.comを見事に閉鎖に追いやった。しかし、今はこう問いかけずにはいられない--彼らと上手に折り合いをつけていたなら、(レコード会社は)もっとうまくビジネスをやっていけたのではないか、と。われわれ(映画業界)は、音楽業界ほど賢く立ち回ってはいないが、幸いにして、帯域幅がわれわれに味方をしてくれている」
Singer氏は、技術の進展によってコンテンツの転送がより簡単になっていることからコンテンツと消費者の力関係が変化しつつあると述べ、こうした現状に対応するソニーの姿勢を何度も強調しようとした。しかし、DRMを支持する主張の大部分には既に慣れっこになっている聴衆は、質問と不満をSinger氏に次々とぶつけた。
まず、聴衆の多くが、ソニーが著作権を保護する手段として「rootkit」がインストールされるソフトウェアを使用したことに怒りを表明した。
これに対してSinger氏は、「わたしはrootkitの話をしに来たのではない。Sony BMG Music Entertainmentの前にもSymantecがrootkitを使っていたが、その時はこのような非難の声はなかった」と釈明した。
ほかにも、出席者からはリージョンコードに対する不満の声があがった。リージョンコードは、世界のある地域で購入したDVDを、他の地域のDVDプレーヤーで再生できないようにするもので、消費者が合法的に購入したものであってもこの規制を受ける。
「あなたたち映画業界は、リージョンコードについて、国によって違う映画の公開日をコントロールするためだと主張するが、20年前、30年前に公開された映画にもいまだにリージョナルコードがつけられている」と、Siggraphのある出席者は不満を述べた。
これに対しSinger氏は、自身もリージョンコードにイライラさせられたことがあるとして、個人的体験を交えながら語った。さらに同氏は、この質問が出た機会をとらえ、コンテンツの相互運用性を支持するソニーの姿勢を説明した。相互運用性とは、映画や音楽などのコンテンツを異なる種類の機器でも再生可能にする取り組みのことだ。Singer氏は、相互運用性に問題があるとしてApple Computerの「iTunes」を批判し、相互運用性はコンテンツの将来にとって鍵になるとの考えを披露した。
「現在のDRMに関する問題は、相互運用性が確保されていない点だ。ユーザーがiTunesでお金を使い果たしてしまったあとで、ソニーやMicrosoftやサムスン電子から新しいプレーヤーが発売されたとしよう。(中略)他社のプレーヤーを買っても自分の購入したコンテンツが転送できないと知ったら、こうしたユーザーは怒り出すと思う。コンテンツは保護しなければならないが、転送できるようにすべきだ」とSinger氏は述べた。
DRMに対するSinger氏の主張の要旨は、DRMは、コンテンツの利用方法について消費者の選択の幅を広げるものだということだった。
「DRMによって、消費者に新たな選択肢を提供できると考えている。製品にもよるが、消費者が映画を見るだけなら、その価格は1.99ドルくらいだが、映画を手元に置いておきたいのなら、その価格は9.99ドルくらいになる、といった形だ」とSinger氏は述べた。
しかし、Townsend氏とSandler氏の2人は、次の2点をSinger氏に指摘した。1つは、相互運用を実現しているDRM以外の技術モデルがすでに存在していること、もう1つは、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に関する問題だ。DMCAは著作権、およびそれを保護する仕組みを守るものだが、たとえ保護の仕組みが米著作権法で許された公正使用(フェアユース)を妨げていたとしても、仕組みの側を守るよう定められている点において、行き過ぎた規制を行っている可能性があると両氏は主張した。
「DMCAによれば、私的利用目的で著作権物のコピーを作ってもよいと裁判所が認めても、そのためにコピー防止コードを解読するのは違法ということになる」とTonwsend氏は指摘した。
Sandler氏も、「わたしはDRM技術に大きな不信感を抱いている。その理由の1つは、現行のDRMが著作権法を順守すると言いながら、パロディや報道や教育など、著作権法で定められた合法的利用を妨げているからだ。(DRMは)合法的利用にまで拡大して適用されている。現状のままDRMによる規制が続くなら、保護期間が切れてパブリックドメインになるはずの公共の素材も、DRM技術による保護が働き続け、いつまで経ってもパブリックドメインにならない。また、DRMにはプライバシーとセキュリティを脅かす危険性がある」と指摘した。
これらの意見に対しSinger氏は、大学生などの「お金はないが時間のある人」による著作権侵害行為はこれからもなくならないだろうと認めつつ、ソニーの目的は、コンテンツを扱いやすく、納得のいく価格にし、社会人として働く一般の消費者が他の方法に乗り換えない程度の制限を設けることだと述べた。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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