デジタルガレージ主催の「ニューコンテクスト カンファレンス 2005」が8月30日、都内にて開催された。同社設立10周年を記念したこのイベントは今回が2回目となる。キーノートスピーチを行ったデジタルガレージ共同創業者 顧問の伊藤穣一氏は、この10年を振り返り、インターネットにおいて何が重要なのかを語った。
同氏は、インターネットの本質として一番重要なのは、オープンであることだという。つまり、どこでも接続可能で、さまざまな情報を引き出せるということだ。それが現在、「例えばインスタントメッセンジャー(IM)などは、大企業が顧客を抱え込みたいために各社独自仕様で開発し、つながらなくなっている」と指摘する。ただ、Googleが先週発表したIMの「Google Talk」はオープンソースのJabberベースで開発されており、「再びオープンな技術を採用する動きが見られつつある。こうした動きはこれからも活発になるだろうし、そうあるべきだ」と伊藤氏は述べている。
デジタルガレージの伊藤穣一氏。自らもブログを使って情報発信している |
また伊藤氏は、コミュニティの重要さやリソースを共有することの大切さについても語った。現在、企業では特許や知的財産を守ることが最重要課題となっており、企業間で共同開発する場合でもクロスライセンス契約を交わした上での開発が前提となっている。しかし、伊藤氏は「インターネットの現状を見ていると、企業以外の場所でさまざまなものが生まれている。Linuxはその典型で、コミュニティ内で開発し、すべての人で共有して使おうという考えだ。コミュニティで生まれたものが、共有されて成功している」とした。
Linux以外にも、コミュニティで作られた情報が共有されている例として、伊藤氏はブログやWikipediaを挙げた。同氏によると、ブログやWikipediaでコンテンツを作成する人たちは、お金が欲しくて書いている人などなく、「自分が発言する場が欲しいためにブログを書き、コラボレーションして百科辞典を作り上げたいという気持ちがWikipediaを作り上げている」としている。それが重要な情報源となり、「特にアメリカでは、Wikipediaがロイターやワシントンポストなどのメディアよりもトラフィックの多いコンテンツソースとなっている」という。
また、同氏は次のように警告する。「大企業が消費者に対して、何かを売りつけようという考えは失敗しがちだ。もちろん大企業の中で開発しなければならないものは多い。だがPeer Production(仲間同士での開発)や、人と人との共有を圧迫してはならない」
ブログの影響力は無視できない
デジタルガレージは、グループ会社にブログ検索のテクノラティジャパンを加えたが、それもブログが世間に与える影響力が無視できないものだという観点からだ。
伊藤氏は、「マスコミもブロガーの声を聞くことが重要になってきている」と述べている。それは、事件などの際、マスコミで報道されるより前に、現場にいるブロガーが先に情報を流せるほか、専門的な見解を持っている人たちがブロガーとなるケースも多いからだ。実際、7月7日に起こったロンドンのテロ事件では、マスコミで記事が出る前にブロガーの記事が多く掲載されていたという。
また、ブログが重要度を増している背景として、「ブログの場合はきちんととした意見を書かなければ、コメントやトラックバックで反論されたり間違いを指摘されたりする。そのためブロガーは、ある程度責任を持って発言しないと生き残れない」と述べる。つまり、マスコミに対するブロガーの意見も、これまでのように一方的に編集部にメールや手紙でフィードバックするケース以上に参考となる意見が多いのだ。
伊藤氏によると、Googleでの検索は、図書館のインデックスを調べているようなものだとしている。それが、ブログを検索すれば時間軸で何が起きているのかすぐにわかるのだ。さらに、テクノラティではブログ同士が互いにリンクしている情報まで検索できるため、「どのブログが話題となっているのか、またそれがどう影響しているのかもよくわかる」としている。米Technoratiでは、思いついた言葉を並べて自動的にカテゴリを作る「タグ機能」が実装されており、「こうした機能でブロガー同士は互いにリンクしあい、関連性の高い記事を探すことも容易となっている」と伊藤氏は述べた。
最後に強調したのも、やはりオープンであることだ。同氏は、Web2.0と呼ばれる次世代ウェブに取り組む企業でも、「成功しつつあるのは、たいていオープンソースで開発し、周りの人たちとつながっている」とした。また、インターネット業界でも大企業が増えているが、「面白い技術やアイデアは小さな会社からでも多く生まれてくる。これからの10年は、ボトムアップで小さな企業がだんだん育ってくる時代になるのではないか」と述べた。
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